文=金田裕美子/Avanti Press

インド映画がアツい! 『ムトゥ 踊るマハラジャ』(1995年)や『きっと、うまくいく』(2009年)など、これまでにも数々のインド映画が日本でヒットしてきましたが、最近、話題を独占している映画といえば何といっても『バーフバリ』! 『伝説誕生』と『王の凱旋』の前後編に分かれたこの作品は、通常の劇場公開が終わった後もファンがどんどん増殖、絶叫上映会が何度も開催され、6月には『バーフバリ 王の凱旋<完全版>』も上映されることが決定しました。前例がないほどの盛り上がりを見せている『バーフバリ』、これは本っ当にすごいです。

大絶賛、熱狂の嵐『バーフバリ 王の凱旋<完全版>』

舞台は古代インドのマヒシュマティ王国。民衆から絶大な支持を得ながらも王位をめぐる争いに巻き込まれて苦難の道を歩むことになる英雄バーフバリ(プラバース)の、親子二代にわたる一大叙事詩です。ギリシャ悲劇からシェイクスピア、ミュージカル、『ベン・ハー』(1959年)、『ブレイブハート』(1995年)、『タイタニック』(1997年)、『アベンジャーズ』や『スター・ウォーズ』シリーズまで、全部足して全く割らない超濃厚な大スペクタクル映画なのです。

まわりに感想を聞いてみると、「とにかくケタ外れ」「もうほかの映画を見ても物足りない」という人から、「バーブバリ、バーフバリ……」とうわごとのようにつぶやく人、「見ると健康になる」という謎の効能効果を力説する人までいて、要するにどちらを向いても大絶賛、熱狂の嵐なのであります。

『バーフバリ 王の凱旋<完全版>』6月1日(金)より新宿ピカデリーほか全国順次“熱狂”ロードショー開始!
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『バーフバリ』の強烈さにクラクラしているところに、さらにもう1本、アツーいインド映画が公開されました。その名も『ダンガル きっと、つよくなる』。こちらは女子レスリングのインド代表選手(吉田沙保里選手や伊調馨選手と対戦したこともある!)の実話をもとにした、『巨人の星』ばりの熱血スポ根映画です。

どちらの映画も手に汗握るシーンのオンパレード、全身に力が入りすぎて、鑑賞後は俄然お腹が空きます。これはもうインド料理を食べるしかないでしょう。というわけで、今回は『ダンガル』に登場するチキンカレーと、『バーフバリ』にちなんでインドの炊き込みご飯、ビリヤニを作ってみたいと思います。

インドで女子レスリング!? 『ダンガル きっと、つよくなる』

『ダンガル』の主演は世界的ヒット作『きっと、うまくいく』のアーミル・カーン。20年以上にわたりインド映画界のトップに君臨してきたカーンは、44歳にしてお気楽な大学生を演じた『きっと、うまくいく』と同一人物とは思えない、ぽっこりお腹のザ・おとっつぁんを演じています。なんでも、この映画の役作りのために26キロも体重を増やしたんだとか。

『ダンガル きっと、つよくなる』TOHOシネマズシャンテほか全国公開中
(C)Aamir Khan Productions Private Limited and UTV Software Communications Limited 2016

マハヴィル(カーン)は、レスリングの元インド国内チャンピオン。生活のために引退を余儀なくされた自分の代わりに、息子を金メダリストに育てあげることを夢見ています。ところが生まれてきた4人の子どもたちは全員女の子。夢を諦めかけたころ、長女ギータ(ザイラー・ワシーム)と次女バビータ(スハーニー・バトナーガル)が男の子とケンカしてボコボコにやっつけたのを見て「この子たちならいける!」と確信し、ふたりをレスリング選手にすべく猛特訓を始めます。

彼女たちは全然やりたくないのに、早朝から走らされ、川に飛び込まされ、髪を短く切られ、遊びに行くのも禁止。この映画、いわゆるミュージカル・シーンはありませんが、登場人物たちの心象が歌となって流れます。この特訓シーンでバックに流れるのは「♪お父さん、もうやめて~」という悲痛な歌。大好きなお菓子もスパイスのきいた料理も、「成長を妨げるから」という理由で食べさせてもらえません。その代わりに「筋肉をつけるため」とお父さんが用意するのが鶏肉。生活が苦しいので、「娘たちがメダリストになったら店の宣伝になる」とか何とか強引に鶏屋を言いくるめ、とんでもなく値切って購入してきます。

チキンカレーで、きっと、つよくなる!

髪まで切られてしまったギータ(中央)とバビータ(右)『ダンガル きっと、つよくなる』TOHOシネマズシャンテほか全国公開中
(C)Aamir Khan Productions Private Limited and UTV Software Communications Limited 2016

それまで特訓をしぶしぶ認めてきたお母さんでしたが、鶏肉を食べることには大激怒。インドに多いベジタリアンの家庭ゆえ、「そんな穢れたものを私の台所には入れさせない!」と宣言され、仕方なくお父さんは家の外で鶏を調理します。出来上がったものを食べるのももちろん外。娘たちは慣れない食べ物だけに恐る恐る口に運びますが、これがおいしそうなチキンカレーなのです。これ食べたい! よし、作ろう!

インドの代表選手に成長したギータ(ファンティマー・サナー)『ダンガル きっと、つよくなる』TOHOシネマズシャンテほか全国公開中
(C)Aamir Khan Productions Private Limited and UTV Software Communications Limited 2016

と、張り切ってはみたものの、チキンを使ったカレーといってもインドには数えきれないくらいたくさんの種類があります。普段は肉を食べないお父さんが初めて作るのだから、おそらくシンプルなカレーでしょう。また、映画の舞台はインド北部のハリヤーナ州バラリという町なので、北インドのチキンマサラを参考に作ってみます。

まずはチキンカレーを作ります!

まず用意するのは鶏肉。インドでは皮はあまり食べないそうなので、皮を外してひと口大に切ります。このまま使うレシピもありますが、映画の中ではお父さんが鶏肉に何やら揉みこんでいました。それにならってヨーグルト、ターメリック、クミン、ガラムマサラ、塩を合わせ、鶏肉に揉みこみます。カシューナッツは水と合わせてミキサーにかけ、ペースト状にしておきます。

鶏肉にもみ込んだスパイスとにんにく、しょうが

鍋にバターとサラダ油を入れ、ホールのシナモン、クローブ、カルダモン、ベイリーフ、にんにくとしょうがを加え、さらに玉ねぎのみじん切りを加えて炒めます。映画ではかなり大量の油を使っていて、玉ねぎを揚げているような状態でしたが、まあ油はほどほどに。

玉ねぎが茶色く色づいたら、ざく切りにしたトマトを加え、水分を飛ばします。パウダーのコリアンダー、クミン、パプリカ、レッドペッパー、ターメリック、ガラムマサラを加え、さらに炒めます。

カシューナッツのペーストも加えて混ぜ合わせ、鶏肉、水を加えて10分ほど煮込めばチキンカレーの出来上がり。あまり長時間煮込む必要がないので、割とあっさり完成してしまいました。

カレーはロティとともにいただきます

コクを出すためにここではカシューナッツを使いましたが、南インドではココナッツミルクを使うことが多いようです。インドは面積が日本の8倍以上もある大きな国ゆえ、地方によって食べ物もずいぶん違います。『ダンガル』の舞台である北インドと、南インドの食をものすごく大雑把に分けると、北の主食は小麦などの粉を原料にしたもの、南の主食は米がメイン。『ダンガル』でもカレーのサイドに出されるのは小麦粉から作るロティでした(「これにはご飯が合うよね」なんてセリフもありますが)。

ロティはチャパティとも呼ばれる薄焼きパン。日本でもおなじみのナンと違うのは、ナンは生地を発酵させてタンドーリと呼ばれる窯で焼くのに対し、ロティの生地は発酵させずに鉄板で焼くところ。家庭でよく食べられているのは、お手軽なロティだそうです。

ロティにはアタと呼ばれる全粒粉の小麦粉を使います。これはインド食材屋さんで買って参りました。アタに塩と水を加えてよーくこねます。なめらかになったらラップに包んで1時間ほど休ませ、棒状に延ばして等分にカット。これを綿棒で丸くのばし、油をひかずにフライパンで両面にちょっと焦げ目がつくくらいまで焼きます。

全粒粉のアタはちょっと茶色で香ばしい味がします

食器も映画に合わせてステンレスのトレーのようなターリー皿を用意し、小さい器にカレーを盛りつけました。サイドには、ヨーグルトにみじん切りのきゅうりとクミン、塩を加えた「ライタ」、きゅうりとにんじんをマスタードオイルとレモンで和えたインドのピクルス「アチャール」を添えました。

『バーフバリ』にちなんで“ビリヤニ”作ってみます

さらに、『バーフバリ』にちなんで1品作ります。マヒシュマティ王国がどこにあるのかは謎ですが、映画の撮影は南インド、テランガーナ州とアーンドラ・プラデーシュ州の州都であるハイデラバードの郊外にあるラモジ・フィルムシティで行われました。

南インドといえば米。そしてハイデラバードの名物料理といえば、お米を肉や野菜とともに炊く「ビリヤニ」です。もともとは王宮で出されていた料理らしい。『バーフバリ』の食事シーンでは何を食べているのかはっきりと映らないけれど、きっと英雄バーフバリも食べたであろう、このビリヤニを作ってみます。

インドとその周辺国だけでなく、東南アジアや中東の国々でもポピュラーなビリヤニ。鶏や魚、エビ、野菜のみを使ったものなど、さまざまな種類があります。ハイデラバードではマトンやラムなど羊肉を使ったものが一般的だそうなので、手に入れやすいラム肉を用意しました。お米は、長細い粒の香り米、バスマティライスというちょっと高級なものを、これまたインド食材屋さんで買って参りました。

バスマティライスとアタ(左)、ビリヤニに使ったスパイス

ラム肉をひと口大に切り、ヨーグルトににんにくとしょうがをおろしたもの、塩、パウダーのコリアンダー、クミン、ターメリック、パプリカ、ガラムマサラを加えた漬け汁で1時間ほどマリネします。お米は、長細い粒が折れないようにそっと洗っておきます。玉ねぎは薄切りにして、サラダ油で揚げます。弱火でゆっくり、というより、中火で香ばしい茶色になるくらいまで。サフランは少量の牛乳に浸けておきます。

ヨーグルト&スパイスをラム肉によーくもみ込みます。左下は洗ったバスマティライス、右上下はたっぷりの油で揚げた玉ねぎ

お肉とお米、重ねて火にかけます

大きな鍋に水とホールのシナモン、カルダモン、クローブ、ベイリーフと塩を入れ、沸騰したらお米を加えて5分ほど茹でます。

別のふた付きの鍋に、先ほど揚げた玉ねぎ半量とマリネしたラム、お米のゆで汁を入れて火にかけ、10分ほど煮ます。ここにミントとパクチーを散らし、ざるにあけてお湯を切ったお米を入れます。より本格的な作り方では、お米を3分、5分、8分と時間差で茹で、お肉と交互に下から重ねていくようですが、このくらいの量なら1回でも大丈夫(ということにしよう)。

スパイスを入れて沸騰させたお湯にお米を投入。ラムを煮たら、その上にお米をのせます

お米の上からサフラン入りの牛乳をかけ、残りの揚げ玉ねぎを散らし、ふたをして弱火で15分。だんだんいい香りが漂ってきます。火を止めて10分ほど蒸らせば出来上がり。

サフランで色付けした牛乳をかけ、上から揚げ玉ねぎを散らして炊きあげます

インド文化の奥深さを感じるおいしさ!!!

南インドらしくバナナの葉に盛ってパクチーを散らし、ライタとアチャールを添えました。バナナの葉も食材屋さんで購入したもの。これがあると俄然インドっぽい雰囲気になります。

ビリヤニのご飯は、サフランの色がついた黄色い部分、スパイスとラムのスープを吸った茶色い部分、そして白い部分と、色むら、味むらを作るところがミソなんだそうです。これにはびっくり。だってこれまで作ってきた大抵の料理は「むらにならないように」「なるべく均一に」と気を配るもの。わざわざむらを作るなんて……!

でも確かに見た目もきれいだし、ひと口ずつ違う色や味が楽しめて飽きない。なんだか自分の想像の範疇を超えた、インド文化の奥深さを感じてしまったのであります。

ご飯の色むらが楽しいビリヤニ!

ビリヤニを先ほどのチキンカレーと並べて、いざ実食。おー、ビリヤニのお米がいい香り。どちらもほどよくスパイシーで、我ながら上出来です。普段あまり使うことのないスパイスやお米など、食材さえ手に入れば、そんなに時間もかからずに本格的なインド料理が作れることが判明しました。

今回のために買ったスパイスがまだどっさりあるので、しばらくの間は何度も作ってしまいそうな予感。『バーフバリ』や『ダンガル』と同じように、一度はまったらクセになる……インド映画もインド料理も、恐るべし、です。

【材料】
《チキンカレー》
鶏肉、ヨーグルト、マリネ用のパウダースパイス(ターメリック、クミン、ガラムマサラ)、塩、バター、サラダ油、ホールスパイス(シナモン、クローブ、カルダモン、ベイリーフ)、にんにく、しょうが、玉ねぎ、カシューナッツ、牛乳、トマト、パウダースパイス(コリアンダー、クミン、パプリカ、レッドペッパー、ターメリック、ガラムマサラ)
《ロティ》
アタ(インドの全粒粉)、塩、水
《ラムのビリヤニ》
ラム、ヨーグルト、マリネ用パウダースパイス(コリアンダー、クミン、ターメリック、パプリカ、ガラムマサラ)、にんにく、しょうが、塩、玉ねぎ、バスマティライス、ホールスパイス(シナモン、カルダモン、クローブ、ベイリーフ)、水、サフラン、牛乳、ミント、パクチー
【映画っぽい雰囲気を盛り上げる小道具】
弓矢、剣、鎧、ヘナのタトゥー、サリー、ターバン、木のお面、象、小枝、ショートヘア、金メダル