「いや、ぜんぜんです。勢いがあるどころか“遅延”してますよ。ちょうど昨日の電車みたいに(笑)」

大雪のため首都圏の交通網が大混乱したその翌日。吉村界人は取材の席で、2014年のデビューから現在までの自身の4年を、そんな独特のワードチョイスで表現した。

俳優・吉村界人25歳、『キネマ旬報』初登場。ではあるのだが、この4年の間に出演した作品は、『百円の恋』(2014年)『ディストラクション・ベイビーズ』(2016年)『関ヶ原』『ビジランテ』(共に2017年)に去年のヒットドラマ「僕たちがやりました」「わにとかげぎす」等々と、映画、ドラマを取り混ぜ、途切れることなく数知れず。しかも、どんなに小さな役であっても素通りできない妙な引っかかりを、吉村は例外なくこちらの心に残してきた。そのうえ主演作も、デビュー作『PORTRAIT ポルトレ』を含めてすでに5本。そんな次代を担う若手の中では断トツの“勢い”に圧倒され、どうにも目が離せなくなっている人も多いことだろう。にもかかわらず本人は、“停滞”を通り越して“遅延”だとまで言う……。

この不思議な感覚についてはまた後ほど触れるとして、まずは吉村の現在の勢いを物語る最新作『悪魔』(2018年)の話から入っていくことにしよう。公開中の主演映画『サラバ静寂』(2018年)から間髪を入れずに公開される、吉村界人、5本目の主演映画である。

撮影:村上宗一郎

「この映画は谷崎潤一郎の同名小説を原案としたものですが、お話をいただいた瞬間“谷崎をやるんですか!? ”と、まずそこに飛びつきました。昔から谷崎潤一郎の小説が好きだったので。『春琴抄』に『痴人の愛』といろいろ読んできましたが、谷崎作品の男はたいてい弱い立場で女が強い。僕自身はそういう男に共感できるわけではないし、自分ともかすらないんですが、だからこそかな? おもしろいと思えるのは。あと、品があるところも好きですね」

映画『悪魔』は、3人の映画監督が各々描きたい谷崎作品を選んで現代劇として甦らせた『TANIZAKI TRIBUTE』の中の一本。吉村演じる大学生の佐伯が、下宿先の大家の娘である小悪魔的な照子(大野いと)に心を惑わされ自我が崩壊していく過程を描きながら、人間の心の暗部に迫った作品である。

「まず顔合わせのときに、“結局、悪魔とは照子なのか佐伯なのか、はたまた照子を偏愛する親戚の鈴木(前田公輝)なのか?”と、監督、大野さん、前田さんで話したんですが、皆それぞれに思うことが違って。僕は、大学にも馴染めずアルコールに溺れて幻覚にも苦しむ佐伯の心の中に巣くっているものだと解釈していたんですが、そのうえでもう一度、谷崎作品を何作か読み返して谷崎が何を描きたかったのかを考えたりしました。あと、僕もこの仕事を始める前に佐伯のような時期があったので、その頃のことを思い出したりとかもしていましたね」

「TANIZAKI TRIBUTE『悪魔』」 2018年・日本・83分 監督:藤井道人 脚本:山口健人 出演:吉村界人、大野いと、前田公輝、遠藤新菜、山下容莉枝 配給:TBSサービス◎2月24日よりテアトル新宿ほか全国にて (C)2018 Tanizaki Tribute製作委員会

取材・文:塚田 泉/制作:キネマ旬報社