文・写真=平辻哲也/Avanti Press

北海道・夕張の名物「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭(ゆうばりファンタ)」に対抗して、「ゆうばり叛逆映画祭」(http://yubari-hangyaku.com/)なる映画祭が誕生する。「ゆうばりファンタ」の常連で『蠱毒 ミートボールマシン』(2017年)の映画監督、特殊造型プロデューサーの西村喜廣氏らが、「ゆうばりファンタ」と同じ3月15~18日の4日間、夕張市内で開催。「ファンタスティック映画祭のあり方に一石投じたい」と意気込む西村氏に、その真意を聞いた。

“叛逆”は愛のムチ? 首謀者が明かす思いとは……

映画のプロ、ファンが一堂に集まる映画祭。「映画祭」と名のつく日本国内のイベントは2017年だけで、200以上が開催されている。土地土地の人や食に出会い、映画について熱く語り合い、新たな映画を発見する。それが映画祭の魅力だ。

その中でも、国内外からSF、ホラー、アドベンチャー映画が集まる「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」は1990年、仏「アボリアッツ・ファンタスティック映画祭」をモデルにして誕生した、日本で唯一「ファンタスティック」の冠がつく映画祭だ。筆者もその魅力に取り憑かれた1人で、95年(第5回)から何度も参加している。上映作品はもちろんのこと、毎夜の酒宴が楽しいのだ。

ゆうばり国際ファンタスティック映画祭
寒くてもお酒とストーブで暖まれる映画祭の夜

もともと炭鉱の街だった夕張を、新たに観光地として活気づけようという目的で、夕張市が主導し、スタートした。クエンティン・タランティーノはこの地で、『パルプ・フィクション』(1994年)のシナリオを書き、『キル・ビル』(2003年)では感謝の思いを込めて、"GOGO夕張"なるヒロイン(栗山千明)も登場させた。

ホウ・シャオシェン監督の『珈琲時光』(2004年)も夕張での出会いがきっかけ。『22年目の告白 ―私が殺人犯です―』(2017年)の入江悠監督、『味園ユニバース』(2015年)の山下敦弘監督も出身者だ。夕張市が2007年に財政破綻してからも、地元市民の力で復活。「NPO法人ゆうばりファンタ」が中心となって、映画祭の火を守り続けてきた。そこで、突如、持ち上がったのが「ゆうばり叛逆映画祭」である。

主宰者は「ゆうばりファンタ」に95年から参加している西村氏。2015年の第25回では、メインプログラムの「ファンタスティックオフシアター・コンペティション部門」の審査員も務めている。そんな人物がなぜ、“叛逆”なのか?

叛逆映画祭公式サイトにある西村実行委員のメッセージには「映画祭は復活したものの、つまんねーーー映画祭に成り下がっちまった!」との過激な言葉が並ぶ。西村氏に直接うかがうと、「叛逆という言葉のインパクトが強くて、いろいろ思われるかもしれませんが、僕としてはゆうばりファンタを応援したい、という気持ちが大きいんです」と語る。

「セレクションも、企画も、おとなしくなってしまった。まったく新しい企画をやっていない。これではお客さんに飽きられてしまうと思うんです。面白い作品はほかにもあるのに、かけていない。もちろん、本祭にはスポンサーも入っているし、政治的な絡みで上映しなればいけない作品もあるのも分かる。だから、外からテコ入れしたいんです」。

ゆうばり国際ファンタスティック映画祭
ご当地キャラのメロン熊、映画祭でも大人気

叛逆の仲間は、ゆうばりファンタ復活の立役者となった「NPO法人ゆうばりファンタ」の元代表理事で、ゆうばりファンタのフェスティバル・ディレクターだった澤田直矢氏。昨年、自身が社長を務める会社が倒産したことを機に、ゆうばりファンタから身を引いた。

澤田氏は「自分自身の反省を含めて、やりきれなかったこともあるんです」と話す。2人は2017年2月、ゆうばりファンタでの酒宴で、「もっと面白いことをしたい」と意気投合し、同年9月になって、本格的に映画祭を立ち上げた。

叛逆映画祭で2人がやりたいのは、ゆうばりファンタにおける「フォーラム・シアター」のようなものだという。「フォーラム・シアター」とは、夕張市民が企画し、1999年にスタート。後に正式部門に“昇格”した上映会のことで、参加した監督たちの作品を自主上映する場だった。西村氏は自由なセレクションで、ファンタらしいことをしたい、というのだ。

夕張から冒険に行こう!
叫ぶ、晒す、焼く……これが「ファンタ映画祭」だ!!

西村氏が考える「ファンタ映画祭」とは何か? 

「大小ほとんどの海外のファンタ映画祭に参加しました。例えば、“叫びながら見ようぜ”みたいイベント上映もやっています。今流行りの(声出しOKの)応援上映の原型みたいなものですよね。スペインの“サン・セバスチャン・ホラー・アンド・ファンタジー・フィルム・フェスティバル”では観客全員が投票して、それを採点表にして貼り出している。つまらない映画を撮った監督は反省しろってことです。テキサスの映画祭では、受賞者がでかいビールジョッキを完全に飲みきらないと、受賞を認めない。グランプリ受賞者であっても、容赦なしです。これもテキサスでしたが、僕は火炎放射器を持たされて、肉の塊を焼いて、『これが肉の匂いだ』と叫んでから、上映したこともありました。ファンタ映画祭は面白いことなら、なんでもありなんですよ」。

ゆうばり叛逆映画祭実行委員・西村喜廣(映画監督/特殊造型プロデューサー)

公式サイトでの告知後、約90本の応募が集まった。「正月の3日間くらいかけて、『これは!』という16本を選びました。中には、ゆうばりファンタに応募した方もいましたが、取り合いにはならないです。本祭でかかるなら、どうぞ、ということです。本祭は映画評論家の塩田時敏さんがセレクションしていますが、僕は映画監督、特殊造型プロデューサー。目線が違えば、選ぶ作品も自ずと違っていきます。作品を見て、会いたいなと思う人を選びました」。

上映は新鋭監督によるインディーズ映画が中心になるが、園子温監督がAmazonプライム・ビデオ用に製作した『東京ヴァンパイアホテル 映画版』という目玉も用意している。吸血鬼同士の抗争と滅亡の危機に瀕した人類の戦いを描いたもので、夏帆が主演。

「これには僕も制作に関係していますが、映画版はラストシーンを撮り直していて、Amazon版とはまったく違うものになっています。去年の東京フィルメックスで上映されて、2度目の上映ですが、映画館でも上映できないことになっているので、映画祭だけでしか見られません」とレア度をアピールする。

ゆうばり国際ファンタスティック映画祭
雪の上に立てられた看板

資金は地元企業の社長が「好きに使ってくれ」と100万円を提供してくれた。映画祭当日は有志が手弁当で手伝ってくれることになっている。「本祭の予算は数千万円なので、規模は全然違います。どんな監督でも、映画を作らないと、信用されませんよね。映画祭も同じです。やってみなければ、わかってもらえません」。2人だけの叛逆が、ゆうばりファンタの新たな導火線になるか?

「ゆうばり叛逆映画祭」(3月15日~18日)は、現在、園子温監督の『東京ヴァンパイアホテル 映画版』、西村喜廣監督の『蠱毒 ミートボールマシン』を含む、30作品の参加が発表されている(詳細はこちら http://yubari-hangyaku.com/?page_id=128)。上映作品はさらに増える予定だ。会場は、夕張商工会議所2F研修室。“謀叛”を目撃されたし。