これまで幾度となく舞台化、映画化されているフランスの傑作小説『危険な関係』。今年初め、同小説を基にしたペ・ヨンジュン主演の『スキャンダル』(2003年)のデジタル・リマスター版が上映された。それに続くわけではないが、今度は映画版の本家本元とも言える同小説の初映画化作品、1959年のフランス映画『危険な関係』が、3月24日から東京・YEBISU GARDEN CINEMAにて4Kデジタル・リマスター版で上映される。

公開当時は上映禁止の上、海外輸出も禁止に

コデルロス・ド・ラクロによる原作は、18世紀のフランス貴族社交界を背景に、名うてのプレイボーイのバルモン子爵と、メルトゥイユ侯爵夫人が貞淑な人妻を自分たちの恋愛ゲームにはめていくというストーリー。

初映画化となった本作では、舞台を1960年代のパリへ移行。誰もがうらやむセレブとしてパリ社交界で脚光を浴びながら、互いに愛人をもち、自分たちの情事を報告しあう外交官夫妻、バルモンとジュリエットの愛の果てが描かれる。

公開当時、インモラルな内容ということで本国フランスでは上映禁止となり、海外輸出も禁止になったそうだが、芸能人の不倫が赤裸々に暴露されるいまとなっては、物語自体に驚きはないかもしれない。

しかし、ここで描かれている恋愛関係における男女の本心は普遍的なものだ。行き過ぎた愛情の先に生まれる憎悪、貞淑である存在への妙な興味と好奇心、男のプライド、女の嫉妬心といった夫婦の心の中に渦巻く感情は、いつの時代も変わらない。これこそが『危険な関係』が時代を経ても描き続けられる理由なのだと、改めて実感させてくれることだろう。

(C) 1960 - TF1 DROITS AUDIOVISUELS

モノクローム映像ならではの美しさ

また、今回の目玉である4Kデジタル・リマスター版では、映像の美しさにもぜひ注目してほしい。

全編モノクロームの映像は、まさに光と影のコントラストの芸術。あるシーンでは、人妻に本気になっていくバルモンの戸惑いと苦悩の表情を陰鬱に伝え、ある時は、シャネルに身を包んだジュリエットの美しさをカラー以上に引き立て、際立たせている。

目に飛び込んでくるような極彩色が使われることも珍しくない昨今の映画と比べると、モノクロ映画は“古臭い”と敬遠されてしまうかもしれないが、それはもったいない。モノクロームだからこその白と黒のシンプルな映像美に、この機会に触れてほしいと思う。

(C) 1960 - TF1 DROITS AUDIOVISUELS

往年のフランスの大スターに出会うとき

美しさという点においては、主演二人の俳優にも触れなくてはなるまい。バルモンを演じるフランスの名優、ジェラール・フィリップとジュリエット役のジャンヌ・モローだ。

まず、ジャンヌ・モローは、当時、ルイ・マル監督の『死刑台のエレベーター』(1958年)などの出演で女優として勢いにのってきた頃。そのスターとして輝きはじめた頃の美しさもさることながら、存在感が半端ではない。

愛人である若者・コートが18歳の女性と婚約したことを知り、バルモンに彼女を誘惑するよう促す際に、悪魔的な表情を見せたかと思うと、次には夫に尽くす妻のようなしおらしい、なんの穢れもない笑顔を見せる。天使にも悪魔にも見え、触れたいような触れたくないような、そんなヒロインとして存在し、バルモン同様に我々も翻弄されることになる。

一方、バルモンを演じたのは、当時、カリスマ的な人気を誇ったジェラール・フィリップ。彼の哀愁を帯びた姿も忘れがたい。

実は本作は、彼の遺作。すでに撮影中から病気と闘っていたとのことだが、この作品を最後に彼は36歳という若さでこの世を去ることになる。それを知って観てしまうからだろうか、ジェラール・フィリップ演じるバルモンには、常に“死”がまとわりついているかのようだ。笑顔で軽口をたたいていてもどこか“悲壮”な雰囲気が顔を覗かせているようでならない。

バルモンのたどる運命は、ジェラール自身の命運とも相重なって、何とも言えない感傷を残す。最後の輝きとでも言うべきか、貴公子と呼ばれたジェラール・フィリップという役者のもつ“美”が刻まれている。

ちなみに監督のロジェ・ヴァディムは『映画よ夢の貴公子よ ~回想のジェラール・フィリップ』(著:アンヌ・フィリップ&クロード・ロワ/訳:山崎剛太郎)の中で、「あれほど深く、徹底的に自分の仕事に愛情を注ぎこんだ人は見たことがない」とジェラール・フィリップのことを語り、彼の存在なしでは本作は成り立たなかったことを明かしている。今回の4Kデジタル・リマスター版での上映は、この早世の名優の名演に出会う機会でもある。

ほかにも、『ラ・ラ・ランド』(2016年)で再び注目を集めたセロニアス・モンクや、アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズなどのモダンジャズのナンバーが劇中に使われていたり、作家のボリス・ヴィアンが出演していたりと注目どころの多い本作。この機会に、今から60年前の傑作を60年後のいま楽しめる歓びをかみしめたいものだ。

(文/水上賢治@アドバンスワークス)