文=平辻哲也/Avanti Press

3月中旬、北海道・夕張で2つの映画祭が同時開催された。「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」(3月15〜19日)と「ゆうばり叛逆映画祭」(3月15〜18日)だ。同映画祭は、「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」常連の映画監督で特殊造型プロデューサーの西村喜廣氏らが「“ファンタ映画祭”のあり方に一石投じたい」と開催した。彼らが起こした“謀反”に、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭事務局や関係者は一時、騒然となったとも言われる。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭を何度も取材し、今回は叛逆映画祭に密着した記者が、その開催意義を明らかにする。

酒井麻衣監督による京都造形芸術大学の手作り卒業式 写真:平辻哲也

「世界で一番楽しい映画祭」とは!?

「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」はかつての炭鉱の町、夕張市が観光を目的に主導し、SF、ホラー、ファンタジー、アドベンチャー、アクション、サスペンスなどイマジネーションとエンタテインメント性豊かなジャンル映画を集めている。海外では、シッチェス映画祭、ブリュッセル・ファンタスティック国際映画祭、ポルト国際映画祭の世界三大ファンタスティック映画祭を始め各地で開催されているが、日本国内で唯一「ファンタスティック」の冠がついているのが、ここ、“ゆうばり”だ。

かつてクエンティン・タランティーノ、デニス・ホッパー、勝新太郎ら国内外の大物ゲストで賑わった。しかし、2007年に夕張市が財政破綻。その後は市民有志が存続に尽力し、今年で第28回を迎えた。映画人の中でも「一度は行きたい映画祭の一つ」と評判で、「世界で一番楽しい映画祭」との看板を掲げている。

なぜ世界一楽しい映画祭に「叛逆」を起こしたのか?

昨今は財政破綻の影響、スポンサーの撤退、施設の老朽化など、さまざまな問題が重なり、会場や予算の規模が縮小。今年の会場は、廃校となった学校を宿泊施設に改装した「合宿の宿ひまわり」のみ。そのゲストも、派手さが減ったのでは、という批判も出ていた。

そんな中、1995年の第5回大会から参加している西村氏が、起こした“乱”が、「ゆうばり叛逆映画祭」だった。その“共謀者”は、「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」の前実行委員長である澤田直矢氏というから、周囲も穏やかではいられなかった。

世界のファンタスティック映画祭に参加した西村氏は、最近の「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」にはファンタ映画祭らしさが足りないのではないか、という。「本来、選ばれるべき作品がコンペティション部門に入っていない。イベントでも、ファンタらしい遊び心もなくなってしまった」と語る。

ボランティアを含めて、数百人規模で運営する「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」に対して、「ゆうばり叛逆映画祭」は十数人。会場は、かつて「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」の会場でもあった夕張市商工会議所2階の研修室。作品応募から選定、会場の設営、看板作り、呼び込み、撤収まで、西村氏らが行う。そんな中、インディーズ映画界の若手監督から、アクション監督で俳優の坂口拓、園子温映画の常連女優の冨手麻妙らが参加した。大学の自主上映会の運営を見ているような手作り感の中に、プロの“らしさ”が混在していた。

看板を自ら製作する西村喜廣監督と澤田直矢氏 写真:平辻哲也

気になる最優秀作品は?

期間中は、アマゾンプライム限定の配信ドラマを劇場版に再編集した『東京ヴァンパイアホテル 映画版』をはじめ、45本の短編・長編を上映。最終日には、西村氏が賞をサプライズ発表した。最優秀作品賞は、大畑創監督がパイロット版(本編製作に先駆け、試験的に作った作品)として製作した約30分の『NONE』。誰かに監視されているという被害妄想を持ったヒロインが、集団ストーカーの組織に加わって……というストーリー。「日本版『X-MEN』です。続きが気になるので、ぜひ完成させて欲しい」との寸評だった。

ほかにも、ゾンビ映画『ワン カット オブ ザ デッド』(上田慎一郎監督)が特殊効果賞と優秀作品賞を受賞。これは、テレビの生放送でゾンビドラマを撮ることになった撮影隊が巻き起こす騒動を描いた『カメラを止めるな!』の劇中内映画を独立した作品として上映したもの。題名通り、撮影隊がゾンビドラマを37分間ワンカットで撮り切るという異色作だ。

「叛逆映画祭」を開催した意義はどこにあったのか?

上田監督によれば、『カメラを止めるな!』は、「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」の“コンペティション部門”に落選し、“ゆうばりチョイス部門”に回されたのだという。それを知った西村氏は、「ならば、叛逆映画祭で上映したい」と持ちかけた。ファンタが落とした才能をこうしてすくい上げたことは意義深い。

『ワン カット オブ ザ デッド』は単独作品としても面白い。その裏側で何が起こっていたかを描いた『カメラを止めるな!』はホラーあり、笑いあり、感動ありで、数あるゾンビ映画の中でも傑作の一つに挙げられる。まさに世界に通じる“ファンタ映画”で、ゆうばりファンタがなぜ“コンペティション部門”に選ばなかったのか正直、疑問に感じた。

「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」では一番小さな会場で、閉会式とほぼ同時間帯で1度きりの上映という扱い。そのような扱いを受けながらも、『カメラを止めるな!』は、最終日には、観客賞の「ファンタランド大賞」に輝いた。6月23日から新宿K's cinema、池袋シネマ・ロサで公開予定だ。ファンタファンのみならず、映画ファンは必見!

トロフィー代わりの特製ジョッキに西村監督から焼酎を受ける大畑創監督 写真:平辻哲也

表彰式で監督が口にしたホンネ

表彰式も実にユニークなものだった。トロフィー代わりの記念品は映画祭の刻印が入った特製ビールジョッキ。それに、焼酎を並々注ぎ、一気飲みできなければ、受賞は取り消し、というもの。もちろん、これはシャレの一つで、急性アルコール中毒には注意しながら、各受賞者は喜んで祝杯を上げた。上田監督は「自信があったので、ゆうばりファンタのコンペから落とされたのは正直、悔しかった。こうして評価されたことはうれしい」と話した。

「一つの場所に、2つの映画祭が必要なのか?」「叛逆映画祭は内紛?」という不安の声も聞かれたが、世界三大映画祭の一つであるカンヌ国際映画祭にも、別組織が運営する「監督週間」がある。これも、カンヌの官僚主義に疑問を持った映画人が1968年に起こった反体制運動「五月革命」を機に、翌年に新たに立ち上げた部門だ。

世界のキタノ、北野武監督も、『キッズ・リターン』(1996年)が第49回カンヌ国際映画祭監督週間に選出されたことをきっかけに世界の映画祭の舞台に躍り出た。カンヌ映画祭と監督週間は現在も、いい緊張関係で映画祭の格を保っている。

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映画の本質とは、叛逆ではないか。その対象は時代であったり、権力であったりもする。その映画や映画祭がある種の権威になった時、新たな叛逆が始まるのは当然の摂理である。ある「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」のトップは言う。「別の映画祭を立ち上げると聞いた時は、どんどんやるべきだと言ったんです。ただ、叛逆映画祭という名前を聞いた時は正直、驚きましたが……」。

閉会式での記念撮影 写真:平辻哲也

「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」では、酒場で映画好きの立場の違う人間が混じり合って、激論するのが恒例。そんななか、「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」と「ゆうばり叛逆映画祭」の関係者が同席する場面もあった。関係者は「叛逆映画祭は我々へのエールだと分かっています。映画への愛は同じ。我々もいろんなことを変えたいと思っています」と話した。まもなく30回の大きな節目を迎える「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」。この新たな勢力の登場が、愛すべきこの映画祭を活気づけるか。