3月30日から公開される映画『レッド・スパロー』では、ジェニファー・ローレンスが持ち前の美貌と頭脳で捜査対象を誘惑する、“スパロー”とよばれる主人公の女スパイ・ドミニカを演じます。

事故でバレリーナになるという夢を断たれた後、ロシア政府が秘密裏に組織した諜報機関の一員として、ハニートラップを仕掛ける訓練を受けたドミニカ。自分の肉体を使った誘惑や心理操作などを駆使し、情報を盗み出す女スパイとして活躍します。

映画の世界には、これまでにも謎めいたパーソナリティーとその美しいルックスが際立つ女スパイが多数登場してきました。今回は『レッド・スパロー』のドミニカのように、自らの美貌を武器に男性たちを誘惑する、色仕掛けが魅力的すぎる女スパイたちを紹介します。

純朴で薄幸の苦労人を演じ、男の情につけ入る『ジョーカー・ゲーム』

第2次世界大戦前夜を舞台にした映画『ジョーカー・ゲーム』(2015年)は、日本の諜報組織「D機関」に所属する諜報員の嘉藤(亀梨和也)が主人公。アメリカ大使グラハムが持つ機密文書「ブラックノート」を奪うため、彼に近づきますが、そこで出会ったのが屋敷のメイドとして働くリン(深田恭子)でした。

リンは天涯孤独で、彼女をこき使うグラハムから虐待を受けるなど幸の薄い女性……のように思われます。しかし、それは嘉藤を陥れるための伏線だったのです。地味なメイド服を着ている彼女が、不意にセクシーなチャイナドレスを着こなし、いつもとは違う妖艶な魅力を見せつけたことで、嘉藤はたまらなく彼女に気をひかれてしまいます。

中でも、見どころなのがブラックノートを盗んで屋敷を去ろうとする嘉藤に、リンが助けを求めるように抱き着くシーン。彼女の顔には男を欲する女性の欲情がまざまざと感じられ、嘉藤はたまらずに熱いキスを交わしてしまいます。そのまま身体を求めようとする嘉藤をするりとかわし、リンはブラックノートを盗み出してしまいますが、彼女の情熱的な姿を見ていると「騙されるのも無理はないな」と思えてしまうのです。

この時の彼女の息遣いが何ともいえずに艶っぽく、リアルな情愛を感じさせたリン、そしてリン役の深田恭子のプロの演技が光ります。その後に忽然と姿を消す様は、男をその魅力で陥れる王道の悪女系女スパイそのものです。

美しい外見とその魅力の裏に潜む狂気『007 ゴールデンアイ』

人気スパイ映画「007」シリーズの『007 ゴールデンアイ』(1995年)に登場するオナトップ(ファムケ・ヤンセン)は、ゴージャスかつクールな見た目で、洗練された大人の女性を絵に描いたようなセレブ美女です。しかし、その正体は元ソ連の軍人という経歴をもつ、国際犯罪組織「ヤヌス」に所属する女スパイ。敵を殺す時は、興奮しながら銃を乱射して歓喜の声をあげる、なんとも狂気的なキャラクターです。

オナトップは作中で、軍人にハニートラップを仕掛けるのですが、注目なのがその手管。男の上に馬乗りになり、獣のような声をあげ、激しく身体をかきむしるような濃厚すぎるプレイ……。彼女のキャラクターそのままに過激すぎて、思わず目を覆ってしまいます。それは身体的にも精神的にも男を屈服させるものでしたが、そこからが彼女の狂気の真骨頂。こともなげに自分の足を使い、男を足で締め上げて殺してしまうのでした。

性的な快楽の先に、死というカタルシス的な快楽を与えるオナトップ。彼女のハニートラップは男を狂わせ、破滅させる狂気の技なのです。作中ではジェームス・ボンド(ピアース・ブロスナン)に対しても、野獣のように激しい誘惑を行います。ボンドはそれに必死に抵抗しますが、2人の様子が恋愛映画の激しいラブシーンのようにも見え、彼女の狂気さを際立せるのです。

ウブな女子大生が有閑マダムを演じ、冷酷な男を誘惑する『ラスト、コーション』

第二次大戦中の日本統治下の上海を舞台にした映画『ラスト、コーション』(2007年)に登場する女スパイは、上流階級の有閑マダムを演じるチアチー(タン・ウェイ)。実は彼女、元はまじめでうぶな女子大生で、専門機関で訓練を積んだプロではありません。抗日運動に燃える仲間たちに巻き込まれ、ハニートラップを仕掛けるために、仲間に処女を散らされたという悲しい過去の持ち主です。

チアチーが近づこうとする傀儡政権の重要人物イー(トニー・レオン)は、冷酷で猜疑心が強い人物。彼女が最初に身を差し出した時はレイプ同然の行為を受けます。その後も、するどい眼光で悶える彼女を見つめるイーに対し、視線をそらさずに身体を重ねる彼女の姿は、まるで寝技で命の奪い合いをしているかのようです。

まだ若く幼いかわいらしいルックスの彼女が、厚化粧や分不相応な高級チャイナドレスに身を包み、偽りの人物であるマイ夫人を演じている虚構の日常。その中で、激しく身体を重ねることで徐々にメイクが落ち、素顔があらわになっていく描写は、普段は他人に見せることができないチアチー本来の姿があらわになっていくようにも感じられます。

本音を見せないイーと全裸で絡み合う時だけが、唯一本来の自分を感じることができるという彼女の悲しみ。そして、その悲しみを乗り越えないと任務を全うできないという、女スパイの過酷な現実が表現されていました。

ハニートラップはターゲットの男性を落とすのには有効な手段ですが、このチアチーというキャラクターは、他のスパイ映画があまり描くことのない“代償”について考えさせられます。

『レッド・スパロー』/3月30日(金)全国ロードショー/配給:20世紀フォックス映画/(C) 2018 Twentieth Century Fox Film Corporation

映画『レッド・スパロー』では主人公のドミニカがターゲットとなるCIA職員に近づき、お互いに惹かれ合いながらも、だまし合いの連鎖へと陥る中で、ロシアとアメリカという2大国間の裏にある陰謀に巻き込まれていきます。そのハニートラップの心理戦を、アカデミー賞受賞実績もあり、演技力にも定評があるジェニファー・ローレンスがどのように演じるのか。そして、陰謀と欲望が渦巻くストーリーが迎える信じがたい結末とは……。ぜひ注目してください。

(文/Jun Fukunaga@H14)