文=新田理恵/Avanti Press

インド映画がアツい。昨年12月末に公開された『バーフバリ 王の凱旋』が、評判が評判を呼んで上映延長&拡大中だ。ハリウッド映画以上のエンタテインメント性、圧倒的なカタルシスがクセになり、リピートする人が続出。既にDVDもリリースされているが、興行収入1億円を突破してさらに動員を伸ばしている。

さらに、4月6日にはインド映画の世界興収第1位を記録した『ダンガル きっと、つよくなる』も公開される。国境を越えて熱狂を生んでいる2つの作品には、万国共通のわかりやすい面白さがある。

麻薬のような映画『バーフバリ 王の凱旋』

だいたい、日本でアジア映画といえば、観客層が固定されており、年齢層も若干高めの傾向があるが、『バーフバリ 王の凱旋』は老いも若きも男も女も劇場に吸い込んでいる。しかも、映画を観終わった人が皆「バーフバリ、バーフバリ……」と王を称えたくなるという(実際みなさん称えている)、ある種、麻薬のような映画なのだ。

『バーフバリ 王の凱旋』全国にて絶賛上映中
(C)Arka Mediaworks Property, All Rights Reserved.

2部作からなる『バーフバリ』。本作は2015年の映画『バーフバリ 伝説の誕生』の続編となる。冒頭に前編のおさらいが入る親切なつくりで、後編の『バーフバリ 王の凱旋』から観ても問題なく楽しめる。

架空の古代王国マヒシュマティに生まれた英雄バーフバリを中心に、三代にわたる愛と復讐を描いた壮大な物語。古代インドが舞台の叙事詩ではあるが、日本の時代劇にもよく登場する家督争いがスケールアップしたような構造で、日本人でも入り込みやすい。

そう、『バーフバリ』はとてつもなくわかりやすくつくられている。少しぐらい人物関係がこんがらがっても、超絶アクションのつるべ打ちで細かいことを気にするヒマはない。近年、何かと思い悩み、シリアスになりがちなハリウッド映画のヒーローたちに比べて、ヒーローたる姿勢、立ち位置にブレがなく、圧倒的に強くて正しい。バーフバリは「王」というより、ほぼ「神」。アクション含め荒唐無稽なシーンの連続なのだが、もはや「神」なのでなんでもOKなのだ。この大胆さ、勧善懲悪のスッキリ感から得られるカタルシスに、「もう1回」と“おかわり”したい無限ループに陥る人が多いのである。

インド映画の世界興収第1位『ダンガル きっと、つよくなる』

この超常的な世界感に乗り切れないという人もいるだろう。そんな人にもオススメなのが、『バーフバリ 王の凱旋』に抜かれるまで、インド国内の歴代興収第1位だった『ダンガル きっと、つよくなる』(4月6日公開)だ。こちらも万国共通で楽しめるスポ根×親子のドラマで、中国では2017年の国内興収第7位(約225億円)に入る大ヒットを記録。本作はインド映画の世界興収第1位に躍り出た。

『ダンガル きっと、つよくなる』4月6日よりTOHOシネマズシャンテほか全国公開
(C)Aamir Khan Productions Private Limited and UTV Software Communications Limited 2016

『ダンガル きっと、つよくなる』は、レスリングの国内チャンピオンになりながらも、生活のために引退した男が、娘2人に国際大会の金メダルを獲る夢を託すという実話に基づく物語。レスリングにすべてを捧げる男を、インドの大スター、アーミル・カーンが演じている。

『ダンガル きっと、つよくなる』4月6日よりTOHOシネマズシャンテほか全国公開
(C)Aamir Khan Productions Private Limited and UTV Software Communications Limited 2016

父親に無理矢理レスリングを教え込まれる娘たちは、最初は反発するものの、父の熱意を受けとめて次第にトレーニングに熱中していく。正直、展開は見えているのだが、その予定調和が気持ちいい。わかりやすさに加え、普遍的な家族愛が描かれており、伝統的に家族の絆を重視する中国で幅広い層に受け入れられたのも納得だ。

女性蔑視はインドが抱える深刻な社会問題である。インドの小さな村の女の子が、半袖・短パン姿で男子たちと肌をあわせて組み合うなんて、実際、周囲から相当顔をしかめられる行為だ。

真摯な社会的メッセージもエンタテインメントに!

本作で製作も兼ねるアーミル・カーンは、こうした社会問題をうまくエンタテインメントとして語ることに意欲的である。それぞれ当時のインド歴代興収1位を塗り替えた大ヒット主演作『きっと、うまくいく』(2009年)や『PK ピーケイ』(2014年)でも、教育や差別・偏見に対する問題提起に一役買ってきた。

『ダンガル きっと、つよくなる』4月6日よりTOHOシネマズシャンテほか全国公開
(C)Aamir Khan Productions Private Limited and UTV Software Communications Limited 2016

中国で『ダンガル』が大ヒットしたとき、一部の観客からは「自分の夢を娘に強要し、苦しませる父親の姿はあまりに利己的で受け入れられない」と批判をもって受けとめられた。だが、新しい道を開くには、戦いを仕掛けるパイオニアが必要である。

『ダンガル』の場合、この父娘が置かれたインドの田舎の環境では、もともと女の子が自由に将来を選べる状況ではなかった。劇中に登場する娘たちの同級生は、14歳で会ったこともない男に嫁がされる。確かに、発端は自分の夢の押しつけかもしれないが、父は娘たちの力を信じて鍛え上げる。それだけでも十分革新的であり、英雄譚なのだ。

『バーフバリ』も登場する女性が総じて強い。バーフバリの妻デーヴァセーナなんてセクハラしてきた男の指をチョンと切り落としてしまうし、バーフバリが子どものように甘える国母シヴァガミ様なんて目力だけで敵をやってしまえそうなほどのド迫力。こうした強い女性の描写はインド社会の変化の現れなのかもしれない。

上映劇場での『PADMAN』のスタンディ 撮影=藤田美千子

インドでは今年1月に公開された『PADMAN』(原題)という映画がヒットしているという。生理中の女性を「不浄のもの」とみなす習慣が残るインドで、生理中に洗いざらしの布を使う妻の姿を見た男性が、衛生面に配慮した安価な生理用ナプキンの製造に乗り出すという物語。男女が互いに理解を深め、協力して事を成していく姿が描かれる。

真摯な社会的メッセージをエンタテインメントとして送り出すインド映画界。何でもかんでもわかりやすければ良いというわけではないが、メッセージも、アクションも、ド直球の熱量の高さが国境を越えて多くのファンを生んでいる。