2013年に起きたボストンマラソン爆発テロ事件。アメリカ三大市民マラソンのひとつ、ボストンマラソンの開催中に爆弾が2回爆発し、3人が死亡、282人が負傷した凄惨な事件です。この大会を応援しに来ていたジェフ・ボーマンは、両脚を失いながらも犯人逮捕に協力。一躍全米のヒーローとなりました。

そのジェフの実話を映画化した『ボストン ストロング 〜ダメな僕だから英雄になれた〜』が5月11日より全国公開となります。本作は、ジェフ・ボーマンを演じたジェイク・ギレンホールが、実在のジェフと友情を育くみ、2年もの時をかけて取り組んだ意欲作です。今回は、ボストンマラソンの英雄、ジェフ・ボーマンの素顔に迫ってみたいと思います。

学費を稼ぐために小売店で働いていた

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事件発生前の2年間半、大学へ通いながら小売店で働いていた27歳のジェフ・ボーマン。事件当時は、学費ローンを返すために通学を一時中断して、会社でのキャリアを優先していた矢先でした。

2001年のアメリカ同時多発テロから約12年後の、2013年4月15日に開催されたボストンマラソンを観に行っていたジェフは、爆発に巻き込まれて両脚を失ってしまいます。作中、ジェフの父親は、歩けないジェフが仕事をクビになるのではと心配しますが、見舞いに来た会社の上司はジェフの職場復帰を約束します。

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実際のジェフも事件の14ヶ月後に復職。しかし、それまでの道のりは想像を絶するものでした。

膝上から切断されたジェフの両脚。傷がふさがるまで、巻かれた包帯はジェフが体を動かすたびに刺すように痛かったといいます。その上、夜には腿が痙攣し、ないはずの両脚がドクドクと脈を打つばかりか、誰かに膝をなぐられているかのような痛みが続いたそう。

元カノの心を取り戻すために行ったボストンマラソン

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元カノであるエリンとは、ボストンマラソンの1年ほど前に出会い、別れたりヨリを戻したりを繰り返していました。彼女は、ジェフがデートの約束をなんども破ったことに嫌気がさして、事件の1ヶ月前にジェフと別れていたのだとか。そんなエリンの心を取り戻すため、ジェフはボストンマラソンに初めて出場するエリンを応援しに行ったのです。

作中、ジェフが爆発に巻き込まれたと知るや否や、半狂乱で病院へかけつけるエリン(タチアナ・マスラニー)。自分のせいで傷ついてしまったジェフに責任を感じ、彼を支える存在になります。

そして、爆弾がほかにあるかもしれないのに現場に飛び込み、ジェフを救助する男性カルロス。ジェフとカルロスの写真は新聞に載り、彼らは一夜にして英雄になります。とてつもない悲劇から這い上がろうとする男と、自分の命を顧みずに助ける男。アメリカの人々にとって、この二人の男性はテロに負けない“アメリカの不屈の精神”を体現するシンボルとなったのです。

心と体に苦しみを抱えたまま、映画化に協力したジェフ

悲惨な物語だと思われがちな本作ですが、ジェフのジョークに思わず笑ってしまうシーンがいくつもあります。ジェイク・ギレンホールは米人気番組『TODAY』(※1)で「ジェフに会って分かったのは、彼が素晴らしいユーモアの持ち主だったこと。驚いたけれど、だからこそ、彼はこのすべて(の試練)を乗り越えられたんだと思う」と語りました。

ジェイク・ギレンホール(写真左)と本作のモデルとなったジェフ・ボーマン(写真右)

常にジョークを飛ばしているジェフですが、本当は自分のことを話したがらず、プライバシーを大切にするタイプ。世界中から注目を集めることへの違和感、自分だけが英雄扱いされることへの罪悪感、そして、英雄と呼ばれながらも、本当は苦しんでいる自分への無力感に苦しめられるジェフ。

実は、本作を撮影中もまだ回復途中にあったそう。脚本家のジョン・ポローノは映画パンフレットでこう言っています。「ジェフはその頃、立ち直る真っ最中だったからね。今では大きな回復を見せているが、それでもPTSDに苦しんでいる。当時は深い苦しみの中で脚本づくりに協力してくれていたんだ」

ジェフの現在の夢はー?

事件の翌年、映画の原作となった回顧録『Stronger』を出版した後は、勤めていた会社を退職し、大学に復学。義足で歩くことができるようになるまで4年もかかりました。そんなジェフの夢は、最高の義足を作って人の役に立つこと。

アメリカで人気のトークショウホスト、コナン・オブライエンの番組に出演した際(※2)には、太陽エネルギーを使ったバッテリーを既に作ったと話していました。「なんといっても、僕は自分をモルモットにできるからね(笑)」。ジェフは現在、講演活動を行いながら、義足を作るために機械工学を大学で学んでいるそうです。

『ボストン ストロング 〜ダメな僕だから英雄になれた〜』はテロがテーマではなく、どん底から這い上がった一人の“普通”の人間と、彼を支える“普通”の人間たちの物語。TIME誌のWEB版(※3)にジェフが語った言葉が、本作のメッセージなのではないでしょうか。

「僕はもう大丈夫だと皆に知ってもらいたい。僕がこれほどの衝撃を乗り越えられたんだから、誰にだってできるはず。人生はパーフェクトじゃない。だけど、誰もが乗り越えられるんだ」

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※1:Jake Gyllenhaal And Jeff Bauman Talk About Inspiring New Film ‘Stronger’ | TODAY
※2:Jeff Bauman On Life After The Boston Marathon Bombing - CONAN on TBS
※3:Boston Marathon Bombing Survivor on Reliving His Story Through the Movie Stronger: 'It Was Hard But It Was Beautiful'

(文・此花さくや)