戦後史上最悪の人道危機と言われるほど、ひどい惨状が伝えられているシリア内戦。時折報じられるニュースを見て、日本でも心を痛めている人は多いことだろう。4月14日から公開される『ラッカは静かに虐殺されている』は、シリアの現実を目の当たりにすることができる衝撃のドキュメンタリー映画だ。過激派組織・イスラム国(IS)に制圧された街・ラッカの悲惨な現状を世界に伝え続ける市民ジャーナリスト集団による、常に死と隣り合わせの活動を追っている。

市民ジャーナリストが活動で直面する緊迫感

本作に登場するのは、海外メディアも報じることができないシリアの惨状を国際社会に伝える市民ジャーナリスト集団“RBSS(Raqqa is Being Slaughtered Silently/ラッカは静かに虐殺されている)”のメンバー。

シリア北部に位置するラッカ出身の彼らは、ISが街に侵攻してきたことをきっかけにRBSSを秘密裏に結成し、スマホを武器に街の惨状をSNSで世界へ発信し続けた。本作は、彼らの活動を追っているが、その記録は全編にわたって緊迫と緊張を強いられる。

黒いフラッグを掲げ、内戦をあたかも収束させるかのような雰囲気でラッカの街にやってきたIS。のちにRBSSを創立するメンバーは、その正体を最初の段階で見破る。

案の定、ISは恐怖と暴力で街を瞬く間に制圧。かつて“ユーフラテス川の花嫁”と呼ばれるほど美しかったラッカの街は殺伐とした雰囲気に一変し、ISの首都とされてしまった。そこからRBSS対ISの闘いはスタートする。

(C)2017 A&E Television Networks, LLC | Our Time Projects, LLC

忍び寄るISの恐怖を味わう

RBSSは街で起きているISの残虐行為を収めた動画を、SNSで世界へと発信し始めた。それに対し、当然ISが黙っているわけがない。RBSSを都合の悪い存在と認識したISは血眼になってメンバーを探し出そうとする。なかなか捕まえられないとわかるや、情報が外部に出ないように町中のパラボラアンテナを撤去するほど、徹底的な排除に動く。さらには懸賞金をかけて情報を求め、RBSSの暗殺計画を明確に打ち出す。

やむなくRBSSの創立メンバー、アジズやハムードらは国外へ脱出。トルコとドイツに移りながらも活動は継続し、危険にさらされながら撮ってきた国内に残るメンバーからの街の真実の情報を世界へ発信し続ける。ただし、国外にいるからといってRBSSのメンバーに安全が確保されているわけではない。ほどなくして仲間のひとりがトルコで暗殺される事態が発生する。

忍び寄るISの恐怖はすさまじい。仲間と無事を確かめ合い笑顔を見せ、何気ない生活の一場面で喜びの表情を見せるRBSSのメンバーだが、もはや気の休まる場所などない。

そんな彼らの姿は、常に命を狙われている人間が味わう“恐怖”と“苦悩”を、我々に擬似体験させる。その一方で、恐怖に屈しない彼らの気高き魂と勇気に触れることにもなる。

さらに言えば、母国への想い、残してきた家族に対する自責の念、自らの活動によってISに大切な人の命を奪われた哀しみといった、母国を追われ難民となった者の心境にも我々は触れることになる。

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ISの支配手法を克明に浮かび上がらせる

また、RBSSの活動は、ISの支配手法も克明に浮かび上がらせている。

例えば銃による公開処刑や、街の広場にこれみよがしにさらされる無残にも斬首された遺体……。これらの残酷なシーンには正直目を背けたくなったし、実際に手で目を覆ってしまう人もいることだろう。

そのあと現れる、ISによって洗脳された子どもたちの姿も衝撃。なんのためらいもなく公開処刑に参加する少年少女、ジャックナイフでぬいぐるみの首を斬るまだ幼児の男の子の姿には言葉を失うしかない。

ただ、これは紛れもない現実。我々は目を逸らせないシリアの現実を知ることになる。

権力を握った者の暴走はどの国でも起こりうること。そのとき、どういう事態を招き、市民はどんな危険にさらされるのかを我々は目撃する。そういう意味で、他人事では済まされない現実がここにはある。そして本作が、現在も続くRBSSの活動及び、現在ISの占領が終わりながらも、まだ混とんとした状況の続くラッカに関心を寄せるきっかけになることを切に願う。

(文/水上賢治@アドバンスワークス)