カナダで最も愛された女性画家、モード・ルイス。身近な風景や草花、動物をモチーフに、原色を中心に描かれる彼女の絵は、日本ではほとんど無名ながら、オークションでは1点500万円以上の値が付くこともあります。そんな彼女の知られざる生涯を、美しい映像で綴った映画『しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス』が、3月3日より公開されます。

カラフルな色合いで描かれる猫や牛の絵が放つ、無敵のハッピーオーラ

かくいう私も、今回この映画でモードの存在を知った一人です。モードの絵には、眺めるだけで、ささくれ立った心も一瞬にして癒されるほどの、有無を言わさぬハッピーオーラが宿っています。

赤や緑、青といったカラフルな色合いで描き出される日常の1コマや、こちらをまっすぐ見つめる猫や牛たちの姿があまりにもキュートで、すっかり心を鷲掴みにされてしまいました。

そんな無敵のハッピーオーラの秘密は、少女のように繊細な感性を持ったモードと、無骨だけれど、優しい心根を持った夫エベレットとの固く結ばれた夫婦の絆にあったのです。

モードの才能を開花させたのは、夫のエベレット

物語の舞台は、カナダ東部のノバスコシア州。両親を相次いで亡くし、束縛の厳しい叔母の家で暮らすモードは、ある日買い物中に家政婦募集の広告を掲示板に貼り出した男性を見かけ、「住み込みの家政婦になろう!」と決意。魚の行商をしながら、家政婦募集をしていた街はずれで暮らすエベレットの家を訪ねます。

子どもの頃から重いリウマチを患い、親族から厄介者扱いされてきたモードと、孤児院で育ち、まともな教育も受けられなかったエベレットは、家政婦と雇い主という形で一緒に暮らしはじめるものの、互いにぶつかってばかり。

しかし、エベレットに認めてもらうため、必死で鶏をさばきシチューを作ったモードの思いに心動かされたエベレットは、いつしかモードのいる生活に馴染んでいきます。

ある日、壁のペンキを塗り直していたモードが、壁や家具に花や鳥の絵を描き始めるのですが、この場面でのポイントは、モードに家中にいきなり絵を描かれても、エベレットは「こっち側には描くなよ」と言った以外、自由にさせたこと。「家事さえしっかりやれば問題ない」というエベレットの感性が、モードの才能を開花させたと言える重要なエピソードです。

モードが大切にしたのは「好きな人と、好きな絵を描いて暮らすこと」

その後、たまたまニューヨークから避暑に来ていた女性が、モードが壁に書いたニワトリの絵を見てその才能を見抜き、絵の創作を依頼したことをきっかけに、モードの画家としての人生が一気に動き出します。モードの絵は雑誌やテレビで取り上げられ評判となり、小さな家には観光客が押し寄せ、いつしかアメリカのニクソン大統領から依頼が舞い込むまでになるのです。

しかしモードとエベレットは、有名になった後も変わらず小さな家に住み、つつましやかな生活を続けます。「ただ描きたいから描くだけ」と言う純粋な気持ちで描かれたものが、誰かの目に留まり、それを仕事にできることに喜びを感じたモード。そんな彼女が何よりも大切にしたのは「好きな人と、好きな絵を描いて暮らすこと」でした。

最初は横暴だったエベレットも、徐々に心を開いていき、モードを妻として正式に迎え、不器用ながらも家事と営業を担当し、モードが絵の創作に集中できるように献身的にサポートしていきます。イーサン・ホークが演じたエベレットのツンデレぶりにも、ぜひ注目してください。

エベレットは時々すねたり怒ったりしながらも、誰よりもモードの理解者であり続け、二人は生涯を共にします。この二人を見ていると、本当に満ち足りた人生とは何なのかと考えさせられます。自分の気持ちに素直に創作を続けることの大切さと、それを支える夫婦の絆。モードの絵が放つハッピーオーラを、ぜひスクリーンで感じてみてください。

(文/渡部喜巴@アドバンスワークス)