第70回カンヌ国際映画祭でグランプリに輝き、その後も世界各国の映画祭で絶賛されている『BPM ビート・パー・ミニット』(3月24日より公開)。HIV/エイズに対して誤った知識や偏見が持たれていた1990年代初頭のパリを舞台に、生と死の狭間で揺れ動く若者たちの姿が、ドキュメンタリー映画さながらの緊張感あふれる映像で綴られています。そんな本作の公開にちなみ、エイズにおかされ、迫り来る死の恐怖にさらされながらも、壮絶な愛に生きたさまざまなカップルの姿を振り返ります。

エイズ発見当時の社会の混乱を赤裸々に伝える『ロングタイム・コンパニオン』

1本目は、HIV/エイズの存在が発見され、次第に蔓延していく1980年代のアメリカを舞台に、ゲイ・コミュニティの9年間の移り変わりを綴った『ロングタイム・コンパニオン』(1990年)です。

1981年、ゲイの友人同士でビーチハウスを借りて休暇を満喫しているところに、ニューヨークタイムズ紙にある衝撃的な記事が掲載され、彼らの間でもそのニュースで持ち切りになります。その記事の内容とは、「41人のゲイの男性から珍しいガンが見つかった」というもの。

しかし、治療法はもちろん、感染の原因すらよくわからないという時期で、新聞やテレビを通じて憶測交じりに広がるニュースは、多くの人々を恐怖の底へと陥れました。仲間が次々と病に倒れていく中、感染への恐怖から仲間に触れることさえ拒んだり、あからさまな差別によって仕事や住まいを奪われたりしていく様子が年代順に描かれていきます。

ちなみに、タイトルの「ロングタイム・コンパニオン」とは、エイズの症状が悪化したパートナーを引き取り、献身的に介護して看取った男性を示す言葉のこと。新聞のお悔やみ欄に掲載する際、故人との関係を新聞では「恋人」とは書けないだろうと判断したことから、苦肉の策として仲間内で考えた遠まわしの表現だったのです。

そんな言葉からも、当時の混乱や葛藤が伝わってくる本作。『BPM ビート・パー・ミニット』と併せて観ることで、より一層理解が深まる1本です。

監督・主演を務めたシリルが公開中に他界したセンセーショナルな『野性の夜に』

2本目は、実際にエイズに冒されていた作家でシンガー・ソングライターでもあったシリル・コラールが、半自伝的小説をもとに自ら監督・脚本・主演を務め、音楽まで手掛けた映画『野性の夜に』(1992年)です。

シリルが演じたバイセクシャルの男性・ジャンが、HIVに感染していることを告白せぬまま17歳の少女・ローラと肉体関係を持つというセンセーショナルな内容もさることながら、映画の公開中にシリルが35歳の若さでこの世を去り、遺作となったことでも世の中に衝撃を与えた本作。

愛し合った相手がHIV感染者であることを後から知らされ、その不誠実さにショックを受けパニックに陥りながらも、「愛は死を超える」とばかりにひたむきに愛を求めて半狂乱になっていくローラを、ロマーヌ・ボーランジェが全身全霊で演じたことでも話題となりました。

シリルの死の3日後に開催された第18回セザール賞では、監督不在の哀しみの中、『野性の夜に』は作品賞ほか主要4部門を受賞し、ロマーヌも有望若手女優賞を獲得。そんな伝説的な映画として今なお語り継がれている作品です。

行きずりの関係に身を任せ、刹那的に生きてきたジャンが、純粋無垢なローラを巻き込んでいく様は、あまりにも無責任で身勝手すぎる行動にも映ります。ローラの壮絶すぎる愛にひるみながらも、死を目前にして初めて真実の愛を知っていく姿は、現実のシリルの人生と重なり合い、観る者に鮮烈な印象を刻みつけることでしょう。

役者からエネルギーがほとばしる様をエモーショナルに描いた『BPM ビート・パー・ミニット』

そして、最後にご紹介するのが、3月24日から劇場公開となる『BPM ビート・パー・ミニット』です。

1990年代初頭、HIVの脅威が広がるなか、政府や製薬会社の無責任な対応に業を煮やして闘った実在の団体「ACT UP-Paris」の若者たちの活動を、ダンスミュージックにのせてエモーショナルに描いた本作。まるでドキュメンタリーかと見紛うほど、演じている俳優たちの生き生きとした表情や、全身からほとばしるエネルギーが、スクリーンに満ち溢れています。

というのも、当時、同団体のメンバーだったロバン・カンピヨ監督が、自身の体験をもとにストーリーを構築するにあたり、9ヵ月も掛けてじっくりオーディションを行い、それぞれのキャラクターにもっとも合う俳優を選んだというから、その確かな審美眼がこの作品の肝となっているのです。

なかでもひときわ異彩を放っているのが、HIV陽性という現実を抱えつつも、グループの中でもっとも政治的でカリスマ性も併せ持つショーンに扮するナウエル・ペレーズ・ビスカヤート。そして、そんなショーンの魅力に惹かれていく新メンバー、ナタンを演じたアルノー・ヴァロワの二人です。死への恐怖に抗うかのように、互いを求めあう彼らのダイナミックかつ繊細な名演なくしては、この作品の魅力は語れません。

治療薬の開発がなかなか進まないなか、みるみるうちに病魔に蝕まれていくショーンと、精一杯の愛で彼を支えようとする健気なナタン。倫理観を問われるようなシーンも登場するのですが、当時のどうにもならない閉塞的な状況を考えると、正しいか正しくないかだけでは判断できない、複雑な思いに駆られます。

HIV感染者やエイズ患者の数は減少しているわけではありませんが、いまでは治療薬も見つかり、病をめぐる状況も大きく変化しています。エイズが不治の病と言われていた時代に、死の恐怖にさらされながらも生きた証を残すべく、それぞれが貫いた愛の形。いずれも、ぜひスクリーンやDVDでしっかりと見届けてほしい作品です。

(文/渡部喜巴@アドバンスワークス)