文=金田裕美子/Avanti Press

先日発表された第90回アカデミー賞で、長編アニメーション賞と主題歌賞に輝いた『リメンバー・ミー』。なにせ『トイ・ストーリー3』のアニメーション・スタッフと『アナと雪の女王』の音楽チームが組んでいるのですから、面白さは保証つき。子どもも大人も存分に楽しめるのはもちろん、家族の絆や死をテーマにした本作はむしろ、大人の胸にずーんと響きそうな作品です。

『リメンバー・ミー』ウォルト・ディズニー・ジャパン配給
3月16日(金)公開 (C)2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

物語の重要な背景、というよりもうひとつの主役のような存在が、メキシコの“死者の日”です。10月の終わりから11月頭にかけて3日間続くこのお祭りは、日本のお盆のように年に一度死者の国からこちらに戻ってくるご先祖様の霊をお迎えする行事。ルーツをたどると、なんとアステカ文明の時代までさかのぼるんだとか。

ごちそうとカラフルなガイコツの仮装、
ご先祖様とパーッと盛り上がるポップでキッチュな“死者の日”

“死者の日”なんて名前からしてちょっと怖そうですが、おどろおどろしい感じはなく、あくまでも“お祝い”なんだそう。ハロウィーンのように人びとがカラフルなガイコツ姿に仮装したりして、とっても明るくポップでキッチュ。「しめやか」とか「おごそか」とかいった言葉とは無縁のようです。

ご先祖様がせっかく帰ってきてくれるのだから、オフレンダと呼ばれる祭壇をゴージャスに飾りつけ、お墓もマリーゴールドの花やろうそくで美しくデコレーション、ごちそうを並べてパーッと一緒に盛り上がっちゃおう、というのがメキシコ流です。お墓の前で宴会、というのは沖縄のご先祖供養、清明祭(シーミー)にも似た感じ。

そしてこの死者の日に欠かせない食べ物のひとつが、“死者のパン”です。今回は死者の日にだけ作られるというこのパンを作ってみたいと思います。

『リメンバー・ミー』ウォルト・ディズニー・ジャパン配給
3月16日(金)公開 (C)2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

『リメンバー・ミー』の主人公、ミゲルは音楽大好き少年。同じ町の出身である伝説のミュージシャン、エルネスト・デラクルスに憧れ、いつか彼のようになることを夢見ています。でも靴屋を営むミゲルの家では音楽厳禁。過去のある悲しい出来事以来、演奏どころか音楽を聴くことさえ厳しく禁じられているのです。仕方なくミゲルは、秘密の屋根裏部屋でデラクルスの古い主演映画を観てはこっそりギターを練習しているのでした。

ミゲルの秘密の部屋
『リメンバー・ミー』ウォルト・ディズニー・ジャパン配給
3月16日(金)公開 (C)2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

死者の日、ミゲルは町で開かれるギター・コンテストに家族に内緒で出場しようとしますが、見つかっておばあちゃんに手製のギターを壊されてしまいます。でもどうしても出場したい。そこでデラクルスの霊廟に忍び込んで、飾られているギターを“ちょっと借り”、奏でてみた瞬間――死者の国に迷い込んでしまうのでした。

写真でしか見たことのなかった先祖たちに出会えて喜んだのもつかの間、日の出までに元の世界に戻らないと体が消えてしまうことが判明。かくしてミゲルは、元の世界に戻るべく、途中で出会った孤独なガイコツ、ヘクターと共に死者の町を奔走することになります。

あちらの世界でご先祖たちと出会います
『リメンバー・ミー』ウォルト・ディズニー・ジャパン配給
3月16日(金)公開 (C)2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

実はちょっと怖い!? 死者のパンの由来

この死者の国の美しいこと! 町中が色とりどりの光にあふれ、この世とあの世をつなぐ橋には、マリーゴールドの花びらが敷き詰められてキラキラ輝いています。マリーゴールドは、死者を家まで導いてくれるといわれる“死者の花”。ミゲルの家の祭壇も、マリーゴールドの花と、故人の写真や好きだったもの、ろうそく、ガイコツの置物、果物などがところ狭しと飾られています。もちろん死者のパンも並んでいます。

ミゲルの家のオブレンダと呼ばれる祭壇
『リメンバー・ミー』ウォルト・ディズニー・ジャパン配給
3月16日(金)公開 (C)2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

死者のパンは、もともとは原住民が生贄に捧げられた人の心臓や血を食べたことに由来するんだとか。ぎょえー、明るくないじゃん! でももちろん現在は、生贄や心臓とは無関係。人間や人の骨をかたどった、ちょっと面白い形をした甘いパンを家庭で作ったり、お店で買ってきたりするそうです。

形や味は作られる地方や家庭によってさまざまですが、調べてみると、最も一般的なのはオレンジピールとアニスシードを入れた、平べったい丸に骨をあしらった形のものらしいので、これに挑戦してみます。

人やガイコツをかたどった、
甘~い“死者のパン”作ってみます!

ふるった強力粉と砂糖、塩をボウルに入れます。別のボウルにドライイーストとぬるま湯を入れて混ぜ、溶き卵を加えてさらに混ぜます。これを小麦粉の入ったボウルにジャーッ。指先を使って粉と水を混ぜ合わせ、ひとかたまりになったら台に取り出します。まだベタベタ状態なので、カードを使って生地をまとめながらひたすらこねてゆきます。するとだんだんまとまってきて、スムースな生地に。

強力粉に、砂糖、イースト、卵などを加えてよーくこねます

ホームベーカリーのありがたみを知るパン作り

なめらかになった生地を平らにのばし、常温にしたバターをのせて生地で包み、固さが均等になるまでさらにこねます。かなりの量のバターが入るので、つるつるベタベタ。カードでまとめて手ですくい、台にばーんとたたきつけてこねるのですが、全然まとまりません。それどころか手の熱でバターが溶けてきて、台の上はドロドロの惨状に。

いつかこれがまとまる日がくるのでしょうか。いや、こないでしょ。目を盗んで(誰の?)こっそり小麦粉を足しちゃおうか、という気持ちが湧き上がってきます。しかし、パン作りでは、やわらかいと思っても打ち粉はせず、ひたすら根気よくこねることが大事なのだそうで、 なんとか思いとどまります。

あんなにベタベタだった生地がだんだんなめらかに!

すると……。ひたすらこね続けて15分くらいたったころ、なんとなく生地がまとまってきました。表面はつやつやでなめらか。台にもくっつかず、手で持ち上げることができるようになります。おおー、日和らなくてよかった。今回の小麦粉の量は750グラムと多かったし、なにせ不慣れな作業なので結構な重労働でした。

材料を入れるだけで、この大変なこねる作業、そして発酵や焼くところまで勝手に進めてくれる夢のような機械、ホームベーカリー! この文明の利器をお持ちの方は、こねるパートだけでも機械にやってもらえば、とっても楽に作ることができます。

死者のパンの飾りにはこんな意味が!? 

油を塗ったボウルに生地を入れ、30度くらいの場所で約1時間発酵させます。発酵後の生地は1.5~2倍ほどの大きさに。これを打ち粉をした台の上に取り出してのばし、オレンジピールとアニスシードを混ぜ込みます。生地を等分に切り分け、ひとつずつ丸めて15分くらい置いて、ベンチタイム。

発酵してふくらんだ生地。切り分けて、それぞれオレンジピールやレーズンを混ぜ込みます

15分たったら打ち粉をした台の上に生地を置き、平たい丸に形を整えます。別に細長く伸ばした生地は、人差指、中指、薬指を使って台の上を転がし、玉がつながったような形にします。これを丸いパンの上に十字に置き、真ん中に小さい玉の生地をのせます。この玉は、頭蓋骨を表しているんだとか。

あんまり骨っぽく見えませんが……、これが一般的な死者のパンの形。表面にオレンジシロップを塗ります

クッキングシートを敷いた天板にのせて軽くラップをのせ、30度くらいの場所で40分ほど2次発酵。180度に熱したオーブンで15分ほど焼きます。表面がきれいな黄金色に焼けたら取り出し、少し冷ましてからオレンジジュースと砂糖で作ったシロップを表面に塗り、上から粉砂糖をふりかければ、死者のパンの完成です!

デコレーションやお祭りの装飾づくりも楽しい死者のパン

オレンジピールとアニスシードだけでなく、レーズンとシナモンを入れたもの、チョコレートチップを入れて表面をデコレーションしたもの、さらに人の形のパンも作ってみました。

デコレーションにはお手軽なチョコレートペンを使いましたが、通常はアイシングシュガーを使うようです。デコレーションだけなら子どもでも簡単にできるので、家族でわいわい言いながら死者のパンを飾り付けるのも楽しそうです。

湯せんで温めて使うチョコレートペンでお絵かきタイム

これらのパンを、マリーゴールドの花(季節じゃなかったので残念ながら造花)、ろうそく、ガイコツ人形、そして『リメンバー・ミー』の冒頭でも印象的に使われているパペルピカドと呼ばれる切り絵とともに飾り付けてみました。本物の死者の日は見たことないけど、なんだかとってそれっぽい! 俄然気分があがります。ちなみにこのガイコツと切り絵は、わたくしと本欄の担当者さんが紙粘土と折り紙で手作りいたしました。久しぶりの工作も楽しかったー。

死者のパン、完成です!

それでは実食。パンは甘すぎず上品で(甘くしてもいいんですけどね)、オレンジとアニスシードの香りがさわやか。初めて食べる味です。とはいえレシピを調べて作ってみただけなので、これが本場の味に近いのかどうかはよくわかりません。

映画には死者のパンのほかにも、トウモロコシの粉を練って肉や野菜とともにトウモロコシの皮で包んで蒸したタマーレ、焼きトウモロコシに粉チーズやとうがらしをふりかけたエローテなど、メキシコの定番料理が登場していました。こちらも美味しそう! 死者のパンとともに、いつかぜひぜひ本場で味わってみたいものです。

オブレンダ完成!

『007 スペクター』にも登場した死者の日

死者の日といえば、最も盛大で有名なのがメキシコ南部のオアハカという町。近年では、メキシコシティの死者の日も盛り上がっているそうです。2015年に公開された『007 スペクター』の冒頭に、ガイコツの仮装をしたジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)が死者の日のパレードに紛れて標的を追う、というシーンがありました。このパレードは参加者のコスチュームがモノトーンで大人な雰囲気。ボンドもやたらかっこいい。

公開当時、実際にはメキシコシティではパレードは行われていなかったのですが、映画をきっかけに2016年から開催されるようになり、海外からも大勢人が集まるようになったのだとか。フィクションが現実を変えてしまった……映画の力ってすごい。

『007 スペクター』より (C)MGM/Columbia/Photofest

『リメンバー・ミー』の日本公開が始まるのは、お彼岸の頃、ちょうどあの世とこの世が最も通じやすくなると言われる時期です。この映画で死者の国へのトリップを体験すると、いつものお墓参りがちょっと違って感じられるかもしれません。ぼたもちの代わりに死者のパンを作ってお供えしてみたら……ご先祖様に怒られるかな?

【死者のパンの材料】
強力粉、ドライイースト、卵、バター、水、砂糖、塩、オレンジピール、アニスシード、粉砂糖
〈シロップ〉オレンジジュース、砂糖
〈デコレーション〉チョコレートペン
【映画っぽい雰囲気を盛り上げる小道具】
マリーゴールド、写真、ろうそく、ギター、ガイコツの人形、パペルピカド、マリアッチ、フリーダ・カーロの絵、花火