「無人島に1つだけ物を持っていけるとしたら?」。ナイフ、ライター、釣り竿……生きるために必要な道具がいろいろ頭に浮かびますが、もしかすると一番必要なのは、永遠とも思える救助までの待ち時間を有意義に過ごす“娯楽”なのかもしれません。

無人島でのサバイバルを描いた映画『海辺の週刊大衆』(4月14日公開)で、ピース・又吉直樹扮する主人公とともに無人島に漂着したのは、“キング・オブ・週刊誌”こと「週刊大衆」。救助を待つ間、男がすることといえば週刊大衆を携え、妄想の世界へ旅立つのみ……という一風変わったサバイバルが繰り広げられます。今回は原作者・せきしろの世界観に、盟友・又吉が見事な融合を果たしている本作のシュールすぎる魅力をご紹介します。

似た者同士? ピース・又吉とせきしろの知られざる師弟関係

せきしろと又吉の2人は、実はかなり親密な関係です。吉祥寺の街をふらふらと彷徨っていた又吉に昔の自分の姿を重ね、何かと気にかけていたのがせきしろで、2009年に、自由律俳句集「カキフライが無いなら来なかった」を共著で上梓。また、大喜利に定評のある又吉ですが、実は“大喜利の師匠”と仰ぐのが何を隠そうせきしろです。本作でもその大喜利力が遺憾なく発揮されています。

舞台挨拶で「『週刊大衆』を基に妄想を繰り広げるせきしろさんの生活が描かれているので、感情移入しやすかった」と又吉はコメントしましたが、同じ価値観を共有する2人だからこその、良い意味で力の抜けたシュールな笑いが妙なリアリティとともに映し出されています。

雑誌1冊で妄想は無限大!大喜利で待ち時間を埋め尽くす

無人島でひとりぼっちになった主人公は、週刊大衆を片手に様々な妄想を巡らせていきます。例えば、読む以外の「週刊大衆の使い道」を考えてみたり、河原や放置自転車のカゴの中など「週刊大衆が似合う場所」を考えてみたりと、それはもはや“週刊大衆大喜利”。他にも「週刊大衆を使った新競技」「週刊大衆かるた」を考案するなど、救助までの待ち時間をひたすら週刊大衆を使ってやり過ごします。

考えてみれば、私たちの生活でも役所や病院の待合室、テーマパークや飲食店の行列など、長い待ち時間にげんなりすることも少なくありません。そんな時にふと身の回りにあるもので、無限の宇宙を創造する大喜利に興じてみるのも悪くないかも?

何も起こらないサバイバル生活…ひたすら待つ男に待ち受ける運命は?

男は、いつか誰かが助けに来るだろうと受け入れ態勢万全で救助を待ち焦がれます。困った時にいつでも来てくれる弟がふらっと無人島に現れるんじゃないか? もし現れるのならどうやって登場するだろう? と、ここでも男は大喜利的に妄想。さらに、週刊大衆の表紙を飾る磯山さやかを妄想に登場させると、スイカ割りをさせたり、入水自殺をさせたり、砂に埋もれた自由の女神像を発見させたり……。海辺×磯山さやかというお題で、思いつく限りの大喜利をし、現実から逃避していきます。

しかし、現実ではいくら待っても何も起きません。そんな男の妄想はやがて、ここぞという時に行動を起こせず、常に他人のアクションを待っていた自身の淡い記憶に向かっていきます。絶体絶命の窮地に追い込まれてようやく自分自身と向き合えた男が、妄想と自問自答の果てに見たものとは……?

無人島×週刊大衆という限られた題材で、無限の世界を作り出す無気力文学の鬼才・せきしろのセンスに思わずクスリとさせられますが、そこには、「生きるとは何か」という普遍的な哲学が散りばめられています。自らの生き方についてもうっかり考えさせられるそんな不思議な魅力が詰まった1本となっています。

(文/バーババ・サンクレイオ翼)