2001年の直木賞候補となった石田衣良の同名恋愛小説を映画化した『娼年』が4月6日より公開される。2016年8月に三浦大輔演出、松坂桃李(まつざか・とおり)主演で舞台化され、全公演即完売となったことは記憶に新しいが、映画版でも三浦と松坂のコンビが続投。ボーイズクラブの娼夫である主人公リョウと、様々な女性たちとの濡れ場を官能的に描きながら、女性たちの欲望や心の傷を優しく肯定する愛のドラマに仕上がっている。

本作で、ボーイズクラブに入るための“情熱の試験”の相手として、初めてリョウの前に現れるミステリアスな美女・咲良(さくら)を熱演した冨手麻妙(とみて・あみ)にお話を伺った。

二度目の挑戦でつかんだ、念願の咲良役

Q:咲良がとてもハマり役でした。舞台版のオーディションに落ち、映画版で役を勝ち取ったと伺いましたが、オーディション再挑戦の原動力になったものは?

映画版のオーディションの約1年前に舞台版のオーディションを受けたのですが、その時にはすでに『何者』で三浦監督とご一緒していて。『何者』のオーディションのとき、三浦監督にとても厳しい言葉をいただいたんです。これほど傷つけられたのは初めてと思うほど。その悔しさから、もっと三浦監督とお仕事がしたいという熱量が大きくなっていきました。原作を読んだ時から、咲良を演じたいと思っていたこともあり、命懸けに近い気持ちで、オーディションに再挑戦させていただきました。

Q:『何者』では、三浦監督からどのようなひどいことを言われたのですか?

『何者』のオーディションの最終審査は、ワークショップ形式でした。映画のテーマが就職試験だったので、台本に基づいて演技を見せるというよりは自分自身を表現するオーディションだったのです。私は自分の言葉で自分を表現することに難しさを感じながらも、三浦監督の指示を頭で考えて実行していたら、三浦監督から「冨手さんは、思っていたよりも魅力がないですね」と言われて。

Q:それはかなり傷つきますね。

しかも、それを30人弱いた候補者の前で言われたんです。オーディションに落ちたと思ったのですが、ワンシーンの役をいただくことが出来ました。あのときに厳しい言葉を浴びたからこそ、三浦監督とまた一緒に作品を作りたいという強い気持ちが芽生えて、現在につながっています。今では、三浦監督の冷たい言葉は愛情表現だったと、自分で勝手に置き換えて解釈しています(笑)。

Q:三浦監督は、Sの方なのかもしれませんね(笑)。

私は日本の映画監督の中で、一番ドSなんじゃないかと思っています(笑)。

Q:咲良役に決まったときは、どんなお気持ちでしたか?

私は今回、咲良と恵のオーディションを同時に受けていたのですが、オーディション当日まで、咲良の台本しか渡されていなくて。私は咲良候補なんだと思ってウキウキして、オーディションに行ったら、咲良を演じた後、“次は恵をやってください”と。台本をもらっていないことを伝えたら、“今から30分で覚えてきてください”と言われて、控室に戻されました。限られた時間の中で追い込まれたせいか、恵のセリフは思ったよりもスラスラと言えました。

Q:三浦監督が恵の台本を渡さなかったのは、もしかしてわざとなんでしょうか?

いいえ。私のマネージャーさんのミスだったのです。

Q:そうでしたか! 深読みしてしまいました(笑)。

こうして、一番演じたかった咲良役に決まったので、ある意味、マネージャーさんに感謝しています(笑)。 咲良に決まったときは、良かったという気持ちと同時にこれまで演じたことのない難しい役柄なので、しっかりと役作りをして臨まないとまた三浦監督に現場でいじめられると思いました。

濡れ場のシーンで感じた松坂桃李の変化

(C)石田衣良/集英社 2017映画『娼年』製作委員会

Q:本当に女性向きの映画だと思いました。リョウと咲良の“情熱の試験”は、最初と最後の2回ありますが、どのように気持ちを切り替えて挑みましたか?

今回、ほとんど順撮りで撮影をしました。撮影の前半に1度目の“情熱の試験”のシーンを撮って、最終日に2度目を撮ったので、撮影していく中で自然と私の感情が変わっていきました。そして、何よりも松坂さんが1度目と2度目で全く違うリョウになっていて。

松坂さんのお芝居の力に引っ張っていただいたという感じです。人間としても男性としても娼夫としても未熟だったリョウが、2度目では女性の気持ちを理解する優しい男性に変わっている。濡れ場のシーンは肉体のコミュニケーションなので、その変化がものすごく伝わってきました。全く頭で考えることなく、リョウのことを咲良は好きになっていましたね。

Q:完成した本編を観たとき、どう感じましたか?

私が現場で主にご一緒したのはリョウ役の松坂桃李さんと御堂静香役の真飛聖(まとぶ・せい)さんなので、ほかの女性たちのシーンがどうなっているのか、全く分かりませんでした。原作を読んでいるので、こういうことをしているということがある程度は分かるのですが、それが映像になったときにどう見えるのか想像がつかなくて、ワクワクしていました。事件と言われるほど内容は過激で性描写が多くありますが、観た後にすごく優しい気持ちになれる作品だなと思いました。出演している私も実際に観た後、気持ちが暖かくなって、映画についていろいろと喋りたくなりました。

これまで三浦監督の作品を観た後、人間の汚い部分を覗き見したような、もやっとした気持ちで映画館を出ることが多かったのですが、今回はすっきりとした気持ちになれたんです。映画館を出た後、女性が喫茶店や居酒屋などで、あのシーンはどうだったとか、あの人とのからみはこうだったよね、みたいなことを明るくお喋りしたくなるような映画に仕上がっているので、とても嬉しく思っています。

映画『娼年』
4月6日(金)よりTOHOシネマズ 新宿ほかにて全国公開
公式サイト:http://shonen-movie.com/
配給:ファントム・フィルム
(C)石田衣良/集英社 2017映画『娼年』製作委員会

取材・文/田嶋真理  写真/横村彰