文=河合宏之/Avanti Press

『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『心が叫びたがってるんだ。』などのヒット作を手掛け、繊細にして大胆な人物描写でファンの心をつかんできた脚本家・岡田麿里。2月24日より公開される『さよならの朝に約束の花をかざろう』は、彼女が初監督として「作りたいもの」を具現化した作品だ。

数百年の寿命をもつイオルフの民の少女マキアと、親を失ったごく普通の赤ん坊エリアル。異なるときの流れの中に生きる二人の絆は、時代とともに変化に迫られていく。描かれるのは、「出会い」や「別れ」といった人が持つ普遍的な気持ち。多くの世代に共感を生む物語はどのように生まれたのか。公開を間近に控えた岡田麿里監督にお話を伺った。

立場で変わりゆく関係性

岡田麿里監督

――物語を着想したきっかけをお聞かせください。

時間の経過や所属によって、人の関係性が変わることってよくあると思うんです。子どもの頃に仲が良かった友人同士が、大人になって交わらなくなるのはなぜなのか……。時間によって変わっていくものと、それでも変わらないもの。今までもTVアニメで取り組んだことのある内容でしたが、もう少し掘り下げてみたいと思ったんです。

――マキアが赤子のエリアルを見つけたことで、物語は動き出します。

恋人や結婚相手は一人の人間ですから、究極的には守らなくてもなんとかなるじゃないですか? でも赤ん坊は絶対に守らなければ生きていけない存在ですよね。一人ぼっちだったマキアは、自分がいなければ失われてしまう対象としてエリアルを求めていた。でもエリアルは成長することによって、守らなくても生きていける存在になってしまう。マキアの中には、その葛藤が強くあるんです。

――2人の関係性は、とても切なく感じますね。

守りたい気持ちは変わらない。でも時代が進み、状況や役割が変わっていくとどうなるのか……。印象的には、親離れ・子離れの物語と映るかもしれません。でも、自分が自分であろうとするために、拠り所を探していく。何かと出会っていく物語なのかなと。それはマキアとエリアルだけではなく、レイリアや他のキャラクターたちにも言えることですね。共感していただけたらとても嬉しいのですが、共感できないキャラクターが出てくるのも嬉しいですね。

アニメのワクワクを感じたい

マキア(左)と幼いころのエリアル(右)

――とても現実的なテーマですが、世界観がファンタジーということに驚きました。

「もし1回だけ監督ができるなら、どんなことがやりたいんだろう」と思ったとき、自分が子どものころに見たような、ワクワクするようなアニメ映画が見たいと思ったんです。アニメでしか味わうことのできない、映像の快感というか。「それならファンタジーでやってみたい!」という思いが強く湧き上がりまして。そこに現実的にも身近にある、人と人との関係性の物語を組み合わせたら、挑戦になるかもしれないという気持ちもありました。

――本作では初監督に挑戦されたことも話題となりました。

「監督が脚本を担当した」というより、「脚本と監督を担当した」という意識が強いです。もし監督が脚本を兼任されるなら、自分の抱く映像世界を足掛かりにして作品を動かしはじめることができるのかもしれません。ですが私は脚本家ですから、まずは文字。脚本を書いて、そこで自分自身が納得できなければ先には進めないんです。なので、シナリオ打ち合わせもきっちりやって、自分自身も脚本へのダメ出しは妥協しませんでした。

「負けるもんか」という気持ち

成長したエリアル(右)

――監督という仕事の難しさは?

脚本なら読んでもらえばわかるのですが、監督の仕事で重要なのは「言葉でみんなに指示を出す」こと。頭の中に絵のイメージがあったとしても、「扉は内開きか、外開きか?」「壁はどんな材質なの?」というように、より具体的な形にしなければなりません。でも言葉を探して悩んでいると、スタッフのみんながいっぱい一緒に考えてくれて。想像もできなかった結果に辿り着けるのは楽しかったですね。

――監督の仕事の良さは、どんなところだと感じましたか?

脚本家の作業は一人でやることが多く、作業的にもイチ抜けです。でも今回は監督として現場にいられることもあって、あとで思いつくアイデアも多かったですね。それこそ屋上でグダグダとしゃべっていたら思いついたこともあります。作品にずっと寄り添っている感覚がありました。

――初監督作品を作り終えた感想をお聞かせください。

青春感がありましたね(笑)。脚本家を20年やってきて、さすがに最近は怒られることも減ってきたのですが、監督としてはド素人です。いろんな人に怒られて「負けるもんか! わー!」みたいな気持ちを久々に思い出しました。それと同時に、スタッフへの信頼を強く感じました。脚本家の初監督作品に付きあってくれて、しかも熱意をもって向きあってくれて。作品自体もとても好きなんですが、それと同時に過程やスタッフも大切な作品になりました。