コーエン兄弟のプロットを基に、ジョージ・クルーニー監督が1950年代のアメリカで実際に起きた人種差別暴動を取り入れて完成した問題作『サバービコン 仮面を被った街』(5月4日より全国公開)。今回は、本作に登場するファッションから、「古き良きアメリカ」と呼ばれる1950年代の裏側を覗いてみましょう。

実話をもとにしたクライムサスペンス

(C)2017 SUBURBICON BLACK, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

郊外の新興住宅地である“サバービコン”に、夢のマイホームをもつロッジ家。サラリーマンの夫ガードナー(マット・デイモン)、脚の不自由な妻ローズ(ジュリアン・ムーア)、ローズの双子の姉マーガレット(ジュリアン・ムーアの一人二役)、幼い息子ニッキー(ノア・ジュープ)の4人暮らし。広い家、手入れされた庭、フレンドリーな近所の人たち……サバービコンはロッジ家にとって理想郷でした。

ところが、ロッジ家の隣に黒人のマイヤーズ家が引っ越してきてから、サバービコンの住人たちは豹変します。マイヤーズ家の周りに塀を建ちめぐらせ、そして大人数で家を取り囲み、執拗な嫌がらせを始めたのです。

そんな大人をよそに、ニッキーとマイヤーズ家の息子アンディ(トニー・エスピノサ)は友情をはぐくみますが、ある日、ロッジ家に強盗が押し入ります。なかなか捜査が進まないなか、ニッキーは真犯人の存在に気づき、犯人の魔の手がニッキーに忍び寄ります……。

(C)2017 SUBURBICON BLACK, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

実話も映画で描かれる人種差別暴動とほぼ同じ。1957年、ウィリアムとデイジー・マイヤーズ夫妻はペンシルバニア州の新興住宅地、レヴィットタウンに引っ越してきました。すると、白人の住人たちは石を投げたり、罵声や叫び声で脅したり、黒人差別の象徴である南軍旗を掲げたりなどの暴動を起こします。

500人もの白人住人が暴動に加わったため、地元警察では対応しきれず、とうとう州警察が介入し暴動は収まりました。しかし、その後も脅迫などの嫌がらせが続き、結局、マイヤーズ家はほかの街に引っ越してしまったのです。

「古き良きアメリカ」に潜む差別

(C)2017 SUBURBICON BLACK, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

「古き良きアメリカ」と呼ばれる1950年代ですが、黒人や有色人種による一般公共施設の利用を禁止した、悪名高き「ジム・クロウ法」もアメリカ南部緒州の州法として健在していた時代。その上、ソ連との冷戦による核戦争の脅威や朝鮮戦争など国際的な緊張も高かった時代です。

消費文化が花開いた時代ではありましたが、その恩恵を享受したのは中流階級以上の白人だけ……。また、戦時中は既婚女性にも働く場が与えられていたのに、戦争が終わると、女性たちの多くは家庭に戻り、職場に残った女性たちも年齢差別や男女間の賃金格差に直面していました。

「とんがったブラとコルセット」から見える女性の地位

(C)2017 SUBURBICON BLACK, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

第一次世界大戦で女性の社会進出が進んだこともあり、1900年代前半にはポワレやシャネルなどが、女性のファッションから窮屈なコルセットを取り去ってスカートの裾を短くし、女性服は動きやすいシルエットになっていました。

そして第二次世界大戦中も、多くの女性が男性のかわりに様々な職業に従事したため、ファッションはより機能的でシンプルな形に。布地不足のせいで、女性の洋服はくすんだ色だったといいます。

そんな暗い時代に人々は飽き飽きしていたせいか、第二次世界大戦後の1947年、クリスチャン・ディオールが発表した、ウエストをコルセットできつく締めスカートを膨らませた華やかな“ニュー・ルック”は、センセーションを巻き起こします。

なんでも、あのココ・シャネルはクリスチャン・ディオールのことを、「あの男は、私が30年かけて壊したものを、あっという間に元に戻した」と怒り心頭だったそう(※)。

(C)2017 SUBURBICON BLACK, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

このニュー・ルックの影響が、本作のファッションに見られます。映画内の女性たちは皆一様に、コルセットで締め付けてスカートが膨らんだ色とりどりの服で着飾っています。美しい服の下に身につけるのは、必要以上に胸がとんがった「ブレット・ブラ」(英語で“弾丸”という意味)、きついガードルやコルセット。

当時は掃除機、食洗機、ミキサーやトースターなど家事を楽にする家電が登場し始めた頃。以前より家事が楽になったことも、窮屈なファッションが女性に受け入れられた一因かもしれません。しかし、グラマラスなファッションが流行した陰には、女性の雇用率が低下し、フェミニズムが一時衰退した背景もあったのです。ブレット・ブラは1960年代のウーマン・リブが台頭するとともに消え去りました。

本作のマイヤーズ家の周りに張りめぐらされる壁。それは、トランプ米大統領のメキシコ国境の壁建設の発言とそっくり。「古き良きアメリカ」を取り戻そうと訴える大統領ですが、そんな黄金期は実は存在しなかったのかもしれません。

(C)2017 SUBURBICON BLACK, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

マット・デイモンは映画パンフレットの中でこう語りました。

「マイノリティがやってくる前は何も悪いことはなかったという神話を皆信じたがる。アメリカが偉大だったとされるこの時代を振り返るさい、多くの人はそうは思っていなかったという事実を忘れてはならない」

(文・此花さくや)

※参照:東京経済新報社 長沢伸也編著 杉本香七著『シャネルの戦略』