ブラジルの新鋭、ダニエル・ヒベイロ監督のデビュー作となる『彼の見つめる先に』(3月10日より公開)は、世界各国で受賞を重ねた注目作。扱う題材は、障がい者、同性愛、いじめなど、ひと言で言えば重みのあるものばかり。でも、これが意外なぐらい明るく爽やかで、胸がキュンとする映画に仕上がっています。

障がい者や性的マイノリティを真っ直ぐに見つめる

本作に登場する主要人物は、目の見えない少年のレオ、レオのことをなにかと手助けしてきた幼なじみの女の子・ジョヴァンナ、二人が通う高校に転校してきた他人に言い出せない秘密をもつガブリエルの3人。

この若き3人の青春と友情が描かれていくのですが、扱っている題材は障がい者への差別やスクールカースト問題、セクシャル・マイノリティについてと、かなり切実なものばかりです。

この手の社会問題がテーマになる作品は、湿っぽいストーリーになってしまうことも珍しくありません。人間の心に踏み込むテーマでもあるので、そうならざるをえない部分も確かにあるでしょう。しかし本作は、きわめて切実なテーマを扱いながらも、ドロドロしたところがありません。

その最大の理由は、障がい者や性的マイノリティを弱者と決めつけていないこと。学校内でなにかと嫌がらせを受ける3人ですが、“他人は他人、自分は自分だ”と受け流していくのです。自分に向けられた差別や中傷に敢然と立ち向かい、正面から戦うわけではない。でも、何を言われようと彼らは自分らしさを絶対に失わない。そんな人の姿は、きらめいていてとても眩しいのです。

障がい者やセクシャル・マイノリティのポジティブな面を伝えたかった

ダニエル監督自身もインタビューで、「たとえば障がい者であったり、セクシャル・マイノリティである人を主人公にした作品は、彼らの苦しみや葛藤を伝えるだけで終わるものが確かに多い。でも、僕はもっとポジティブな面があることを伝えていきたい。男性が男性を好きになるのは罪ではないし、当たり前のこと。男の子が女の子を好きになることとなにも変わらない。そんなふうにごく普通で自然なこととして描こうと思ったんだ。また、そう描くことで社会の性的マイノリティに対する見方を変えたかった。“性的な指向が違うだけでほかはなんらみなさんとかわらないんだ”と」と明かしています。

監督の言葉に裏打ちされるように、本作の視点は、障がいや同性愛を特別視していません。各人物を語る上で欠かせない要素ではあるけれど、ネガティブな要素にはしていないのです。

その温かな視点のおかげで、障がいがあろうとなかろうと関係ない、思春期の真っただ中にいる少年と少女の初めての恋、性への目覚め、かけがえのない友情を描いた普遍的な青春映画の印象が残り、すがすがしい気持ちに包まれます。

ブラジル映画のイメージをも変える!?

もうひとつ触れておきたいのが、本作はブラジル映画という点。

“ブラジル映画”というと『シティ・オブ・ゴッド』(2002年)を代表するように、貧困や犯罪、2016年のリオデジャネイロオリンピックの際、治安に関するニュースでよくとりあげられていたスラム街“ファヴェーラ”といった社会の闇をテーマにしたダークな作品をイメージする人も少なくないでしょう。

しかし、この映画には、こうしたダークな場所や要素は出てきません。日本とさほどかわらないといっていい学園と街の日常風景が広がっています。

ダニエル監督は、「舞台となるサンパウロは、ブラジルでは豊かな都市。3人が通う学校は私立で比較的恵まれた環境ではあります。ただし、ブラジルのテレビドラマに登場する学生は彼らのようなタイプが一般的。そういう意味で、ステレオタイプと言っていい。学校の様子も街の風景も同様に、サンパウロにおいてはごくごく標準の生活風景と学校風景と言っていいと思う」と発言しています。

もしかすると、一般的なブラジル人の日常をここまで見せてくれた映画は、これまであまりなかったかもしれません。その点も新鮮で、本作の根底にある明るさに一役買っているのかもしれません。

社会問題を扱った従来の映画とはひと味違う、晴れやかな明快さを持つとともに、日本にあるブラジル映画のイメージをも変えてくれる映画『彼の見つめる先に』。先入観なしに観てほしい1本です。

(文/水上賢治@アドバンスワークス)