先日の平昌五輪で、日本勢がワンツーフィニッシュを飾った男子フィギュアスケート。そんな後輩たちの勇姿を自分のことのように大号泣していた織田信成の姿は大きな話題となりました。“泣き虫キャラ”を確立した彼ですが、同様に豪快な泣きっぷりが求められる“泣き屋”という仕事をご存知ですか?

アジア諸国をはじめ世界中に存在した“泣き屋”とは?

泣き屋とは、葬儀の時に遺族に代わり、悲しみや辛さ、喪失感などを表現するために大げさに泣きじゃくることを生業とするれっきとした職業です。この泣き屋は、古代から日本全土に見られていた風習で、沖縄などの一部地域では戦前まで続いていたと言われています。

世界的には、朝鮮半島や中国、台湾が特に有名で、中国では葬儀での泣き屋の数が、家の名誉につながるとされていたほど重要な存在だったとか。また古代エジプトの壁画にも泣き屋と思われる人物が書かれていたり、聖書に記載があったりと、アジア圏だけでなく、中東やイスラム圏、ヨーロッパにも広く実在していたとされています。

歯を磨きながら慟哭!? 映画で知る「泣き屋」

そんな泣き屋ですが、これまでに、映画の題材として幾度となく取り上げられています。2012年に日本公開された台湾映画『父の初七日』は、台湾中部の田舎町を舞台に、主人公の父の死から七日間の“遺族のドタバタ”をコミカルに描いたヒューマンドラマ。中でも、劇中で描かれる台湾の葬儀事情には仰天させられます。

遺族は、決まった時に棺のそばで泣かなければならないという儒教のしきたりに則っており、食事中や歯を磨いている時でも容赦なく泣くことを命じられます。また、告別式には楽隊やダンサーが現れて派手なパフォーマンスを披露したり、泣き屋は、なんとマイクをつけてとにかく過剰に泣き叫んだり、とにかくド派手! 映画とはいえ、いささかやりすぎでは……と思ってしまいますが、実際の台湾でも、このような葬式が珍しくないのだとか。日本との文化の違いには驚かされてしまいます。

また、2004年に日本公開されたカナダ・フランス・韓国合作の『涙女』もタイトルが示す通り、泣き屋の女が主人公。貧しく悲惨な境遇のヒロインがひょんなことから泣き屋としての才能を発揮し、売れっ子の泣き屋になるまでが描かれます。踊りながら、泣きわめく主人公の豪快かつド迫力の泣きっぷりは必見です。

現代の泣き屋にスポットを当てた異色の人間ドラマ『見栄を張る』

(C)Akiyo Fujimura

これらの作品とは一線を画し、泣き屋を別の視点でとらえた作品が『見栄を張る』(3月24日公開)です。売れない女優・絵里子が、姉の死をきっかけに、生前、姉が生業としていた泣き屋の仕事につくというストーリー。本作での泣き屋は、単なる風習としてではなく、他者に対する見栄や現状への不安など、体裁を気にしがちな現代人である絵里子の成長を表すものとして描かれます。

このことが顕著に描かれているのが葬儀シーンです。泣き屋でありながら絵里子は、大声をあげて泣きじゃくるような見栄えのする泣き方はしません。参列者の悲しみに寄り添うように、さめざめと涙をながすのです。泣くことを通して、見栄っ張りだった自分を浄化していく彼女の表情は、どこか清々しく、感動を誘います。

(C)Akiyo Fujimura

現代の日本にはもう存在していないとされている職業・泣き屋。遺族とともに死者を弔い、悲しみに寄り添うその姿は、人間関係が希薄になったといわれる現代社会にこそ必要なのではないでしょうか? これらの映画は観るものにそんな問いを投げかけてきます。

(文/スズキヒロシ・サンクレイオ翼)