文=鈴木元/Avanti Press

第91回キネマ旬報ベスト・テンの第1位映画鑑賞会と表彰式が2月12日(月・祝)、東京・文京シビックホールで行われた。米アカデミー賞よりも古い歴史を誇る映画賞で、トロフィも約5キロと最重量級。今年は、抽選でチケットを手にしたdmenu映画読者も初参加。司会の笠井信輔アナウンサーが「世代間であるバトンの受け渡しが行われた気がする年」というように、2017年の日本映画界を代表するベテラン、若手の受賞者が、その重みをかみしめ、会場を沸かせたスピーチなどを堪能した。

右はアカデミー賞で衣装賞を受賞したワダ・エミさん制作のトロフィ

表彰式に先立ち、『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』、『わたしはダニエル・ブレイク』、『人生フルーツ』の日本映画、外国映画、文化映画の各1位作品(作品賞)を連続上映。先頭のファンはなんと当日の午前1時に並んだそうで、開場時には約400人が列をつくる盛況ぶりだった。

キネマ旬報本誌を真ん中に、左上から時計回りに『わたしはダニエル・ブレイク』
『人生フルーツ』『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』

普段は日本映画しか観ないという20代の女性は、『わたしはダニエル・ブレイク』に感銘を受けた様子で、「いろいろな種類の映画を観ることができて、貴重な機会となりました」とうれしそうに語る。日本映画3位の『あゝ、荒野』のボクシングシーンにエキストラとして参加したことから応募し、「(菅田将暉らの)話を直接聞くと別の感慨があり、もう1度観たくなりました。ほかの作品で賞を取られた方の思いも聞けたので、その作品も観たいと思います」と、より映画に興味をひかれた様子だ。

“3冠”達成の『あゝ、荒野』組であわやのキス!?

その『あゝ、荒野』は菅田将暉が主演男優賞(『帝一の國』など3作品を含む)、ヤン・イクチュンが助演男優賞、岸善幸監督が読者選出日本映画監督賞の“3冠”を達成。

読者選出日本映画監督賞を受賞した岸善幸監督と、助演男優賞受賞のヤン・イクチュン 撮影=伊藤さゆ

菅田は、アニメ『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』の声の出演を含め、6本の映画に出演。大河ドラマ「おんな城主 直虎」では後半の主役といってもいい井伊直政を演じるなど多忙を極めた。その2017年を「自分で決めてやろうと言ってやったことなので、まあ、そうなるわなという1年だった」と自嘲気味に振り返り、会場の笑いを誘った。

主演男優賞受賞の菅田将暉 撮影=伊藤さゆ

それでも、「まだまだ知らないこともたくさんあるので、1シーン1シーン、1カット1カット、俳優部としてしっかりやっていきたい。体も元気なので、倒れる前まではやっていきたいと思う」とさらなる意欲を見せる。

2010年日本公開の『息もできない』で外国映画部門を総なめにしたヤンも、表彰式のために来日し「『あゝ、荒野』が映画の歴史に記録されたことを実感し、私の名前もその1ページに残される喜びをかみしめている」と感慨深げ。菅田とキスをするしぐさを見せると、客席からは歓声と悲鳴が響いた。

キスをするしぐさを見せる菅田とヤン(右) 撮影=伊藤さゆ

こちらも“3冠”『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』

『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』も作品賞など3部門を制し、新人女優賞の石橋静河は「役を全うできる役者になりたい。どうすればできるのかはまだ分かりませんが、人の痛みが分かる人になれるよう精進します」と決意表明。脚本賞の石井裕也監督が、「本質が見えたということでしょう。芝居は本質に近づくことなので」と称えた。

脚本賞受賞の石井裕也監督と、新人女優賞受賞の石橋静河 撮影=伊藤さゆ

主演の輝きを放つ『彼女がその名を知らない鳥たち』蒼井優

『彼女がその名を知らない鳥たち』で主演女優賞の蒼井優は、京都で舞台「アンチゴーヌ」の千秋楽を終えてから駆け付けた。2006年『フラガール』などでの助演女優賞以来、11年ぶりの受賞で「11年前からどれくらい成長しているか、やりたい役者像の何%まできたかと思ったら、正直2%くらい。これからも素晴らしい人たちに手を差し伸べていただいて、あと98%を頑張りたい」と笑顔で話した。

主演女優賞を受賞した蒼井優

『がんばっていきまっしょい』の少女が母に!? 田中麗奈

『幼な子われらに生まれ』で助演女優賞の田中麗奈も、『がんばっていきまっしょい』で新人女優賞を受賞以来、実に19年ぶりの晴れ舞台。「(この賞に)映画の道を切り開いてもらったことを年々に感じていたので受賞は本当にうれしい。夫の浅野忠信さんらと“家族で頑張ったで賞”として、喜びを分かち合いたい」と感激の面持ちだ。

助演女優賞を受賞した田中麗奈

「がんごときで、誰が死ぬか!」と『花筐/HANAGATAMI』大林宣彦監督

とりわけ大きな拍手が送られたのが、『花筐/HANAGATAMI』で日本映画監督賞に輝いた大林宣彦監督。肺がんで余命3カ月と宣告され、抗がん剤治療を受けながら完成させた渾身の一作。既に次回作の準備に取り掛かっている80歳は、「あと30年は映画を作る。がんごときで、誰が死ぬか!」と高らかに宣言し、強い印象を残した。

笠井アナウンサーから、大林監督が早めに会場に到着して『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』を観たことが告げられると、後ろに座っていた石井監督は小刻みに頭を振った。

日本映画監督賞を受賞した大林宣彦監督

映画賞の表彰式に出席すると映画がさらに面白い!

表彰式を楽しんだ女子高生、中学生の2人組は、「映画の世界に入ったというか、有名な俳優さんたちが出てきてビックリした。生は全然違うな、きれいだなと思いました」と興奮気味。ロビーでは、高校生と母親の親子連れが飾られていたトロフィを持って「重い」と言いながら“自撮り”するなど、それぞれの楽しみ方をしている光景が見られた。

トロフィを持って写真に収まる参加者の皆さま

映画賞の表彰式は、その年の映画業界を凝縮した舞台といえる。そして、そこに参加することで、先述の女性のように新しい映画との出合いも生まれる。

左からヤン・イクチュン、蒼井優、菅田将暉、田中麗奈、石橋静河
新人男優賞を受賞した山田涼介は仕事の都合で欠席

まずは各賞に選ばれた2017年の作品をDVDなどで観比べ、映画賞ごとの傾向を検証してみるのも一興かもしれない。そして2018年、既に発表されているラインナップの中から、どんな作品が注目され、評価されるのかを、それぞれの観点で予想してみても楽しい。いずれにしても、まずは映画館に足を運んでみてはいかがだろうか。