4月14日公開の『アメリカン・ヴァルハラ』は、“パンクのゴットファーザー”の異名を持つイギー・ポップが2016年に発表したアルバム「POST POP DEPRESSION」の制作およびリリースツアーを追ったドキュメンタリーです。

イギー・ポップといえば、アメリカのロックバンド、ザ・ストゥージズのフロントマンとして圧倒的な存在感を放ったカリスマ。しかし本作が映すのは、“ザ・ストゥージズの”ではなく、“今”を生きるイギー・ポップの姿です。

今の姿から見えてくるイギー・ポップの真髄

(c) 2017 IGHO LLC. Released under licence from Eagle Rock Entertainment Ltd.  Eagle Rock Entertainment is a Universal Music Group company.

1967年にイギー・ポップを中心に結成されたバンド、ザ・ストゥージズ。フォークやサイケデリックなどの新しい音楽が次々に登場した60〜70年代において、彼らはどのカテゴリにもくくることのできない確固たるオリジナリティをもって人々を強く惹きつけました。

エネルギッシュなサウンドに乗せてステージを駆け回るイギーは、雄叫びやダイブに止まらず、ピーナツバターを身体に塗ったり、裸でガラスの上を転げ回って搬送されたりと、過激なパフォーマンスを繰り広げました。バンドは結成から7年で一旦解散してしまいますが、後の音楽シーンに大きな影響を与え、セックス・ピストルズ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、ザ・ホワイト・ストライプスらが憧れの存在としてその名を挙げています。

またイギー・ポップのファンは音楽業界のみならず、映画界にも多数。その1人が、ジム・ジャームッシュです。ジャームッシュは一昨年、ザ・ストゥージズに迫るドキュメンタリー『ギミー・デンジャー』を発表。同作にはイギーも出演していますが、あくまでザ・ストゥージズの歴史を中心に描いた作品となっています。

対して、今回の『アメリカン・ヴァルハラ』で描かれるのは、さまざまな過去を背負った上で目の前のアルバム制作に励む、68歳(※撮影時)のイギー・ポップ。現在の彼の姿を追うことによって、イギーが半世紀近く“カリスマ”と呼ばれ続ける所以が見えてくるのです。

珠玉のメンバーと紡ぐ音楽と、イギーの素顔

(c) 2017 IGHO LLC. Released under licence from Eagle Rock Entertainment Ltd.  Eagle Rock Entertainment is a Universal Music Group company.

映像は、砂埃舞う荒野の中を1台のバイクがやってくるところから始まります。乗っているのは、クイーンズ・オブ・ザ・ストーンエイジのジョシュ・ホーミ。そして、バイクが止まった砂漠のど真ん中のスタジオこそが、アルバム制作の拠点となる場所です。

本作に登場するのは、ジョシュ・ホーミはじめ、彼と同じくクイーンズ・オブ・ザ・ストーンエイジに属すディーン・フェルティタ、アークティック・モンキーズのマット・ヘルダースなど、アルバム制作に携わったメンバーに限られています。しかしそのことが、彼ら一人ひとりが持ち寄った才能と次第に高まっていく熱量、イギー・ポップへの深い尊敬の念を感じさせ、観客はアルバムの成功を確信せずにはいられなくなります。

(c) 2017 IGHO LLC. Released under licence from Eagle Rock Entertainment Ltd.  Eagle Rock Entertainment is a Universal Music Group company.

また、描かれるのはアルバムの制作過程ですが、その中でイギーが覗かせる素顔も見どころです。過激なパフォーマンスゆえにワイルドなイメージがあるイギーですが、ハンモックの上でゴロゴロと寛いでみせたり、薬物中毒に陥った20代を振り返り「おかげで30代は大変だった」と後悔を口にしたり。はたまた、「アメリカでは働かなくては食べていけないから」と笑いながら語り、音楽活動を“仕事”と捉えていることや、独自のスタイルは仕事を突き詰めた末にたどり着いたものであることを明かしたり……。世間のイメージとは異なる一面に、思わず親近感が湧いてきます。

みなぎるようなイギーのパワーは今なお健在!

(c) 2017 IGHO LLC. Released under licence from Eagle Rock Entertainment Ltd.  Eagle Rock Entertainment is a Universal Music Group company.

やがてアルバム制作が佳境を迎えた頃、イギーのもとにある人物の訃報が舞い込みます。これまでもバンドメンバーを見送り、さらにかけがえのない人を失ってしまったイギー。盟友の死に直面し、その心中は察するに余りありますが、彼は予定通りツアーのリハーサルに参加することを決めるのです。

そしてステージが幕を開けると、イギーを迎えたのは地鳴りのような歓声でした。イギーもまた、それに呼応するように歌声を轟かせ、場内を沸かせます。ツアーの最後はロンドンの権威ある演劇場ロイヤル・アルバート・ホールで行われますが、権威がどうしたと言わんばかりに声高に発するのは、まさに“イギーらしい”言葉。彼は衰えるどころか、一層強くなった“生”のパワーを放つのです。

「POST POP DEPRESSION」はイギー・ポップ名義で最大級のヒット作となり、ツアーは全公演ソールドアウト。大成功をおさめましたが、実はイギーの最後のアルバムになるとも噂されています。しかし、湧き水のようにあふれる創作意欲とパフォーマンスを見てしまったら、まだまだその勇姿を拝ませてほしい、熱狂させてほしいと願わずにはいられません。ぜひ劇場で“今”のイギー・ポップを体感してみてください。

(c) 2017 IGHO LLC. Released under licence from Eagle Rock Entertainment Ltd.  Eagle Rock Entertainment is a Universal Music Group company.

『アメリカン・ヴァルハラ』
4月14日(土)より、新宿シネマカリテにてロードショー
シネマート心斎橋、名古屋シネマテークほか全国順次公開
(c) 2017 IGHO LLC. Released under licence from Eagle Rock Entertainment Ltd.  Eagle Rock Entertainment is a Universal Music Group company.

(鈴木春菜@YOSCA)