先頃、将棋の羽生善治、囲碁の井山裕太が国民栄誉賞を受賞しました。さらに、平昌冬季五輪のフィギュアスケートで、2大会連続金メダルを獲得した羽生結弦にも、授与が検討されているとか。

注目を集める国民栄誉賞ですが、過去には映画関係者も受賞しています。今回は過去の受賞者を、その功績とともに紹介していきたいと思います。

卓越した演技と映画界への貢献により永遠の二枚目スターが初受賞

内閣府によれば国民栄誉賞は、「広く国民に敬愛され、社会に明るい希望を与えることに顕著な業績があったものについて、その栄誉を讃えることを目的とする」表彰制度。「内閣総理大臣が本表彰の目的に照らして表彰することを適当と認めるものに対して行う」とされています。ようするに時の総理大臣が、さまざまな分野で功績を残した人を表彰するものといったところでしょうか。

映画関係で初の国民栄誉賞に輝いたのは長谷川一夫。「真摯な精進 卓越した演技と映画演劇界への貢献の功」を理由に、1984年に中曽根康弘首相から贈られています。

長谷川といえば戦前・戦後を通じて活躍した映画スター。歌舞伎役者としてキャリアをスタートさせ、1927年に松竹入りして映画界へ。同年、林長二郎の芸名で『稚児の剣法』(犬塚稔監督)にて銀幕デビューを飾ると、その甘いマスクで“永遠の二枚目スター”の異名をとり一躍大人気スターとなります。松竹時代の『雪之丞変化』(1935年)は、今も語り継がれる不朽の名作です。

その後、東宝に移籍。長谷川一夫へ改名してからの第一作目となる1938年公開『藤十郎の恋』、大映に移籍後は『銭形平次 捕物控』シリーズ(1951年~)など、時代劇を中心に数多くのヒット映画の主演を務めました。主演映画の総数は301本といわれ、『地獄門』(1953年)ではカンヌ国際映画祭でグランプリ、アカデミー賞で外国語映画賞を獲得しています。

1963年に「後進に道を譲る」として映画界を離れた後もテレビドラマ、さらには1955年に立ち上げた東宝歌舞伎で活躍しました。ちなみに、「ミーハー」という言葉は、彼が語源だとも(諸説あり)。戦前、女性が好きなものが“みつまめ”と“林長二郎(旧芸名)”だったことを揶揄して、2つの頭文字をとって「ミーハー」とよばれるようになったといわれています。

正月の顔、日本中が愛したフーテンの寅

2人目の受賞者は渥美清。「映画『男はつらいよ』シリーズを通じ人情味豊かな演技で広く国民に喜びと潤いを与えた」ことを理由に、1996年に橋本龍太郎首相から授与されました。

その受賞理由がすべてを物語っていますが、山田洋次監督とコンビを組んだ『男はつらいよ』シリーズの車寅次郎は、渥美の当たり役中の当たり役。全国を旅する“フーテン”の寅さんが、地元の柴又にふらりと戻ってきて、マドンナに恋をするも、結局はフラれてしまう……というのが定番のパターンでした。渥美は主人公の無邪気さと哀愁を見事に演じ、シリーズは国民的人気作となっています。

ちなみに同シリーズは、1968年にテレビドラマ版として製作されたのがはじまり。その最終回で寅次郎が死んでしまう展開が賛否をよび、映画化につながったという説も。映画版はドラマ版が終了した1969年の夏に第1作目が公開されてから計48作(『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 特別篇』も合わせると49作)が製作され、世界最長の映画シリーズとなっています。

“世界のクロサワ”が映画監督としては初の国民栄誉賞に

日本の映画界が世界に誇る名監督、黒澤明も1998年、小渕恵三首相から国民栄誉賞を受賞しています。「数々の不朽の名作によって国民に深い感動を与えるとともに世界の映画史に輝かしい足跡を残された」ことが受賞理由です。

1943年の『姿三四郎』を皮切りに30作を生み出し、『羅生門』(1950年)ではヴェネツィア国際映画祭金獅子賞とアカデミー賞名誉賞を、『生きる』(1952年)ではベルリン国際映画祭特別賞を獲得するなど、国内外から高い評価を獲得。“世界のクロサワ”の異名をとり、ジョージ・ルーカス、スティーヴン・スピルバーグ、マーティン・スコセッシなど、多くの映画人がその影響を公言しています。彼の授賞理由は、まさに納得といったところではないでしょうか。

また、1989年に数多くの映画で主演をつとめた美空ひばりが、2009年には森光子と森繁久彌が国民栄誉賞を受賞しています。しかし、美空は歌謡界に対する功績が、森は舞台「放浪記」で2,000回を超える主演を務めたことが、森繁は優れた演技と歌唱で国民に愛されたことがその理由。純粋に映画界での功績のみを受賞理由とするのは、現時点で今回紹介した3人だけになるのです。

いずれも受賞者が亡くなったタイミングで国民栄誉賞が贈られており、個人的な感想をいえば、存命時にその功績を讃えてほしかった気もします。ともかく現在も、“広く国民に敬愛され、社会に明るい希望を与え”ている映画人は数多く存在しますので、次に映画界から受賞者が出るときには、本人が喜ぶ姿を見たいものですね。

(文/地江仲慶太@H14)

【参考】
『異論・黒澤明』(文春文庫)
『ブリタニカ国際大百科事典』(ブリタニカ)
「黒澤明の世界」(朝日文庫)ほか