死者数154人、行方不明者70名、負傷者3028名を出した「光州事件」をご存じでしょうか。これは、1980年に韓国・光州で起きた民主化を求めるデモのこと。このデモを軍は武力を行使して鎮静化、多くの市民が犠牲となりました。

正確な死者数や、なぜ軍が実力行使に出たのかなど未だ謎が多いこの事件ですが、約40年近く経った今、韓国では真相を明らかにしようという動きが活発化しており、つい先日も軍の行動が「虐殺」であったと認定されたことが話題となりました。韓国内で再度注目を集める「光州事件」の背景には政権交代に加え、昨年韓国で公開され大ヒットとなった1本の映画が関係しています。

正義の記者×銭ゲバのドライバー! 相性“最悪”の2人の男

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その映画が、映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』(4月21日公開)。「光州事件」で事件の真実に命がけで迫ったドイツ人ジャーナリストのピーターと、彼と行動を共にした韓国人タクシー運転手マンソプの実話をベースに、衝撃的な現実に直面しながら友情を築いていく様子を描きます。

記者仲間から、韓国の光州でデモが起きているという話を聞いたピーターは、すぐさまソウルに飛び、1台のタクシーを拾います。そのタクシーを運転していたのが、貧乏ドライバー・マンソプ。彼は、大金を提示されると、二つ返事で光州行きを了承、2人を乗せたタクシーは光州へと向かいます。

しかし、この2人の相性がとにかく最悪。正義感の強いピーターに対し、マンソプは頭の中がお金のことだけと何もかもが正反対で、道中も衝突を繰り返します。そして光州につくなり、マンソプが1人でこっそりソウルへ帰ろうとしたことで、決定的な亀裂が生まれてしまうのですが、そんな時に彼らが目撃したのは、想像を絶する地獄でした。

まるで戦場! 事件の凄惨さをとことん追求

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光州では、戒厳軍が抗議をする市民に対し、殴る蹴るの暴行、数人がかりでの袋叩き、さらには実弾を浴びせていたのです。軍の暴走はとどまるところを知らず、デモを行っていない市民への無差別発砲や、白旗を掲げる人まで容赦なく射殺。方々で上がるうめき声、次々に道路に倒れていく市民……。思わず目を背けたくなるほどの、残酷さがスクリーンに写し出されていきます。

これまでも近代韓国の闇を浮き彫りにしたチャン・フン監督。朝鮮戦争における南北境界線の戦いを描いた『高地戦』(2011年)でも、飛び交う銃弾、次々と築き上げられる死体の山など、人が人として扱われない状況を無慈悲なまでに徹底して再現しましたが、戦争映画に劣らない、残酷さが本作からも感じられます。この手加減のなさにより、観客は登場人物が感じた恐ろしさや状況の異常さを本能的に理解でき、物語に説得力を覚えることができるのです。

命の危機、友の死…苦難を乗り越えた男たちの友情に感涙!

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あまりの異常事態にそれまで政治に無関心だったマンソプの心にも、次第に正義感が芽生えていきますが、そんな矢先、隠し持っていたカメラの存在が戒厳軍にばれ、ピーターとマンソプは命を狙われてしまいます。命からがら逃げきった2人は、そこで起きたある出来事をきっかけに、熱い友情が芽生えていきます。

「真逆の者同士の通じ合い」は、チャン・フン監督がずっと描き続けているテーマです。デビュー作『映画は映画だ』(2008年)では俳優志望のヤクザとヤクザのような俳優を、『義兄弟 SECRET REUNION』(2010年)では元々の敵同士が兄弟のような関係になっていく姿を、『高地戦』では戦争に分断された北と南が人として通い合う様を描いてきました。

映画の終盤、悲しみに打ちひしがれてカメラを回せなくなったピーターをマンソプが必死に勇気づけるシーンは、正反対だった2人の気持ちがついに通じ合う感涙必至の一幕。言葉は通じなくても、信頼し合っている様子を表情だけで物語るソン・ガンホとトーマス・クレッチマンの熟達した演技には、観るもの誰もが感動させられることでしょう。

当時、軍は光州を鎖国状態にし、マスコミまでもコントロールして、嘘のニュースを報道させていました。もしこの2人の男の熱い友情がなければ、近代韓国史上最悪と言われるこの事件の真実は、闇に葬り去られたままだったのかもしれません。

(文/ケヴィン太郎・サンクレイオ翼)