衣装はセリフほどに物を言うーー映画の衣装は、時代背景から人物の性格まで表します。ソフィア・コッポラが第70回カンヌ映画祭で監督賞を受賞した話題作『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』は、1864年、南北戦争末期のアメリカ南部・バージニア州が舞台。今回は、本作に登場するドレスから南北戦争の歴史を覗いてみましょう。

七つの大罪を犯す7人の女性たち

完璧な秩序を保つ女の園。7人の女性たちは南北戦争の終焉をひっそりと待っていた
(c) 2017 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

映画に登場するのは、南北戦争から隔離された森のなかに佇む女子寄宿学園に暮らす7人の女性。ある日、生徒であるエイミー(ウーナ・ローレンス)は、北軍の負傷兵士マクバニー(コリン・ファレル)が森のなかで倒れているのを見つけます。

学園へ連れて帰り、キリスト教の教えに従いマクバニーの怪我が回復するまで面倒をみることになりますが、ハンサムでたくましいマクバニーに7人の女性は次第に惹かれていきます。

北軍兵士のマクバニー伍長。アイルランドから移民した彼は南部の紳士たちにはない野性味あふれる魅力の持ち主
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なかでも、年頃の教師エドウィナ(キルスティン・ダンスト)と、思春期真っ只中のアリシア(エル・ファニング)はマクバニーへの興味を隠せません。それどころか、いつもは厳格な園長のミス・マーサ(二コール・キッドマン)でさえ、マクバニーとの語らいを楽しみにしている様子。

マクバニーのための晩餐会。贅沢なイヴニングドレスで美しさを競う7人の女性
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マクバニーのために着飾ったり、贅沢な晩餐会を催したり、お互いに嫉妬したり……よきキリスト教徒として素朴に生きてきた7人の女性が、マクバニーの出現によってキリスト教における“七つの大罪(高慢、物欲、嫉妬、憤怒、色欲、貪食、怠惰)”を少しずつ犯していきます。それまで完璧だった秩序が崩れていく学園……。そして、ある晩、衝撃的な事件が起こります。

ドレスの“色”が語る南部上流階級の女性「サザン・ベル」

白地のドレスに黒のパイピングを取り入れることによって権威を象徴する園長のミス・マーサのドレス
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本作に登場する7人の女性たちが装うドレスからは、彼女たちが当時“サザン・ベル”と呼ばれた南部上流階級の女性だということが見てとれます。

日中、汚れやすい白や淡い色のデイドレスを着ることができるのは、洗濯する使用人もしくは奴隷がいる証拠。映画内では彼女たちは菜園の手入れから料理まで家事をすべて自分たちでこなしているのですが、これは戦争中で人手が足りないから。ちなみに、『風と共に去りぬ』(1939年)のスカーレット・オハラもサザン・ベルの典型です。

作中、園長のミス・マーサが「マクバニー伍長にサザン・ホスピタリティを見せてあげましょう」と言うシーンがあります。サザン・ベルとは、サザン・ホスピタリティ(南部のおもてなし)、洗練されたマナーや美しさを体現する南部女性の理想像をさしています。

ドレスの“ネックライン”が語る学園内の階級格差

ハイネックドレスに身を包むミス・マーサ。控えめなハイネックはサザン・ベルの定番デイドレス
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女性たちのデイドレスはハイネックが基本。この時代、上流階級の女性の間では肩や首を見せるドレスは、2つの理由より夕方まで着てはいけませんでした。ひとつは、“白い透けるような肌”が美の基準とされていたから。ハイネックのドレスは紫外線予防の意味もあったのです。

肩のあいたドレスで挑発的に装うエドウィナ。
19世紀半ば、スペイン出身であるフランス皇妃ウージェニーの影響でスペイン風の黒いレースが大流行した
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もうひとつは、肌を露出するのは“はしたない”とされていたから。マクバニーを招いた晩餐会にエドウィナは肩をあらわにしたドレスで出席しますが、ミス・マーサに注意され慌ててショールで肩を隠すことに。あろうことかミス・マーサは、エドウィナの出自がいやしいことを皆の前でほのめかす始末……。

仲良く暮らしていた清楚な女性たちが、マクバニーの出現でドロドロとした“女”に変わっていく恐怖をドレスのネックラインが物語ります。

ドレスの“レース”と“柄”が語る「南北戦争」

マクバニーに思わせぶりな態度をとるアリシア。ゆるヘア、パステルピンクとレースのドレスが小悪魔的
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エドウィナが羽織ったようなレースのショールは19世紀半ばに大流行していました。それは、細かいレースが機械で生産されるようになっていたから。

北部の繊維産業の発展で、それまで手作りだったレースが機械生産できるようになり、レースのショールや襟が大ブームに
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レースのほかに人気だった当時の衣装にはプリント柄もあります。繊維工業の発展でレースと共に水玉、花柄、ストライプ、チェックといったプリント柄も多く流通していました。実は、この繊維工業の発達が南北戦争の一因だという説も。

イギリスの植民地だったアメリカは、産業革命で世界一の工業国になったイギリスから安い工業製品を輸入していました。ところが、19世紀初めにヨーロッパでナポレオン戦争が勃発し、イギリスから工業製品を入手することができなくなります。そのため、アメリカの北部は繊維や製材などの工業製品を自ら生産することになったのです。

その結果、北部はイギリスに依存しない自立した経済システムを構築。次々と北部に建てられる工場で大量の労働力を必要としていたことから、南部の黒人奴隷を解放して労働者として雇い、また、彼らに製品を販売してマーケットの拡大を狙っていたと考えられています。

柄と柄をあわせて縫製しなければいけないチェックやストライプのドレスは、大量の生地を消費するので非常に高価。
上流階級の女性しか手に入れられなかった
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一方、南部はイギリスへの綿花の輸出が主な収入源でした。奴隷を手放してしまえば、イギリスに安価な綿花を供給することができず、南部の経済は破綻してしまうことに……。このように、ドレスのデザインから南北戦争の背景が覗けるのは興味深いですね。

この作品の原作は、1971年にドン・シーゲル監督がクリント・イーストウッド主演で『白い肌の異常な夜』として映画化しました。男性目線で女性の恐ろしさを描くシーゲルに対し、女性目線で女性心理を細やかに描くコッポラ。映画に登場するドレスはすべて手縫いされるなど、細部にまで繊細な手を加えることによって各登場人物の性格まで表現しています。

レースに包まれた女の園に留まることを選んだ7人の女性。彼女らが身につける白いドレスは、“永遠の処女性”を守る“鎧”なのかもしれません。決して、なにものにも囚われないようにーー。

【参考】
東京堂出版「アメリカ服飾社会史」濱田雅子著

「The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ」
2018年2月23日(金)TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国公開

(文・此花さくや)