『(500)日のサマー』(2009年)などを手掛けたマーク・ウェブ監督の新作、『さよなら、僕のマンハッタン』が4月14日に公開されます。原題は『The Only Living Boy in New York』。サイモン&ガーファンクルのアルバム「明日に架ける橋」収録の、「ニューヨークの少年」の原題と同じです。

今回は、映像作家たちの感性を刺激する、サイモン&ガーファンクルと映画の関係を紐解いていきたいと思います。

名曲が粋に使われた『さよなら、僕のマンハッタン』

『さよなら、僕のマンハッタン』が、「ニューヨークの少年」にインスパイアされたのは間違いありません。実際に映画の中でも同曲が印象的に使われています。

この映画の主人公はもう“少年”とはいえない25歳のトーマス(カラム・ターナー)。大学卒業を機に、出版社社長の父(ピアース・ブロスナン)と元アーティストの母(シンシア・ニクソン)のもとを離れ、一人暮らしをしています。

一度だけ関係をもったことがあるけれど彼氏もちのミミ(カーシー・クレモンズ)とは友達以上恋人未満の微妙な関係。アパートの隣の部屋にはおかしな隣人(ジェフ・ブリッジス)が越して来て、たまに人生のアドバイスを与えてくれます。そんなある日、トーマスは父親が浮気していることを知ってしまい、母親のために別れさせようと浮気相手のジョハンナ(ケイト・ベッキンセール)を追い回すうち、勢いで彼女と深い関係に……。

ニューヨークを舞台に、自分の生き方が決められない迷える若者の、現状からの脱却と成長を描いた作品。自虐系の主人公なので、ちょっとウディ・アレン映画みたいな側面もあります。少年から大人への通過儀礼がメインテーマですが、実は若者だけでなく彼らの親世代の物語でもあるのがミソ。ベテラン演技派たちの競演も見どころです。

サイモン&ガーファンクルの曲だけでなく選曲のセンスも抜群で、ボブ・ディランの「ジョアンナのビジョン」(もちろん登場人物名はここからとられた)をはじめ、チャールズ・ミンガスやデイヴ・ブルーベックなどのジャズも効果的に使われた、とにかく“粋”な映画なのです。ウェブ監督は『アメイジング・スパイダーマン』シリーズも手がけましたが、やはり本作や『gifted/ギフテッド』(2017年)のような小品が似合うようですね。

さまざまな映画を彩る、サイモン&ガーファンクルの楽曲

さて、音楽が効果的だった映画といえば、昨年公開された『ベイビー・ドライバー』も思い浮かびます。カーチェイス・シーンがまるでBGMに合わせて振り付けられたかのような快作でしたが、この映画のタイトルもサイモン&ガーファンクルの同名曲からとられたもの。同曲は映画のラストを飾っています。

ほかにも、映画にはサイモン&ガーファンクル自身が歌ったものだけでなく、カバー曲も多く使われています。有名なところでは『レス・ザン・ゼロ』(1987年)のサントラのために、ガールズバンドのバングルスがカバーした「冬の散歩道」。レモンヘッズがカバーした「ミセス・ロビンソン」は『ウェインズ・ワールド2』(1993年)、『カーラの結婚宣言』(1999年)、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013年)など多数の映画で使われました。変わったところでは香港映画『激戦 ハート・オブ・ファイト』(2013年)でも、アニア・ダブロウスカがカバーした「サウンド・オブ・サイレンス」が使われています。

これほどまでにサイモン&ガーファンクルの曲と映画の親和性が高いのは、彼らもまた映画によって大ブレークしたアーティストだからでしょう。その映画とは、いうまでもなく1967年の『卒業』。劇中歌の「サウンド・オブ・サイレンス」はもともと彼らのデビュー・アルバムにアコースティック・バージョンで収録されていたものですが、エレキギターやドラムスをオーバーダビングされてシングル化したところ大ヒット。さらに映画にも使われて……と何度もよみがえった曲です。

この映画には「四月になれば彼女は」、「スカボロー・フェア/詠唱」、「プレジャー・マシーン」も使用され、登場人物を歌った「ミセス・ロビンソン」は映画のために作られた新曲でした。

実に多彩!出演&脚本も

さて、最後にサイモン&ガーファンクル自身の映画出演についても触れてみましょう。まずアート・ガーファンクルはデュオ解散前から俳優業を開始。『卒業』のマイク・ニコルズが監督した『キャッチ22』(1970年)を皮切りに、『愛の狩人』(1971年)で俳優としても高い評価を受け、ニコラス・ローグ監督の『ジェラシー』(1980年)では主演に抜擢されました。その後も『ボクシング・ヘレナ』(1993年)、『理想の彼氏』(2009年)など、マイペースに出演しています。

一方のポール・サイモンの方は、ウディ・アレンの『アニー・ホール』(1977年)で俳優デビュー。1980年には自ら脚本を書いた『ワン・トリック・ポニー』で主演を務めますが、残念ながら映画はあまり振るわず。しかし、主題曲の「追憶の夜」はヒットしています。

『さよなら、僕のマンハッタン』/4月14日(土)より丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国順次公開/(c) 2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC/提供:バップ、ロングライド/配給:ロングライド

サイモン&ガーファンクルの曲はこれまでにもさまざまな映画に使われ、時には本作のようにメインタイトルにもなっています。それは彼らの歌詞にストーリー性のあるものが多く、聴くだけで情景が浮かんでくる映画的なものだからかもしれません。

(文/紀平照幸@H14)