『白いリボン』(2009年)、『愛、アムール』(2012年)と2作連続で、カンヌ国際映画祭の最高賞=パルムドールに輝く快挙を成し遂げた鬼才監督、ミヒャエル・ハネケ。彼の5年ぶりの新作『ハッピーエンド』(3月3日公開)は、『愛、アムール』の続編的作品だ。名優が多数出演する中、最後に最も鮮烈な印象を残すのは、弱冠13歳の少女・ファンティーヌ・アルドゥアンである。全世界注目のローティーン女優が見せる、演技とは?

壊滅的な群像劇を灯す、小さな光

痛烈な風刺と、冷徹な人間観察で知られるハネケ。『ハッピーエンド』でも、その唯一無二とも言える悪意スレスレの演出は健在で、とあるブルジョワ一家を真綿で首を締めるように刻一刻と追い詰めていく。

ひとりひとりはとっくに壊れているのに、忘れたフリをして、他者に無関心なまま、愛のないコミュニケーションを続けている人々の姿が、SNSの視点も取り込んだクールな筆致で編み上げられる。

救いなど、どこにもない。一見、そう思わせられるが、最初は傍観者として登場した少女・エヴこそが、本作のささやかな希望であり、監督の願いも彼女に託されていることが次第にわかってくる。

狂言回し=ストーリーテラーのようだったエヴこそが、この物語の真の主人公だったことに気づいたとき、観客は不意打ちのような感動に襲われることになる。『ハッピーエンド』という意味深長なタイトルも、エヴの表情をどう汲み取るかで変化する。

そんなエヴを演じたのが、ファンティーヌ・アルドゥアン。彼女がエヴを演じたことで、破格の説得力をもつキャラクターとなったのだ。

観る者を吸引する、破格の芝居

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エヴの設定は13歳。「幼く見えるな」と劇中で言われるが、ロリータ性も濃厚で、小さな魔性がちらつく。ノースリーブを多用した衣装も効果的だ。

思春期特有の屈折と、大人たちに何も期待を抱かない自閉。少女ならではの普遍性を感じさせると同時に、エヴという人物の個性も垣間見せながらアルドゥアンは観る者を惹きつける演技を披露している。

ありがちな反抗ではなく、ありきたりの虚無でもなく、誰にも似ていない、固有の感情がある。そう直感させる彼女のたたずまいは、この人物に興味を抱かせる。そう、物語が進むにつれて、わたしたちはエヴのことがもっと知りたくなるのだ。

多くを語らないエヴは、自分をカモフラージュする術を知っているわけではなく、実は無防備。その瞳からは感情がダダ漏れで、言ってみればツンデレだ。口先は静かで辛辣なのに、まなざしは正直という少女のありようを、アルドゥアンは絶妙なバランスで成立させている。

実は、エヴはとある秘密を抱えている。映画の終盤で、ジャン=ルイ・トランティニャン扮する祖父ジョルジュと、その秘密を共有するが、ここでの二人芝居は本当に素晴らしい。名優、トランティニャンと互角に渡り合う力量に目を見張らせられる。

2005年生まれなので、ファンティーヌ・アルドゥアンは今年13歳。これからの成長が楽しみな、しなやかな美貌を持つ逸材だ。日本ではまだ、昨年公開された『少女ファニーと運命の旅』でしか、その美しさを確かめることができない。ハネケの大抜擢は、未来の大女優を生んだと言えるだろう。

(文/相田冬二@アドバンスワークス)