女性同士の艶めく恋愛を描きアカデミー賞6部門にノミネートされた『キャロル』(2015年)の監督トッド・ヘインズと、映画草創期の感動と興奮を描いた『ヒューゴの不思議な発明』(2011年)の原作者、ブライアン・セルズニック。2人がタッグを組んでつくり上げた映画『ワンダーストラック』が、4月6日より公開されます。

人に対する優しいまなざし、人から人へと受け継がれる文明の尊さ……人生はいつだって驚きと幸せに満ちたワンダーランドであることを教えてくれる本作には、名匠たちのあたたかい心意気がぎゅっと詰まっています。

2つの冒険が交差した瞬間に生まれる“奇跡”の物語

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本作は、異なる時代に生きる少年と少女の2つの物語が交差しながら描かれていきます。

ひとつめの物語の舞台は1977年。一緒に暮らしていた母親を交通事故で失くした少年・ベンは、ある嵐の夜、落雷によって耳が聞こえなくなってしまいます。それでもベンは入院中の病院を抜け出し、たったひとつの手がかりを頼りに、一度も会ったことのない父親を探すために単身ニューヨークへと向かいます。

そして、もうひとつの物語の舞台は1927年。生まれつき耳の聞こえない少女・ローズは大きな屋敷で暮らしていましたが、同居する父親との折り合いが悪く、寂しい思いをしていました。そんなローズの唯一の心の支えは、憧れの女優・リリアンの映画を観たり彼女の記事を集めたりすること。ある日、リリアンがニューヨークの舞台に出ると知ったローズは、彼女に会うためニューヨークへと旅立ちます。

ニューヨークに降り立った2人は、ともに不思議な運命に導かれ、自然史博物館にたどり着きます。すると異なる時代の冒険が重なり始め、やがてひとつの壮大なストーリーへと広がっていくのです。

サイレントと聴覚、モノクロとカラー。映画だからこそ実現した表現

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ベンとローズのお話には50年もの時間の壁が存在しますが、本作ではこれを映画ならではの表現に転換し、時の流れと普遍的な感情を同時に伝えています。

ローズが生きる1927年は、映像と音声が同期する“トーキー映画”が到来した、映画史における重要な年。しかし耳の聞こえないローズにとっては、この技術の進歩は一概に歓迎できるものではありませんでした。また、彼女が常に抱えていた、拭うことのできない孤独な心の内を表すかのように、ローズのパートはモノクロのサイレント映画として描かれます。

一方、ベンの生きる1977年は、インディペンデント映画が賑わい始めた時代。そのためベンのパートは現代の映画と同様、カラーと音声つきで描かれます。音声つきで表現されるからこそ、それまで音のある世界にいたベンの、一夜にして自分だけが聞こえなくなってしまったことに対する戸惑いや孤独を際立たせることに成功しました。

『ヒューゴの不思議な発明』でブライアン・セルズニックが見せた映画愛と、『エデンより彼方に』(2002年)や『キャロル』などでトッド・ヘインズが描き続けてきた、人種差別や同性愛による疎外感。本作では、2人がこれまでに培ってきた手腕や信念が化学反応を起こし、新たな映画表現を見せてくれます。

天才子役の珠玉の演技も見逃せない

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作中で冒険を繰り広げるベンとローズには、聴覚障害を持つという共通点があります。しかしその演技を見ていると、ベンはつい最近まで聴覚を持っており、ローズは長いこと耳が聞こえない環境の中で過ごしてきたことによる、明らかな違いが見て取れます。

たとえばベンはまだ音のない世界に馴染めず、時折静寂の渦に囲まれるのに対し、ローズは常に堂々としていて、相手がしゃべり始めると口元をじっと観察し、言っていることを汲み取ろうと瞬時に感覚を研ぎ澄まします。ローズのこの所作は、何度もそれを繰り返してきた人ならではのものであることがわかりますが、それもそのはず、ローズ役のミリセント・シモンズは、実際に聴覚障害をもつ、ろうの女優なのです。

ヘインズ監督たちは、ろう者の実人生を製作に持ち込みたいという意図から、女優としてのキャリアがほぼ皆無だったヘインズを抜擢。ヘインズはローズ役を通して、彼女が生きる世界を静かに、しかし確かにスクリーンに映し出しました。

この映画に登場するのは、言語、社会、家族という3つの世界から疎外されている子どもたち。児童に背負わせるにはあまりに辛い設定ですが、彼らが自分自身を発見し、新しい扉を開いたときに待ち受けている世界は、“ワンダーランド”と言うにふさわしい驚きと輝き、そして優しさに満ちあふれています。

少しの勇気があれば一歩を踏み出せること、また辛い時にはいつだって映画が拠り所となってくれること。本作からは、表現の世界に生きる名匠2人からの、心を尽くした優しいメッセージが伝わってきます。

『ワンダーストラック』は、4月6日(金)、角川シネマ有楽町、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷他全国ロードショー。

映画『ワンダーストラック』
4月6日(金)、角川シネマ有楽町、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷他全国ロードショー
配給:KADOKAWA
PHOTO:Mary Cybulski
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(鈴木春菜@YOSCA)