男性同士の同性愛をストレートに描き、いまや珍しくなくなったBL映画やLGBT映画の先駆けとなった映画『モーリス』(1987年)。公開時に世界で大ヒットし、日本でもミニシアターでロングランヒットとなった同作が、4月28日(土)より4Kデジタル修復版でリバイバル上映される。

ヒュー・グラントやルパート・グレイヴスの美青年ぶり

製作30周年を記念した4Kデジタル修復版は、このときを待っていたのではないか? と思えるほどの新鮮味と話題性、そしてタイミングの良さを携えている。

まず、新鮮さとしてあげたいのはキャストにほかならない。中でも際立つのは主人公・モーリスの相手役、クライヴを演じているヒュー・グラントの美青年ぶりだ。現在は50代後半のグラントだが、当時はまだ20代で、“ロマコメの帝王”と称されるようになる直前。ここから若き英国のスター俳優として頭角を現していくことになる。

そのまさに駆け出しの俳優だけがもつ特権だろうか。初々しさ、ピュアさ、若さゆえの冷酷さをどこか漂わせるこのときのグラントは、良家の御曹司で、理性的なエリートで最後は愛よりも地位をとってしまうクライヴ役にぴったり。そのクールな佇まいはこのとき限りと思えるほど光り輝いている。

そこからだんだんとイメージが変わり、『パディントン2』(2017年)で演じた落ち目の俳優役のように、喜劇役者に近いイメージを持たれるようになったグラント。しかし、『モーリス』のときは間違いなく美青年。その美しさは、今見ると新鮮に映るに違いない。

キャストでもう一人触れておきたいのが、クライヴとの愛が成就せず、絶望にいたモーリスの心の支えることになる青年・アレックを演じるルパート・グレイヴス。このときのグレイヴスの美青年っぷりも、グラント演じるクライヴと一歩もひけをとらない。

しかし、アレックは、クライヴとは正反対の人物。家柄も階級も関係なく、最後はすべてを捨てて愛に生きる情熱派。そんな愛を貫く青年を、グレイヴスはまっすぐに演じ切っている。そのイノセントさと一途さを携えたアレックに心を奪われる人は多いはず。

最近ではテレビドラマシリーズ「SHERLOCK/シャーロック」の少々頼りない警部のレストレード役で知られるグレイヴスだが、その役柄とはひと味もふた味も違うイケメンぶりを『モーリス』では見せている。

(C)1987 Merchant Ivory Productions Ltd. A Merchant Ivory Film in association with Film Four International and Cinecom Pictures

監督は、新作『君の名前で僕を呼んで』も話題の巨匠

次に触れたいのが話題性。本作を手掛けたジェームズ・アイヴォリー監督は、他にも『眺めのいい部屋』(1986年)、『日の名残り』(1993年)など文芸ロマンの巨匠として知られる。

しかし、2009年の『最終目的地』を発表以降、監督作は届けられないでいた。それゆえ映画界からその名があまり聞かれないことになっていたが、監督作ではないものの、日本で4月27日(金)から公開となる『君の名前で僕を呼んで』の脚色を担当。見事に本年度アカデミー賞脚色賞を受賞し、話題を呼んでいる。

しかも、そのストーリーというのが偶然か必然か、24歳の大学院生に出会った17歳の青年の忘れられない恋を描き、『モーリス』と相通ずる同性愛の物語。この機会に、世界的評価を受けた巨匠アイヴォリーの手による、新旧の同性愛作品を見比べるのもいいかもしれない。

(C)1987 Merchant Ivory Productions Ltd. A Merchant Ivory Film in association with Film Four International and Cinecom Pictures

現代のLGBT映画と比べても、遜色ない切実さ

最後にあげたいのが公開時期だ。今回の公開は絶好、いや、絶妙のタイミングと言っていいかもしれない。

昨今、かつてないほどセクシャル・マイノリティへの関心が高まっているのは確か。世間の理解も進んできてはいる。ただ、その中にあっても本作が描く、セクシャル・マイノリティの生き辛さ、周りにカミングアウトできない苦しさ、自身の存在が社会から閉め出されるかもしれないという恐怖などは、いまも切実に伝わってくる。

それは本作が男性同士の愛が存在することを特別視することなく、恋愛もセックスもひとりの人間の営みとして描き出しているからだろう。

それゆえ本作は、現代のLGBT映画と言ってもいいぐらいに作品として色褪せてない。LGBTsの話題が盛んな今、届くべくして届けられた1作なのかもしれない。

クラシック映画のリバイバル上映ではあるが、本作は新鮮さも話題性も十分。しかもタイムリーな内容でもある。30年前の傑作『モーリス』に、ぜひ注目を。

(文/水上賢治@アドバンスワークス)