文=平辻哲也/Avanti Press

『グラン・ブルー』(1988年)や『レオン』(1994年)で知られる仏の巨匠リュック・ベッソン監督。その最新作は、SF超大作エンタテインメントだ。『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』(3月30日公開)は、遠い銀河の宇宙人との交流が叶った未来の宇宙を舞台に、少し軽薄なヴァレリアン(デイン・デハーン『アメイジング・スパイダーマン2』)と気の強い美人のローレリーヌ(カーラ・デルヴィーニュ)という2人の連邦捜査官の活躍を描く。その映画化は、原作のバンド・デシネ(フランス語圏のコミック)を目にした少年時代からの夢だったそうで、好きなSF世界をごちゃ混ぜにした「おもちゃ箱」のような作品だ。

ベッソン監督の好きなSF世界を集めた「おもちゃ箱」のような作品
『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』3月30日より全国ロードショー
(C)2017 VALERIAN S.A.S. - TF1 FILMS PRODUCTION

実はゆりやんにキレてない!? ベッソン監督途中退席の真相

ベッソン監督がこの映画の来日イベント中、写真撮影を放り出して、途中退席した、という報道を見て、驚いた。報道によれば、日本語吹替版のキャストを務めたタレントのゆりやんレトリィバァのギャグが滑りまくり、不機嫌になったベッソン監督が写真撮影時にとうとうキレた、ということだ。

主人公のヴァレリアン( デイン・デハーン、上の写真)と、ヒロインのローレリーヌ(カーラ・デルヴィーニュ、下の写真)
『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』3月30日より全国ロードショー
(C)2017 VALERIAN S.A.S. - TF1 FILMS PRODUCTION

わざわざ来日して、公衆の面前で“キレ芸”を見せるとは、相当の変わり者に見えるが、真実はそうではないようだ。関係者は「監督は、単に写真撮影が苦手なんです。イベントでは一通り写真も撮ったはずなので、ある程度で引き上げただけ。写真撮影後もずっとファンのサインに応じていましたし、その後の控室でも、ゆりやんさんと和やかに話していました。どうして、あんなふうに書かれたのか? まったく分かりません」と首を傾げる。

踊り子エイリアンのバブル(リアーナ)。日本語吹き替えはゆりやんレトリィバァ
『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』3月30日より全国ロードショー
(C)2017 VALERIAN S.A.S. - TF1 FILMS PRODUCTION

監督の写真嫌いは、映画業界では知られた話だ。しかも、写真撮影にこだわるというのは、世界的には日本マスコミ独特の商習慣で、来日したハリウッドスターたちは通訳に「なぜ、日本はそんなに写真が好きなのか」と聞くほど。外見を売り物にしない監督が、こういう行動に出るのも、理解できないわけではない。事実、その後はTOKYO MX の情報バラエティ「5時に夢中!」に生出演し、スタジオでジョークを飛ばすなど、キャンペーンはつつがなく終わった。

本当に撮りたかったのは、少年の心を躍らせるSF娯楽作

ベッソン監督が『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』の原作に出会ったのは10歳の時。たまたま手に取った雑誌で目に止まり、勝ち気で美人のヒロイン、ローレリーヌに恋をした。『グラン・ブルー』や『ニキータ』(1990年)といった大人な雰囲気の代表作はあるが、自身が好きなのは少年の心を躍らせるようなSF娯楽作のようだ。

『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』3月30日より全国ロードショー
(C)2017 VALERIAN S.A.S. - TF1 FILMS PRODUCTION

思い返せば、デビュー作『最後の戦い』(1983年)も、文明が破壊された近未来を舞台に4人の男が死闘を繰り広げるSF。大気汚染のため、喋れないという設定で、一切セリフなしで描かれる、モノクロの野心作だ。資金面の問題をクリアするためにアイデア勝負で打って出たが、当時、金があったらきっとド派手な作品を作ったに違いない。

その後、『フィフス・エレメント』(1997年)で念願のSF大作を手がけた。そのデザイナーを本作の原作者(作画)ジャン=クロード・メジエール氏に依頼。原作『ヴァレリアン』に描かれる空飛ぶタクシーをひと足先に登場させている。

しかし、なぜ、本作を先に撮らなかったのか? それはSFXの問題だった。当時の技術は、銀河を舞台とした壮大なスケールの話を描き切るまでに至らなかったのだ。そんなとき、3Dデジタル技術を駆使した『アバター』(ジェームズ・キャメロン監督、2009年)の現場を見て、「これなら撮れる」と決意したという。

『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』3月30日より全国ロードショー
(C)2017 VALERIAN S.A.S. - TF1 FILMS PRODUCTION

最新技術の贅を尽くし、古今のSF映画を“いいとこ取り”

作品は単純明快な勧善懲悪のストーリー。キャラクターや造型は数々のSF映画を “いいとこ取り”し、ごちゃ混ぜにしたという印象だ。ヒト型宇宙人の造型はどこか、『アバター』的であるし、その他にも『スター・ウォーズ』的なキャラクターも出てくる。だが、実際は逆で、『ヴァレリアン』そのものがSF映画の原点であり、多くの映画監督に影響を与えているのだ。ベッソン監督はその世界観を忠実に描いたとも言える。

俳優陣では、カーラ・デルヴィーニュ演じるローレリーヌのクールビューティぶりが魅力的だ。モデル出身で、『スーサイド・スクワッド』(2016年)では魔女エンチャントレスを演じ、ゲーマー、シンガーとしても活躍する多才な英女優だ。なんでも、ベッソン監督は、母親の次に好きな女性がローレリーヌなのだとか。女殺し屋が主人公の『ニキータ』、15世紀のフランスの女傑を描く『ジャンヌ・ダルク』(1999年)など、美しく強いヒロインが大好きだ。ベッソン映画のヒロインの原型がこのローレリーヌなのだろう。ほかにも、イーサン・ホーク、ジョン・グッドマン、ルトガー・ハウアー、音楽界からはリアーナ、ハービー・ハンコックといった豪華な顔ぶれが脇を固める。

宇宙海賊アイゴン・サイラス(上/声はジョン・グッドマン)と、客引きのジョリー(下/イーサン・ホーク)
『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』3月30日より全国ロードショー
(C)2017 VALERIAN S.A.S. - TF1 FILMS PRODUCTION

自身最大の製作費を手にしたベッソン監督が少年の心のまま、最新SFXを使い、贅の限りを尽くして描いたのが『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』。その思いのたけはデヴィッド・ボウイの初期の名曲「スペイス・オディティ」(1969年)をBGMに、人類と宇宙人の交流の歴史を描くオープニングからひしひしと伝わってきた。