“映像化不可能”と言われ続けてきた、芥川賞作家・中村文則によるサスペンス小説を映画化した『去年の冬、きみと別れ』。野心あふれるルポライター・耶雲と危険なうわさの絶えないカメラマン・木原坂として、アツい火花を散らす岩田剛典と斎藤工が、一筋縄ではいかない役柄への思いを振り返りつつ、惜しみない賛辞を贈り合った。

美しくブレない男とポエティックな映画人

Q:共演作『HiGH&LOW THE RED RAIN』はありますが、初めて共に撮影現場で時間を過ごして、新たに知った役者としての顔、人間としての顔はありましたか?

岩田剛典(以下、岩田):工さんとは映画の撮影以外でも食事をご一緒したり、交流させていただいているので、新たにという感じではないです。パリで偶然お会いしたこともありましたね。

斎藤工(以下、斎藤):ファッションウィークで、隣の席になりました。

岩田:敢えて挙げるなら、昔から映画が大好きなことを知っていましたし、監督としてご自分でも撮られている工さんは、まさに“映画人”というイメージです。今回の撮影現場で「最近、何か面白い映画を観ましたか?」と質問したとき、「シンガポール映画で……」と答えられて。映画のタイトルは忘れましたが(笑)、どれだけ掘り下げているんだ、と衝撃を受けたことを覚えています。

斎藤:岩田さんは根の部分が誠実で、清らかで、遊びがある。ライブを何度も拝見していますが、不思議なのは、あれだけスポットライトが似合う方なのに、今回の役柄のような、漆黒の路地裏に消えていくみたいな部分もある。光と影のコントラストがものすごく強いところへ行き来できてしまう人だと思います。

岩田:(照)ありがとうございます。

斎藤:しかもホン読みのときから、放つ波動みたいなものが、映画のピッチになっている。そこに対して、ほかの役者さんたちはみんな、どういうリズムで不協和音にしていくのか、または一緒に奏でるのか。作品のライフラインとして確実にピッチを創って、ブレがないです。

岩田:すごいですよね、工さんの表現は。ポエムが書けちゃいます。

斎藤:それから美しすぎて、撮影現場では見惚れないように気をつけました。ビルの上から地面を覗いたときの引き込まれるような引力があって。気を抜くと吸い込まれてしまうんです。

岩田:言いすぎでしょう(笑)。めちゃくちゃ工さんのユーモアですから。

監督のイメージに身を任せた耶雲像

Q:瀧本組の皆さんが仕掛けた劇中の罠に見事かかりましたが、瀧本智行監督のたっての希望で、ほぼ順撮りだったそうですね?

岩田:時系列としては、僕は順撮りで、過去のシーンからやらせていただきました。すごく有難かったです。

斎藤:監督はなぜ順撮りにしたのか、その意図は明確です。耶雲さんの心情を大切にしている。順撮りは大変だと思いますけど、これほど丁寧にシーンを紡いでいく現場に対しては、信頼しかないです。

岩田:本当にそうですね。僕は単純に、このお話は自分にとって挑戦でチャンスだとも思って、監督とお会いしたんです。そのとき、この作品に懸けられている情熱をものすごく監督から感じて。その監督の温度感に絶対に負けない耶雲像を創ろうと決めたんです。自分にとっては、欲しい画や芝居がここまで明確にある監督とご一緒するのは初めて。芝居の自由度の高低でいえば、高くはないですけど。耶雲は映画を観た方から感情移入していただくキャラクターですから、それでいいかなと。監督のイメージに身を任せるような思いでした。

パブリックイメージをひっくり返す

Q:耶雲がメガネをかける設定は、岩田さんのご提案ですか?

岩田:監督のアイデアです。視覚的にお客さんにわかりやすくするためと、耶雲がある人物との“対決”でメガネを外すシーンもあります。どこで外すかに監督はかなりこだわって、現場で悩まれていました。あのツールがあったことで、僕もめっちゃ(気持ちを)切り替えるのに助けてもらった気がします。

Q:斎藤さんは実際にカメラマンとしても活動されていますが、木原坂をどのように演じたのですか?

斎藤:「カメラマンって、こうだよね」というポーズでは絶対に木原坂をやりたくないと思いました。カメラは被写体とカメラマンにとって、ひとつのコミュニケーションツールです。撮る行為によって、距離が近くなったり離れてみたり、普通の会話とはまた違う距離になっていく。木原坂にとって耶雲との距離は、常にフィルター越しの世界でもあるのかなと思いました。

Q:絶対的信頼と絶妙な距離感が、予測不可能! サスペンスの大きな力になったのですね。

岩田:個性的なキャラクター、そしてち密な計算の上に成り立つ作品ですから。工さんをはじめ、皆さんの存在は自分が耶雲としてフラットでいるためにも心強かったです。フラットでいてくれ、とにかく振り回されていてくれ、と言われてもすごく抽象的な表現なので、つかみどころがない。自分なりのプランはありつつも監督の欲しい芝居を指針に、共演者の皆さんと一緒に自然と耶雲になっていった感覚はあります。

斎藤:「こうしよう」というプランを持っていくと、相手を見なくなる。反射やリアクションで役をつくっていきたいと思いました。完成した作品を観て、岩田さんが撮影中にいろんなものに蓋をしながら、たぶんご自身と本当に向き合った時間や、そのある種の従順さと、作品が持つすごく大胆な展開にちょっと打ちのめされました。これはきっと、岩田さんの役者としてのターニングポイントになる。そんな作品に立ち会えたという想いです。すごく恋愛感情に近い気持ちになりました。

取材・文:柴田メグミ 写真:杉映貴子