ホームレスが一夜にして大富豪になった実話を基にした、軽妙洒脱な好作『ロンドン、人生はじめます』(4月21日より公開)。高級マンションに住むエミリーは、森の中に小屋を建てて暮らすドナルドと出会って憂鬱な毎日が活気づき、八方塞がりだった人生も動きはじめる。そんな大人のラブストーリーには偶然を人生の必然に変える、ひいては明日を幸せにする日常の中のヒントが隠されている。

自然の中でのピクニックやディナーを通して、惹かれあっていく二人

エミリーは高級マンションに住みつつも、夫が亡くなって発覚した浮気や借金、さらには減っていく貯金、おせっかいな隣人たちとの付き合いに悩み、将来についても何から手をつければいいのか分からない日々が続いていた。

彼女はある日、夫の遺品を整理する際に見つけた双眼鏡で外を眺めたときに、緑豊かな森の中に、ドナルドの家を見つけて興味を抱く。その後二人は知り合い、自然の中でピクニックやディナーを共にするようになり、お互いに惹かれあっていく。

だが、ドナルドは森を開発しようとする不動産会社に立ち退きを迫られてもいた。彼自身は“なるようになれ”といった態度だが、エミリーは家を守るために社会と戦うことを決意する。自分の人生に関しては問題を先延ばしにしてきた彼女だったが、ドナルドのためには、が然積極的に。果たしてドナルドは森から追い出されてしまうのか。さらには人生の折り返し地点を過ぎた二人の恋の行方も気になるところだ。

(C) 2016 RELIANCE ENTERTAINMENT PRODUCTIONS 6 LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.

偶然が好奇心を経て、人生にとって必然の出会いに繋がる

すべてのきっかけは、エミリーが森を覗いた偶然の出来事だった。とはいえ、彼女はその簡素な家に、打算的な毎日を送るマンションの住人とは違う、実直で自由な暮らしを想像した。要は彼女のないものねだりが、ドナルドに対する好奇心になったと言える。

一見するとあべこべで、住む世界も全く違う二人だが、ピースが欠けて心のパズルが埋められないといった共通点を抱えている。

ドナルドは死の淵にある最愛の人から逃げ出したことがきっかけで森の中で暮らすようになり、そうした負目を世捨て人のような生活で身についた偏屈さで見て見ぬ振りをしてきた。それだけに最初こそ話しかけてきたエミリーに煙たさを感じたものの、ドナルドもひとりの人間として自分の存在に気づいてくれたことを嬉しく思ったし、だからこそ彼女自身にも興味を抱いたと言える。

かたや先行きの見えない未来、かたや過去に対する贖罪と、パズルのピースは違えども、偶然が好奇心を経て、人生にとって必然の出会いとなるには条件は十分だろう。だが、いきなり二人が森の中で出会っていたとしたら、お互いを“違う種類の人間だ”とやり過ごしていた可能性は高い。実生活に当てはめてみても、つくづく出会いとは不思議なものだ。

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一難で終わらないのも今作。原因は生活に対する男女の認識の差!?

そして、エミリーはドナルドとの時間の中で、自分の幸せが彼と一緒にいることだと確信する。その結果、ドナルドの家を守るため周りに協力を求めたり、ドナルドを連れて弁護士の元を尋ねたりと、大切なものを守るために積極的に動き回り、たくましくなっていく。前半での“これからの人生のために、何から手をつければいいの?”と思っていた彼女とは見違えるほどだ。

これ以上はネタバレになるので物語の結末は劇場で確認してほしいが、実を言うと、一難で終わらないのも今作のポイントだ。エミリーとドナルドには、二つ目の問題が待ち受けている。その原因となるのが、生活に対して現実的な女性と、子供っぽい無頓着さがある男性との意識の違いだ。

エミリーが立ち退き問題を通して未来に対して前向きになり、二人の将来についてより良い形を考えるのに対し、ドナルドは、現在の小屋での暮らし以上のことを望んではいない。もちろん互いに、二人でいることが何よりの幸せであることは分かっている。だが、「二人でいる形」が異なるのだ。

人はいつでも変われる、さらにそのきっかけは何気ないところに転がっていることを気づかせてくれる本作。この映画を観終わった後、少しでも気持ちが前向きになれば、幸せのきっかけはグッと見つけやすくなるはず。そう、エミリーがドナルドと出会い、新たな人生を始められたように。

(文/兒玉常利@アドバンスワークス)