佐藤健が大量殺人――そう聞いて、イメージが湧くでしょうか? 『るろうに剣心』シリーズ、『亜人』(2017年)などの漫画実写化作品から、『8年越しの花嫁』(2017年)といった感動の実話まで、さまざまな作品に出演してきた佐藤ですが、これまで演じてきた役柄から、“正義の人”という印象がありますよね。

そんな彼が『いぬやしき』(4月20日公開)では芸歴12年目にして初となる悪役に挑戦。予期せずして手に入れた超人的なパワーで、大量殺人をするアンチヒーロー役で新境地を切り開いています。そこで今回は出演作を重ねるごとに新たな顔を見せてくれる佐藤の“進化”を振り返ってみます。

正義のヒーロー、暗殺者…二面性ある役柄で培った演技力!

佐藤は、2006年に俳優デビューを果たすと、翌年には、若手人気男優への登竜門である平成ライダーシリーズ「仮面ライダー電王」で、主人公・野上良太郎役に大抜擢。その後、NHK大河ドラマ「龍馬伝」での“人斬り以蔵”(岡田以蔵)役が高評価を集めると、2012年に、『るろうに剣心』でスピード感あふれるキレッキレのアクションを披露し、大ブレイクを果たしました。

怪人に憑依されることで人格が変わる正義のヒーロー、純粋な故に利用されてしまう幕末の暗殺者、そして人斬りとしての悲しい過去を背負う流浪人と、佐藤はどこか二面性を感じさせる複雑なキャラクターを演じ、実力を培ってきました。この頃の、人間の“影”の部分もほのめかす凄みのある演技が、初挑戦の悪役を見事にこなす彼のベースになっているのかもしれません。

『何者』で開眼した“ダーク”な一面

その後も『バクマン。』(2015年)での無邪気な高校生や、『世界から猫が消えたなら』(2016年)での余命わずかな青年と、ボーダーレスに活躍していた佐藤が、“影”を“ダークさ”へと飛躍させ、新たな魅力を見せたのが『何者』(2016年)です。

就職活動という荒波にもまれながら、自分の存在価値を模索する若者たちの姿を描いたこの作品で、彼は天真爛漫な同居人、地道に頑張る片想い相手、意識高い系カップルらと就活情報を交換しながら、冷静に物事を分析する主人公・拓人を演じています。

表面上は平静を装いながらも、「内定」を勝ち取った“裏切り者”に対してぬるりとこぼれ出てくる妬みや嫉みなどのドロドロとした本音。佐藤はそんな就活者たちの焦燥感や焦り、そして達観を、目線を駆使したさりげない表情やセリフの“間”でリアルに表現しています。観る者の心を、共感と嫌悪の間で行き来させるような、絶妙なさじ加減で好演しました。

クールな眼差しと理知的なルックスで“悪”を体現!

(C)2018「いぬやしき」製作委員会 (C)奥浩哉/講談社

そして『いぬやしき』では、その“ダークさ”がさらに加速! 事故に巻き込まれたことで機械の体となった高校生・獅子神皓を演じ、圧倒的なパワーを手に入れたことで、意に染まらない人間を次々と殺戮していく冷徹な悪役に挑戦。その姿は悪役初挑戦とは思えない“本物感”にあふれています。

「殺人罪は人間のルールでしょ。俺もう人間じゃないし」と言い放ち、一切悪びれることなく大量殺人を続ける獅子神。佐藤は鬱屈した高校生の無邪気な残酷さと、人を小馬鹿にしたような全能感を、軽く口角が上がった薄笑いの表情で、見事にスクリーンに写し出しています。

最も印象的だったのは、佐藤から発せられる背筋が凍るような冷たさ。人間ならざる者になった無機質な獅子神を、無表情かつクールな眼差しで演じきっています。整った理知的なルックスを備える佐藤だからこそ、この冷酷な悪役が意外にハマるのかもしれませんね。

卓越した演技力の賜物で、作品を追うごとにますます演技の幅を広げている佐藤健。2018年は『いぬやしき』のほか、親友に裏切られる悲運な男を演じる『億男』(10月19日公開)など話題作が続きます。彼のさらなる進化にご注目ください。

(文/足立美由紀・サンクレイオ翼)