稲垣吾郎、草彅剛、香取慎吾。“新しい地図”として再出発した彼らにとって、初めての映画となる『クソ野郎と美しき世界』が、4月6日(金)より2週間限定で全国公開される。詳細は謎に包まれているが、監督の顔ぶれは豪華そのもの。思えば、この3人はかつても、錚々たる顔ぶれの監督たちと仕事をしてきた。ここでは、“新しい地図”の映画史を振り返ってみたい。

稲垣吾郎、草彅剛、香取慎吾と交わる映画人たち

『クソ野郎と美しき世界』では、バイオレントな作風とエッジなテーマで熱狂的なファンを抱える園子温監督が稲垣のパートを手がけ、演劇界の雄で、『ミツコ感覚』(2011年)や『At the terrace テラスにて』(2016年)など映画作品でも気を吐く山内ケンジが香取のパートでメガホンをとっている。

また、草彅編を手がけたのは、実に27年ぶりの監督作品となる爆笑問題の太田光。3人が集結するフィナーレをディレクションしたのは、SMAPが2015年に発表した楽曲「華麗なる逆襲」のMVも手がけた気鋭のMVディレクター・児玉裕一だ。

稲垣吾郎、草彅剛、香取慎吾の活動は多岐に渡っており、俳優業がメインではなかったため、出演映画もそれほど多くはない。だが、3人とも、専業俳優が人生で一度あるかないかの決定的な邂逅を、現代日本映画界を代表する監督たちと果たしている。

(C)2018 ATARASHIICHIZU MOVIE

三池崇史×稲垣吾郎、阪本順治×香取慎吾

まず、稲垣吾郎。3人の中では最も主演デビューが早かった彼だが、近年は主にバイプレイヤーとして柔軟な芝居を見せている。その大きなきっかけとなった作品が、三池崇史監督の『十三人の刺客』(2010年)だった。ここで稲垣は、暴君・松平斉韶の底知れぬ残虐性を、無垢なる奇っ怪さで体現してみせた。

『十三人の刺客』で描かれる斉韶の性的嗜好は明らかに異常だが、稲垣はただ「狂っている」だけのキャラクターにはしなかった。狂気のヒールという立ち位置は実は簡単だが、彼のアプローチはそうではなかった。

狂っているのか、狂っていないのか、わからない。その境目に闇が潜んでいる。いちばん怖いのは、あからさまなクレイジーさではなく、その精神回路がどうなっているのか判別がつかないことである。

三池監督が用意した容赦ないシーンの数々の中で、稲垣は決して観客に“尻尾をつかませない”万華鏡のごとき狂気を表現。あたかも、泥酔と素面が隣り合わせにあるような、とりとめのない人間性で魅了したのである。

一方、香取慎吾は『座頭市 THE LAST』(2010年)で、多くの俳優たちから愛され、リスペクトされる阪本順治監督とタッグを組んだ。言うまでもなく、座頭市は勝新太郎、そしてビートたけしが演じた日本映像界屈指の名キャラクターである。かつて勝新に出演依頼したこともある阪本監督にとっても特別なキャラであることは想像に難くない。

そんな特別な存在を香取は、言い知れぬ哀しみを秘めた盲目の達人として、心に沁み入るように演じた。その独特の風情に打たれた阪本監督は後に『人類資金』(2013年)でも香取を起用している。

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黒沢清、塩田明彦×草彅剛

草彅剛は、舞台でも高い評価を得ており、「蒲田行進曲」で1999年・2000年に彼を起用したつかこうへいから絶賛された。

映画でもスクリーンに映える強度のある芝居を見せているが、彼が黒沢清監督作品に出演していたことは思いの外、認知されていない。役所広司主演の『降霊〜KOUREI〜』(2000年)がそれで、この作品はTV放映された後に、あまりの出来の良さから劇場公開された。ある夫婦の転落を描いたこのホラーで草彅は、すべての悲劇の始まりとなる青年を、特異な存在感でかたちにした。

物語的には善意の協力者のはずだが、どこか正体不明で、何らかの引き金を握っていそうな人物。その不可解にしてデンジャラスな個性を淡々と演じ、黒沢作品の住人にふさわしいオーラを見せつけた。いつの日にか、本格タッグを組むことを待ちたい。

さらに草彅は、当時、新進気鋭だった塩田明彦監督の『黄泉がえり』(2003年)にも登板。当初、3週間限定公開の予定だった本作を大ヒットに導き、結果、『黄泉がえり』はロングランとなった。寡黙だがパッショネイトな主人公像は、感動の群像劇を推進する力となった。

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なお、阪本監督の新作『半世界』(公開時期未定)には稲垣が主演する。映画では脇役の続いていた稲垣がここでどんな芝居を見せるのか、とても楽しみだ。様々な映画人たちと顔を合わせることで、“新しい地図”の映画史はさらに拡張していくであろうことが期待できる。

(文/相田冬二@アドバンスワークス)