定年って生前葬だな。

内館牧子の小説『終わった人』のこの初めの一行に、中田秀夫監督は惚れ込んだ。主人公の壮介は東大卒で銀行に入行、出世街道を進むかに見えたが、なぜか51歳で転籍を命じられ、出向先のシステム会社の専務で定年を迎える。63歳。まだ先は長い。壮介はこのままでは終われないとジタバタ足掻く。

舘ひろしが、壮介役を演じる。「30年間続いた『あぶない刑事(デカ)』を定年退職して、再就職先を探していました」という洒落の利きようだ。2017年4月に盛岡の桜を撮影し、本撮影は7月1日から始まった。8月6日、都内の撮影を見学した。

笑って泣ける映画になるなと思った

(c) 2018『終わった人』製作委員会

「原作が面白くてお話を受けました。それから、『あぶ刑事』で一緒だった近ちゃん(近藤正岳プロデューサー)がやれっていうからね(笑)。小説はシニカルなところがあるんですが、できあがってきた台本は、もっとコメディタッチになっていて、これは笑って泣ける映画になるなと思いました」と語る舘。コメディセンスは明石知幸監督の『免許がない!』や『あぶ刑事』のタカ&ユージの軽妙なやりとりでも実証済みだ。だが、ご本人は「自分の芝居に自信がない」とのたまう。「自分はついやり過ぎちゃう。でも、その点、中田監督がきちんと見てコントロールしてくれるから信頼しています。監督は欲しい画がしっかりあって、点数が辛いというか……粘りますよ(笑)。でも自分はそのほうが好きなんです」

日本の現実をうつしこんだ映画

(c) 2018『終わった人』製作委員会

定年を迎えた壮介は、中田監督いわく「サンデー毎日」な状態だ。まだ50代の中田監督は、この壮介にとても親近感を覚えた。「映画監督って、映画を撮っていないときは、壮介と同じ生活をしているんですよ。僕なんか『リング』を撮り終えたあと、まだ日活の江古田の寮にいましたが、30代でなにもやることがないから、日中の時間をつぶすのに苦労したんです。図書館に行く、昼間からその辺を走る、体育館に行って“元気体操”をする。ときどき映画館に行く。でも、できれば異性と恋もしてみたい……壮介とまったくおんなじ」

監督の言葉を聞くと、セカンドキャリアをどうするかは切実な問題だと身を乗り出す。終身雇用制はバブル崩壊後になくなった。壮介のような銀行員は実質定年50歳。昨年の人口で50代以上は43%を占める。「いや、そんな映画じゃないですよ。そんな前のめりの映画では……。でもまあ、昔はキャリアの終わりが人生の終わりだとほぼ思われていたけど、いまはもう違うわけです。退職後のほうが下手すると長いし、そういう人が多い。それが、日本の現実ですよね」

映画の中の壮介は、暇だ暇だと言うけれども、妻の千草(黒木瞳)が美容師として働いているので、家にいてもやることがなく、ジムやカルチャースクールに通い始める。そこで、絵本作家志望の女性(広末涼子)に恋をしたり、IT企業の顧問を頼まれたりする。 「それを夢物語だと言われるか、こういうこともあるかもよって思ってもらえるかは、ストーリー展開やテンポ感にかかっている。ひとつひとつ積み上げています」

『終わった人』 監督:中田秀夫 原作:内館牧子 脚本:根本ノンジ 出演:舘ひろし、黒木瞳、広末涼子、臼田あさ美、今井翼、田口トモロヲ、笹野高史 配給:東映 ◎6月9日(土)より丸の内TOEIほか全国にて (c)2018「終わった人」製作委員会

取材・文=編集部/制作:キネマ旬報社