NSU(国家社会主義地下組織)という極右グループが2000年から7年間にドイツ各地で、トルコ人などの外国人9名とドイツ人警官1名を殺害した連続テロ事件。ドイツで実際に起きたこの事件をもとに、トルコ系ドイツ人のファティ・アキン監督が心血そそいでつくりあげた問題作『女は二度決断する』(4月14日公開)は、第75回ゴールデングローブ賞外国語映画賞をはじめ数々の賞を受賞。主演女優ダイアン・クルーガーも第70回カンヌ国際映画祭主演女優賞を受賞した、傑作と名高い話題作です。

ドイツ人でありながら、ドイツ映画出演は初めてだったというダイアン・クルーガーは、本作で女優としての新境地を開きました。今回は、来日した彼女に映画の見所や役作りについてお話を伺いました。

遺族グループから何ヶ月も話を聞いた

Q:ファティ・アキン監督にはダイアンさんご本人からアプローチしたとか。

アキン監督と私はフランスで5年前に出会いました。アキン監督はドイツを代表する素晴らしい監督。私も大ファンだったので、「監督と一緒に仕事をすることが私の夢なんです」とご本人に伝えたんですね。そしたらずっと覚えて下さって、やっと5年後に夢が叶いました! それに、この映画をきっかけに、ドイツ映画にもっと出演できれば嬉しいですね。ドイツ映画と世界をつなぐ架け橋になれたら嬉しいです。

Q:カティヤは、幼い息子と夫を亡くした怒り、哀しみ、悔しさ、複雑な感情を抱えた女性ですが、演じるにあたり、一番難しかったことは?

この役には難しい点がたくさんあったので、当初、カティヤを演じるのは私には無理だと思っていました。そもそも、私には子供がいません。映画のラストでカティヤはある“決断”をくだすのですが、その決断に至るまでの“心の動き”をきちんと観客に伝えられるのか、リアリティをもって演じられるのか、これほどの役を演じきる力が私にあるのか、と不安でした。

ですから、何ヶ月もの間、殺人事件などで亡くなった被害者の遺族グループと一緒に過ごしました。心をオープンにして、彼らの哀しみに触れて、その哀しみを自分の心で感じる……。貴重な経験でしたが、言葉にはできないほどの哀しみや痛みを分かち合うのは、とても辛かった……。この役作りの期間が、一番のチャレンジでした。

あとは、アキン監督のサポートもありました。撮影前の数週間はハンブルクで監督と共に脚本を読み込んで、役作りに励みました。例えば、「カティヤならどういう家に住むんだろう?」と街を一緒に見て回ったり、「カティヤはどんなタトゥーをするんだろう?」とタトゥーのお店へ行ったり。カティヤという女性を、監督は完全に理解していましたし、私も監督を100%信じていましたから、撮影中は監督についていくのみでしたね。

多様性から学ぶ小さな経験が、私たちをつくる――

(C)2017 bombero international GmbH & Co. KG, Macassar Productions、 Pathé Production、corazón international GmbH & Co. KG,Warner Bros. Entertainment GmbH

Q:本作が指摘する「多様性と受容(Diversity and Inclusion)」は今、世界中で叫ばれているトピックですし、ダイアンさんもフランスやアメリカで活躍するなど、多様な世界でキャリアを積み上げてきました。「多様性と受容」についてどのように感じていますか?

私はヨーロッパ出身なので、多様性が当たり前の環境で育ったんです。特に、EU(欧州連合)が誕生したときの希望や興奮をリアルに感じた世代。EU内ならどこでも好きな所に住み、働ける。実際に、私もモデルとして働くためにパリへ引っ越して、素晴らしい経験をつむことができました。

でも、今は時代が逆戻りしているみたいで、恐ろしさも感じています。第二次世界大戦後、ドイツでは去年初めて、右派政党が国政進出してしまいました。この状況はドイツ人として恥ずかしいと思っています。

Q:確かに、現代はグローバル・ヴィレッジと呼ばれながらも、ナショナリズムが世界各地で台頭する混沌とした社会ですが、多様な文化や国籍の人達と働くことから、ダイアンさん個人は何を学びましたか?

多様性は人を“より良く”すると信じています。異文化に対してだけではなく、周りの人々に対して心を開いて、彼らから学ぼうとしたり、彼らの気持ちを思いやるようにしたりすれば、私たちは豊かな人間性をはぐくめるのでは? 

例えば、今回、私は母と共に日本に来ました。母にとっては初めての経験の連続。生まれて初めて生のお魚を食べたり、あと、お箸にもトライしたんですよ(笑)。67才になった母が、異なる文化や人々に触れて、驚いたりワクワクしたりするのを見るのは、本当に楽しい体験でした! こういった、多様性から学ぶ小さな経験も、私たちの人間性をつくるのではないでしょうか。

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Q:人種差別やテロリズムを題材にした映画のなかでも、本作はとても個性的ですよね。ドキュメンタリーのようにリアルでありながら、エンタメ性もあり、最初から最後まで目が離せず、衝撃のラストを迎えます。どういう点が、ほかの映画と一線を画していると思いますか?

この作品の“エモーション”に私は惹かれました。舞台はドイツだけれども、この物語はアメリカでもフランスでも、世界のどんな国でも起こり得ることです。ネオナチが題材となっていますが、ジハード(聖戦)や銃乱射事件で家族を失った人に共通する“エモーション”、つまり、普遍的な“母親の哀しみ”を描いています。だからこそ、国籍や文化を超えて多くの人々の心に響いてほしい。日本の皆さんが本作の“エモーション”を心に感じて下さったら嬉しいです。

Q:久しぶりの来日とのことですが、お母様とのご予定は?

10年ぶりの来日なんです。私も母も桜を見るのが初めてなので、こんな美しい季節に来られて本当に嬉しい! 母と一緒に京都へ行って、お花見や日本文化を楽しみたいと思っています。

『女は二度決断する』2018年4月14(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国ロードショー。

Hair:Dai Michishita

(取材・文 此花さくや/撮影・横村彰)