半世紀以上前に作られたモノクロSF映画が、密かに注目を集めている。わたしたちはいま、スマートスピーカーやSiriが身近にある「未来」を生きているが、5月19日より公開となる『イカリエ-XB1 デジタル・リマスター版』の先見性には驚かされるだろう。だが、そればかりではない。本作は、そのデザインと音響の未来派感覚で、ハイセンスな世界にとことん酔わせてくれるのだ。

スマートスピーカーは55年前に予告されていた?

映画『イカリエXB-1』デジタル・リマスター版

(C)National Film Archive

舞台は2163年。つまり22世紀後半だ。世界で初めて生命調査の旅に出た宇宙船「イカリエ-XB1」の中だけで物語は展開する。

この宇宙船は、太陽系に似たアルファ・ケンタウリ惑星系を目指している。地球への帰還は15年後の予定。だが、宇宙空間を高速で移動するため、乗組員たち40名はその間、2歳ほどしか年をとらない。

乗組員のひとりの妊娠が発覚したり、ストレスから情緒不安定になる者が現れたり、突如遭遇した宇宙船が、実は乗組員が全員死亡している幽霊船で、とんでもない事故が起きたり。様々なトラブルと代償を乗り越え、遂にアルファ・ケンタウリを発見するが、まさかの悲劇が待ち構えている。

映画『イカリエXB-1』デジタル・リマスター版

(C)National Film Archive

わずか88分ながら、秀逸なTVドラマのようなエピソードの数々がぎゅっと詰まっており、個性豊かな男女キャラクターたちが彩る、宇宙空間の「密室ドラマ」から、まったく目が離せない。

劇中には、現代のスマートスピーカーやSiriと同じ働きをするロボットが登場。そのロボットを「相棒」として大事にしている数学者は「そんなの前世紀のガラクタだろ」と、仲間たちからバカにされる。予見どころか、まさに的中。この「未来を見越したジョーク」は、本作の卓見を示すものだろう。

モノクロ映像が映えるセンスあふれるデザイン

映画『イカリエXB-1』デジタル・リマスター版

(C)National Film Archive

名作『2001年宇宙の旅』(1968年)に影響を与えたとも言われる幻の傑作だけに、生命体を探索する人類が出逢うことになる「大きな存在」を巡って、哲学的な謎解きを楽しむのも一興だ。たとえば「新世紀エヴァンゲリオン」がそうであるように、様々な解釈を許す多様性がここにはある。

けれども、この映画の懐深さは、そこに留まらない。なんと言っても「視覚的な快楽」が大きな魅力である。冒頭で、映画のクライマックスがいきなり提示される。そこで映し出される映像のなんとカッコいいことか!

映画『イカリエXB-1』デジタル・リマスター版

(C)National Film Archive

ひとりの乗組員が明らかに錯乱しているのだが、彼の感情的な混沌とは対称的に、背景となる宇宙船の内装はどこまでも静的。円形をモチーフとしたミニマルな壁面は、まるで美しいドット柄のようだ。モノクロームの画面が、深い黒色の壁と、半透明の壁とを、より鮮明に浮き彫りにする。男が憔悴しきった表情でその壁を横切っていく姿は、異なる要素が真正面からぶつかることで、ポリフォニックな映像効果が生まれている。

常軌を逸した行動と、あたかもそれを傍観するようなシックなデザイン。見渡せば、この映画のいたるところに円形のモチーフが点在している。前述したロボットにも、宇宙船にも、円形がアクセントのようにある。

映画『イカリエXB-1』デジタル・リマスター版

(C)National Film Archive

さらに、宇宙船の中にスポーツジムがあるという、粋な概念。シャープで直線的な世界観に見えて、無機的なものに有機的なものをプラスするセンスがある。円形は生命のメタファーなのだろうか。適度に配置されているから、最小限のぬくもりがあり、決してダサくならない。むしろ、キメキメのスタイリッシュさよりも、こうしてほのかにウォーミーな感覚が付加されることで、古くならない映画美術たりえている。

加えて、そこで鳴り響く電子音楽の慎ましくも、深層心理にふれてくるダイレクトなサウンド。不安をかき立てるが、決して大げさにならない。メロディと音響効果の間を往く、肌ざわり重視の感触もまた、めちゃめちゃオシャレでたまらない。

映画『イカリエXB-1』デジタル・リマスター版

(C)National Film Archive

古めかしい未来造形は「レトロフューチャー」と呼ばれ、愛でられることが多いが、『イカリエ-XB1』はそのような範疇に属するものではない。2018年においてもなお「未来」と呼びうるものであり、そこにはこれから訪れるかもしれない「新しき世界」が広がっている。

(文/相田冬二@アドバンスワークス)