主演のゲイリー・オールドマンが、アカデミー賞主演男優賞をとったことで話題の『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』。3月30日公開の本作はタイトル通り、第二次世界大戦中のイギリスの首相・チャーチルが主人公です。作中ではヒトラーと戦うために、市民や議員の前でチャーチルが熱弁をふるい、その言葉が多くの人々を救うことになります。

激動の時代を生き抜き、大衆を動かしてきたリーダーたちは、数々の名言を残しています。そこで今回は映画の中にみる、心を揺さぶるような、彼らの熱い名台詞にフォーカスします。

打たれても打ち返さず避けもしない勇気

大英帝国という強大な力に“非暴力・不服従”をもって立ち向かい、インドをイギリスの植民地支配から解放したマハトマ・ガンジー。彼の青年期から暗殺されるまでの波乱の人生を描いた作品が『ガンジー』(1982年)です。第55回アカデミー賞では、8部門を受賞しています。

インドの人々に「ガンジーが生き返った!」とまで言われたほど、ガンジーにそっくりな主演のベン・キングズレーの口から語られるセリフは、まるで画面から本人が語りかけるかのよう。彼の口から名言が語られたのは、白人の牧師アンドリューとガンジーが一緒に歩いている時、地元のちょっとやんちゃな白人の若者たちに行く手を阻まれるシーンでした。

若者たちはインド人であるガンジーを差別的な態度で見下し、一触即発の状態になります。アンドリューは別の道を行くことをすすめますが、ガンジーは聖書にある「右の頬を打たれたら、左の頬を出せ」という言葉は勇気を示せということだと言い、「打たれても打ち返さず避けもしない勇気、それが人の心に訴えます。憎悪が消え、尊敬が増すのです」と続けたのです。

堂々と若者たちの前を通り過ぎるガンジー。その様子に若者たちは思わず道を開け、アンドリューはそのあとを追いかけるのでした。決して暴力という手段に訴えることをせず、人々を率いたガンジーの考え方。その根本にあるものが伝わってくる名言です。

肌が黒くても黄色でも白くても皆兄弟

黒人への差別が日常的だった1940年代のアメリカ。薬物や窃盗などで荒んだ生活を送っていた青年は、イスラム教徒であり、白人を敵対視する団体へ所属していたベインズに誘われ、黒人公民権運動へとのめり込んでいきます。彼こそがのちにマルコムXとして語られる、黒人公民権運動のリーダーのマルコム・リトルでした。その生涯を描いた作品が『マルコムX』(1992年)です。

どうして、マルコムは白人を憎み、黒人の中の憎しみを煽るような活動をしていたのか?キング牧師などほかの黒人公民権運動のリーダーたちとは違い、暴力を否定しない、過激な言動にはどんな理由があったのか? それを、時には当時の映像も織り交ぜながら追った本作では、いまだ過激な人物として語られることの多いマルコムXの、人間性あふれる一面が見られます。

「肌が黒くても黄色でも白くても皆兄弟です」

この言葉は白人を敵対視する団体から独立し、イスラム教の聖地メッカから戻ってきたマルコムの名言です。

イスラム教の真理にふれようとメッカ巡礼へ向かったマルコムは、どんな肌の色や国籍でも関係なく、“ひとつの神を信じる”ことで人々が集まり、食事を分け合い、同じ場所で祈っていることに衝撃を受けます。それまで白人だけに向けられていた敵対心が間違いだったこと。それに気づいたマルコムが発したのが、あの言葉でした。

肌の色の違いに関係なく、平等で自由な世界を実現しようとしたマルコムの考えは、決して過激なだけではなく、純粋な信仰心と人間愛にあふれていたのですね。

アルゼンチンよ、泣かないで

『エビータ』(1996年)はブロードウェイ・ミュージカルが元になって製作された映画です。第二次世界大戦後、クーデターなどで混乱したアルゼンチンでファーストレディとなった愛称エビータこと、エバ・ペロンの生涯をミュージカル仕立てで描いています。主演がマドンナだったことも、公開当時は話題になりました。

今も、アルゼンチンの人々に絶大な人気を誇るというエビータ。彼女は私生児として生まれ、水着モデルや売春婦、カフェの給仕などで生計を立てるという、恵まれているとはいえない環境で少女時代を過ごしました。ところが、フアン・ペロンと出会うことで運命は動き出します。後に、クーデターによって拘束されたペロンを、エビータがリーダーとなって国民に働きかけ、解放したのです。

ペロンは大統領となり、ペロンと結婚したエビータはファーストレディの座につきます。その際に官邸のバルコニーからエビータがアルゼンチンの人々に向けて歌ったのが「アルゼンチンよ、泣かないで」です。「私はいつもあなたたちのそばにいます」と、苦難の中にいる人びとによびかけ、人々もそれにこたえるようにエビータに大きな喝采をおくったのでした。

撮影は本物のアルゼンチン大統領官邸で行われ、長セリフともいえる「アルゼンチンよ、泣かないで」は、激しく熱いエビータの生き様が伝わる圧巻のシーンでした。新しいアルゼンチンの第一歩を象徴する、物語のクライマックスに心が震えます。

『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』/(c)2017 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』では、主演のゲイリー・オールドマンが本物のチャーチルそっくりに変貌した特殊メイクを、日本人のメイクアップアーティスト・辻一弘さんが手掛けました。激動の時代のリーダー、チャーチルの演説の数々が、今によみがえるようです。この作品で辻さんは、米アカデミー賞の「メイクアップ&ヘアスタイリング賞」において、念願のオスカーを獲得しています。

本作の最大の見せ場は、“言葉の魔術師”といわれたチャーチルが6月4日の下院演説で行った演説です。大衆が危機に直面したとき、チャーチルがどんな言葉を告げたのか。ぜひ、劇場でその名言を確かめてみてください。

(文/サワユカ@H14)