『エイリアン:コヴェナント』のリドリー・スコット監督の新作で、5月25日(金)公開の『ゲティ家の身代金』は、1973年に実際に起こった誘拐事件を映画化した作品です。

物語のキーマンである大富豪ゲティを演じたのは、オスカー俳優のクリストファー・プラマー。本来この役は『ユージュアル・サスペクツ』(1995年)のケヴィン・スペイシーが老けメイクで演じるはずでした。

しかし完成直前、公開の1か月前というタイミングで、スペイシーがセクハラ疑惑で訴えられる事件が発生したため、スコットと製作陣は、急遽別キャストでの撮り直しを決断。わずか9日間での再撮影という強行軍で公開予定日に間に合わせたのです。映画界でも稀なケースですが、プラマーはさすがの演技で期待に応えて、見事アカデミー助演男優賞にノミネート。このことにより、オスカー最高齢でのノミネート記録を更新しました。

映画界では様々な理由で“代役”が立てられることは珍しくありません。誰でも知っている有名キャラが、実は代役だった……なんてことも。そんな、代役が見事にハマって大ヒットしたキャラクターを紹介したいと思います。

代役を見事モノにしたフォードやフォックス

ハリソン・フォード主演で5作目の製作が決まった『インディ・ジョーンズ』シリーズ。実は1作目『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(1981年)で、インディ役に決まっていたのは彼ではなく、トム・セレックという俳優でした。

しかし、TVシリーズ「私立探偵マグナム」が大人気でトムのスケジュールが空かず、契約上の問題もあって降板。製作総指揮のジョージ・ルーカスとは旧知の仲のフォードにお鉢が回ってきたのは、撮影開始の3週間前だったといいます。

また、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』三部作(1985年~90年)のマーティ・マクフライ役も、当初はマイケル・J・フォックスではありませんでした。『恋しくて』(1987年)のエリック・ストルツを主演に撮影が開始されたのですが、6週間が経過した頃「表情が暗すぎてコメディ向きではない」という理由で交代になったのです。

代役に抜擢されたフォックスは当時、TVの人気シリーズ「ファミリー・タイズ」にレギュラー出演中。そこで、昼はTVの撮影、夜は映画という強行スケジュールで、なんとか完成にこぎつけました。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に夜間や室内シーンが多いのは、これが原因だったのですね。その後のフォックスの活躍はみなさんご存知の通りです。

キャットウーマンやゴッドファーザーの娘も代役だった

キャストの降板は何もネガティブなものだけではありません。ティム・バートン監督の『バットマン リターンズ』(1992年)でキャットウーマン役に決まっていたアネット・ベニングの場合は、妊娠が発覚したことが理由でした。同役は全身にぴったりしたスーツを着てアクションするため、“妊婦には難しい”ということで代役探しが行なわれたのです。

記録的大ヒット作の続編ヒロインとあって、ハリウッド中の女優による争奪戦が勃発。中にはショーン・ヤングのように、キャットウーマンのコスプレで監督のもとに押しかける事件を起こす人まで出ましたが、最終的に『恋のゆくえ』(1989年)のミシェル・ファイファーが役を獲得しています。

現在は監督として活躍するソフィア・コッポラには、代役にまつわる苦い思い出が。父フランシス・コッポラの監督作『ゴッドファーザーPART Ⅲ』(1990年)で、悲劇のヒロインであるドンの娘・メアリーは、当初ウィノナ・ライダーが演じるはずでした。しかし彼女は当時の恋人だったジョニー・デップと破局を迎えていて、ノイローゼ状態となり、演技ができなくなっていたのです。

そこで監督の娘であるソフィアに白羽の矢が立ったのですが、彼女の演技はファンには不評で、最低映画を選ぶゴールデンラズベリー賞で、最低助演女優賞と新人賞の2部門で選ばれる結果に。しかし、その後は女優ではなく監督の道に進んだことで、現在の成功があるのですから、物は考えようなのかもしれません。

大富豪なのに、孫の身代金の支払いを拒否?

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さて、新作の『ゲティ家の身代金』です。石油王ジャン・ポール・ゲティの孫ポールが誘拐され、犯人グループから1,700万ドルという身代金を要求されるという事件が発生。しかし、ゲティは「どうせ遊ぶ金欲しさの偽装誘拐だろう」と取り合わずに、金を払おうとはしません。そのため、ポールの母親アビゲイル(ミシェル・ウィリアムズ)は息子を救うために、誘拐犯だけでなく頑迷なゲティとも戦うことが必要になります。

この映画が優れているのは、いくつもの側面をもっていて、そのどれもが面白さを備えている点。アビゲイルの視点では、息子を救おうとする愛情から、目の前に立ちはだかる壁に立ち向かっていく強い女性のドラマになります。元CIAで交渉人のチェイス(マーク・ウォールバーグ)にとっては、誘拐事件に対峙する本格派サスペンス。一方で誘拐の実行犯チンクアンタ(ロマン・デュリス)が、脅しをかけてくるマフィアと人質の板挟みになって苦悩する姿も描かれています。

さらに物語は他人を信じることができなくなり、愛情というものを忘れてしまった孤独な老人ゲティの姿をも浮き彫りにして、さながらシェイクスピア悲劇の様相をも呈していきます。このように一本の映画から様々な楽しみ方ができる作品。大富豪ゲティを代役ながら見事に演じたクリストファー・プラマーの演技にも注目しながら、映画館で楽しんでみてはいかがでしょうか?

(文/紀平照幸@H14)