第90回アカデミー賞最多の13部門でノミネートに輝いたギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・ウォーター』(3月1日公開)。日本の怪獣やアニメ好きで有名なデル・トロ監督が、1962年の米ソ冷戦下におけるアメリカを舞台に、半漁人のようなクリーチャーと口のきけない女性が織りなすラブストーリーを描いた話題作です。

クラシック、ミュージカル、ファンタジー、サスペンス、ラブストーリー、コメディとあらゆるジャンルをこえた傑作と呼び名の高い本作。今回は、来日したデル・トロ監督にインタビューを行いました!

マスターベーションシーンに秘められた想い

Q:『シェイプ・オブ・ウォーター』を作るにあたり、“大人の恋愛”をテーマにした理由を教えて下さい。

私たちがよく聞いたり読んだりするおとぎ話のなかに、自然なセクシュアリティや愛を探すことは難しいと思います。例えば、「美女と野獣」では、美女はイノセントでピュア。一方で、野獣は王子様に変身することが求められます。それで二人はやっとハッピーになれますよね。

 イライザ(サリー・ホーキンス)とクリーチャー(ダグ・ジョーンズ)が初めてセックスをする直前に、クリーチャーは自分の本性を現します。でも、ありのままのクリーチャーをイライザは受け入れて、愛を交わす……。お互いの存在をすべて受け入れるだけで心が満ち足りる愛を描きたかったんです。

そして、この“美女”にもっと自然な女性のセクシュアリティを与えたかった。20代のモデルのような非現実的なセクシュアリティではなく、普通の女性のものをね。イライザのマスターベーションのシーンにはこのような想いが込められています。

「大きな恐れ」のなかで生きている現代ーーSNS社会で感じてほしいこと

(C)2017 Twentieth Century Fox

Q:確かに、いままでに見ない形のラブストーリーですよね。どうしていま、ラブストーリーを描きたかったのですか?

SNSで多くの人とつながっているような錯覚に陥りますが、実は、私たちは社会で孤立しているのでは? 誰もが大きな“恐れ”のなかで生きているような気がします。自分の心をオープンにする“恐れ”や、人と直接結びつく“恐れ”が、皮肉や、すかしたユーモアという形でSNSに氾濫しています。

人と人との心のつながりをこの作品からは、感じてほしい。頭で考えるのではなく、愛を感じてほしいと思ったから、ラブストーリーといった形を選びました。

青、緑、赤――作品の「色」から伝えたかったこと

(C)2017 Twentieth Century Fox

Q:物語全編に見る色彩が素晴らしく、青、緑、赤のコントラストが美しかったです。この作品の色にはどういう意味があるのでしょう?

本作の色は、“時”を示しています。イライザのアパートの壁紙や水は青、イライザの友人ジャイルズ(リチャード・ジェンキンス)の部屋は暖かな夕日のようなオレンジ系の色で統一しています。クリーチャーとイライザが出会うシーンでは、クリーチャーは赤い血を流し、イライザは赤い服を身につけています。そして、未知の世界へといざなうイライザの部屋や映画館の“扉”も赤。ストリックランドのキャンディや車、研究所や誰も食べたがらないキーライムパイなどには緑を使っています。

1962年当時のアメリカはソ連との冷戦下で“未来”に固執していた時代でした。だから、ストリックランドやホフステトラー博士(マイケル・スタールバーグ)は、“未来”のことしか頭になかった。

そういった“未来”を象徴するものには緑を、“現在”に生きているイライザとクリーチャーには青、髪がふさふさとしていた“過去”をひきずっているジャイルズにはオレンジ(笑)。そして、“生”や“愛”のシンボルとして赤を使っています。

(C)2017 Twentieth Century Fox

カメラワークと音楽で「感情の動き」と「時の流れ」を表現したかった

Q:音楽担当のアレクサンドル・デスプラがアカデミー賞作曲賞にもノミネートされましたね。世界で人気の映画作曲家であるアレクサンドルを起用した理由は?

アレクサンドルとは『ガーディアンズ 伝説の勇者たち』(2012年)をプロデュースしたときに一緒に仕事をして、彼の楽曲がとても気に入っていました。彼の曲には“感情の動き”を感じます。本作には静止したカメラで撮影したシーンがひとつもないんです。

カメラワークと音楽で、ひとつひとつのシーンに水が流れるような“感情の動き”や“時の流れ”のようなものを表現したかった。なにしろ、私はメキシコ人で彼はフランス人。二人ともかなりエモーショナルな人間なんですよ(笑)。違うタイプのエモーションだけど(笑)。

アートは神聖なものじゃなく、人々に喜びを与えるもの

Q:本作はクラシック映画の影響も受けていますよね。監督が怪獣やホラー映画を好きなことは有名ですが、クラシック映画のファンだとは知りませんでした。

(C)2017 Twentieth Century Fox

映画監督は、アクションの映画監督、ドキュメンタリーの映画監督、アート系の映画監督……などと撮る作品によってジャンル分けされがちです。あと“オタク”の映画監督とかね(笑)。でも、私にとってそんなジャンルは意味がない(笑)。どんなジャンルにも“美”はあると思うから。

忘れてはいけないのは、現代において高尚な芸術だと考えられている作品の多くが、過去には大衆を喜ばせるポピュラーカルチャーだったこと。ところが、19世紀の美術評論家のジョン・ラスキンなどが芸術の概念を、神聖なあがめるものに変えてしまったように思います。

“人に喜びを与えるもの”、“人に生命力を与えるもの”――それがアートだと私は信じています。つまり、ゴシックロマンスを語るために『クリムゾン・ピーク』(2015年)、怪獣やメカを語るために『パシフィック・リム』(2013年)、クラシック映画を語るために『シェイプ・オブ・ウォーター』というふうに、色々な映画を通して少しずつ自分の世界観を描いてきました。そして、どの作品も等しくアートだと思っています。だって全部好きだからね(笑)!

そして、作風は違ってもどの作品にも“私”という人間を感じてくれると思う。人生をかけて“自分がなにものか”ということを、ストーリーテラーとして表現していきたいと願っています。

トランプ政権下の「分断されるアメリカ」、そして「#MeToo」について

(C)2017 Twentieth Century Fox

Q:愛は分断をこえることができる唯一の道だと本作から感じました。トランプ政権において、分断が叫ばれているアメリカや世界についてどう感じていますか?

分断される世界を救う方法は、意外にシンプルだと思います。まずは相手を理解すること。そして、愛すること。相手を理解することは愛することと同じです。人のありのままの姿や複雑な側面をきちんと見ること。

人とは本当に様々な側面をもっています。誰かを、女性、メキシコ人、ユダヤ人、などと一言で定義してしまう思想が一番危険です。まさに愛とは真逆の行為。本作のクリーチャーの存在は、登場人物によって見方が変わりますよね? 

ホフステトラー博士にとっては超自然の美、イライザにとっては魂の発見、ストリックランドにとっては南アメリカから来た汚い生物……。だからこそ、決して一言で人をカテゴライズしてはいけない……。

いま、ハリウッドで起こっている「#MeToo」運動が抵抗する性差別は、映画界に留まらず世界中で何世紀にもわたり続いてきたものです。一番大切なことは、まずは自分の周りでそのような性差別や暴力が起こらないようにすることでしょう。女優と男優に同じ給料を払い、性差別のない脚本や撮影環境を作ることは、映画監督として最低限のことだと思っています。

取材・文/此花さくや 写真/横村彰