“1か月の出来事を74分間、ワンカットで撮影した”そんな映画があると思いますか?

74分間のワンカット撮影を、ドキュメンタリー映画ならまだしも、フィクションでやってのけてしまった……そんな、不可能に思える異業をやってのけてしまったのが、3月3日公開の『アイスと雨音』です。

主要キャストは中高生、劇伴は生演奏、そして全編一発撮りの衝撃

『アイスと雨音』は、初舞台に情熱を燃やす少年少女6人が、突然の公演中止によって行き場のない感情を抱えたまま葛藤する姿を描いた青春ドラマ。メインキャストは、演技経験不問のオーディションで400人の中から選ばれた中学生と高校生の6人。さらに劇中の随所で2人組ラップバンド「MOROHA」による生演奏が繰り出され、作品にエモーショナルかつ独特なグルーヴ感を与えています。

(C)「アイスと雨音」実行委員会

キャストに演技未経験の学生、さらに劇伴は生演奏と、これだけでも十分常識外れの本作ですが、やはり最も意欲的なポイントは、74分をワンカットの「長回し」で撮りきったところにあります。

そもそも「長回し」を行う意味って何?

「長回し」とは読んで字のごとく、カットを入れずに長時間カメラを回す撮影技法のこと。長回しを行えば当然、役者やスタッフはおいそれとNGを出せない緊張感が強いられますが、その緊張感が、観るものを、作品の中にどんどん引き込んでいきます。“必殺技”的なところもあり、通常は、ここぞというタイミングで、使われてきました。

例えば、オーソン・ウェルズはクライム・ドラマ『黒い罠』(1958年)で、映画の冒頭に、いきなり3分18秒の長回しを挿入。何者かが車のトランクに爆弾を設置するところから始まり、車の行方を追うこの長回し、観客はいつ爆弾が爆発するのかとドキドキし、知らぬ間に映画の中へと没入していきます。

また長回しには、“物語の時間の進み方=観客の時間の進み方”という特徴も。セバスチャン・シッパー監督のサスペンス『ヴィクトリア』(2015年)は、1人の女性が成り行きで、銀行強盗に加担していく一夜の出来事を全編ワンカットで撮影。観客はまるでその女性と行動を共にしているような臨場感を得られます。

1か月を74分間に凝縮! 「長回し」の常識すら打ち破る

(C)「アイスと雨音」実行委員会

『アイスと雨音』もこれらの作品と同様、初舞台を目指す若者たち6人と、まるで同じ稽古場にいるかのような感触を味わえます。しかし、本作が異例なのが、1か月の時の流れを74分間のワンカットで撮っているということ。不可能に思えるこの試みですが、室内でのシーンの間に屋外のシーンを入れることで、時間の流れを上手く表現。「長回し」の常識すらも本作は、打ち破ってしまっているのです。

全編を長回しで撮影するというチャレンジングな本作ですが、作品が生み出された背景には、メガホンを取った松居大悟の“怒り”があります。実は松居監督自身も、実際に舞台を上演中止に追い込まれる体験をしており、「本作は、舞台のように途中で中止にはしたくなかったので、カットをかえなかった」と、映画の舞台挨拶の際に明かしています。

登場人物たちの心境の変化や、彼らが抱えるやるせなさや怒りが、まるで自分のことかのようにダイレクトに伝わってくる本作。自らの意思を表現するために、決まりはないのだと、本作は改めて教えてくれているのかもしれません。

(文/バーババ・サンクレイオ翼)