3月21日から全国公開される『トゥームレイダー ファースト・ミッション』は、シリーズ誕生から昨年で20周年を迎えた、世界的に人気のゲームシリーズを原作にしたアクション映画の最新作です。『トゥームレイダー』といえば、過去2作品でアンジェリーナ・ジョリーが強く美しい主人公ララ・クロフトを演じた大ヒット映画。今回のリブート版ではその主人公を、新たにアカデミー賞女優のアリシア・ヴィキャンデルが演じることで話題となっています。

どちらかといえば、アート系の作品に強いイメージがあるアリシア・ヴィキャンデルなだけに、今回の抜擢は少々意外でした。とはいえ、これまでに『リリーのすべて』(2015年)でアカデミー助演女優賞に、『エクス・マキナ』(2015年)でゴールデングローブ賞 助演女優賞にノミネートされるなど、若手ながらその演技力に定評のある気鋭の女優。今回もスクリーンを縦横無尽に走り回るために自らの肉体を鍛え上げるなど、その演技にかける情熱とプロ根性は本物です。

ついにアクション映画までこなすことになったアリシア・ヴィキャンデルですが、過去の出演作を見ると、その演技の幅には驚かされるばかり。そんな彼女の魅力に迫るべく、これまで彼女が演じてきた役を振り返りたいと思います。

異形の女性型AIロボット・エヴァ…『エクス・マキナ』

『エクス・マキナ』でアリシア・ヴィキャンデルが演じたのは、「人間相手に感情をもつか?」というテストで実験体になった女性型AIロボットのエヴァでした。

エヴァは当初、顔面と身体の一部にのみ皮膚があるという、いかにもロボットといういで立ちでした。しっかりと人間らしい受け答えをするものの、やはりどこか生身の人間ではない。そんな、無機質な印象をアリシア・ヴィキャンデルは見事に演じています。そこには、AIロボットの人ならざる者という印象と、異形の風貌からくる恐ろしさが現れていました。

作中では人間側の被験者である主人公のケイレブと会話を続けるうちに、エヴァは徐々に人間らしさを身につけていきます。洋服やウィッグで無機質なロボットの部分を隠し、彼を誘惑しようとするエヴァ。それまでの無機質な様子とのギャップに、ケイレブはすっかり心を奪われてしまいます。

ケイレブを覗き込むように見つめる眼差しには、AIロボットが学習し、人間になったかのような艶っぽい印象がありました。無機的なものに生々しさが宿るかのようなアリシア・ヴィキャンデルの演技には、主人公と同じように心を奪われた映画ファンも少なくないのでは? その後、人間になりたいという欲望を叶えるために、邪魔者を容赦なく排除していく姿は機械的に見える一方で、欲に溺れる人間的な印象も同時に与えています。

“女性に目覚めた夫”への複雑な感情と向き合う・ゲルダ…『リリーのすべて』

アリシア・ヴィキャンデルが女性になりたいと願う夫である画家アイナーと向き合い、新たな関係を築こうともがく妻のゲルダを演じたのが『リリーのすべて』です。

ゲルダは当初、夫が女装をして男性と逢引していることに怒りを露わにし、アイナーの幼馴染に気をもたれても一途に彼を想い続けます。しかし、アイナーがリリーという女性に染まりきってしまっていることを知ると「夫と話をしたい」と懇願するのです。

アリシア・ヴィキャンデルが演じるゲルダは、当初は明朗活発なキャラクターでした。それだけに、悲しみを帯びた切実な表情からは、いかに夫としてのアイナーを深く愛し、以前のような関係に戻りたいと思っているかが如実に表れています。それに対する、アイナーの「もう戻れない」という言葉を聞いたゲルダの絶望的な表情には、胸を締め付けるような気分にさせられました。

やがて、ゲルダはアイナーの気持ちを尊重し、夫としてではなく、一人の友人として向き合うことを選びます。性転換を選択した夫を送り出すときの彼女の表情からは、夫を愛する妻ではなく、完全な女性になりたいと願う夫を友人として支えようという決意が感じられました。ストーリーの展開に合わせ、キャラクターの心情をシーンごとに切り替え、ゲルダの妻と友人という2つの異なる立場の女性を演じたアリシア・ヴィキャンデル。その演技力の幅の広さに驚かされます。

現代的で野心的なエリートエージェント・ヘザー…『ジェイソン・ボーン』

アリシア・ヴィキャンデルは『ジェイソン・ボーン』(2016年)で、野心的でIT技術を駆使するCIAのエージェント・ヘザーを演じています。

『ジェイソン・ボーン』のようなクライムサスペンスでは、敵対するキャラクター同士が激しいアクションで攻防を繰り広げるものが多いです。しかし、本作は少し趣が違います。当初、敵対関係にあったヘザーと主人公のジェイソン・ボーンとの戦いは、ジェイソン・ボーンがハッキングデータを閲覧しようとすることに対して、ヘザーが携帯電話を駆使してハッキングを仕掛けて対抗するというもの。CIA長官・デューイが後に暗殺者を送り込み、ジェイソン・ボーンを亡き者にしようとするのとは対照的です。ハイテク機材を難なく駆使する演技からは、力技でなく頭脳的に敵対者を“処理”していくという、若い世代の女優であるアリシア・ヴィキャンデルならでのモダンさが感じられます。

やがて、ヘザーはジェイソン・ボーンと協力関係になり、彼を組織に引き入れようとします。このとき、「説得に失敗すれば消せばいいだけ」とあっさり口にする彼女の演技には、一時協力関係にあったとしても利害が一致しないなら即排除、目的のためなら手段を選ばないという冷酷さが強く感じられます。それとともに、ヒロインでありながらも、若手とは思えないラスボス級の迫力と貫禄がありました。

(c)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC.

『トゥームレイダー』でこれまでララ・クロフトを演じてきたアンジェリーナ・ジョリーは、『17歳のカルテ』(1999年)でアカデミー賞を獲得した後に、『トゥームレイダー』に出演。アート系の作品から、アクション女優として飛躍するという、アリシア・ヴィキャンデルに通じるキャリアの持ち主です。

AI、変わり行く夫に複雑な感情を抱く妻、野心的なエリートエージェント……。難しい役柄を持ち前の演技力で演じてきたアリシア・ヴィキャンデルが、王道ヒロインであるララ・クロフトをどのように演じるのか? アンジェリーナ・ジョリーのように今後の活躍が期待される女優なだけに、その演技にもぜひ注目したい作品になりそうです。

(文/Jun Fukunaga@H14)