5月19日公開の映画『ダリダ~あまい囁き~』は、フランスを拠点に1950年代から80年代にかけて活躍した、フランスの国民的スター“ダリダ”こと、ヨランダ・クリスティーナ・ジリオッティの物語です。

タイトルにもある名曲「あまい囁き」は、日本では缶コーヒーなどのCM曲に使われました。「パローレ、パロレ、パローレ」というフレーズに聞き覚えのある人も多いのでは? 作中では、この曲をダリダが歌った背景にも触れています。

本作のように、名曲が生まれた背景を知ることができるのが、歌手の実話を描いた作品の面白いところ。ほかにもまだある、名曲が生まれたエピソード、そこに込められた歌手の想いを、映画の中に紐解いていきましょう。

“別れた恋人を思い出す曲”から生まれた…『最後のマイ・ウェイ』

フランスの歌手クロード・フランソワの人生を追った作品が、2012年公開の『最後のマイ・ウェイ』です。タイトルにある「マイ・ウェイ」はフランク・シナトラの名曲ですが、これはクロードが制作した、「Comme d'habitude(いつものように)」をカバーしたものです。

「Comme d'habitude」を発表した当時、クロードはかつての恋人、歌手フランス・ギャルとの別れに苦しんでいました。「哀しい歌を歌いたい」と思ったクロードが、作曲家から送られてきたデモテープの中から選んだのが、「Comme d'habitude」のメロディでした。クロードはデモテープの曲をアレンジし、クレッシェンドで感情と声が高まり、やがて悲痛に終わるという、ドラマチックな歌を生み出します。

前述の通り、この曲は後にフランク・シナトラにカバーされます。英語版の作詞をしたポール・アンカはこの曲を、人生そのものを振り返る内容にしました。そう、実は「マイ・ウェイ」は、別れた恋人を思い返す歌をアレンジしたものだったのです。

作中ではクロードがこの英語版を歌う場面がありますが、それが自分の人生を振り返るかのように見えて、思わずグッと来てしまいます。

人生の再起をかけて歌った“ワルツ”…『ストックホルムでワルツを』

スウェーデンのジャズ歌手、モニカ・ゼタールンドの人生を描いた作品が『ストックホルムでワルツを』(2013年)。1960年代に渡米したモニカは、帰国後にジャズを母国語で歌うことで、スウェーデンで絶大な人気を集めました。

タイトルにある“ワルツ”は、彼女の名曲「ワルツ・フォー・デビー」にかけたもの。しかし、この曲を歌ったときのモニカは、歌手としての成功とは裏腹に、私生活では悲惨な日々を過ごしていました。恋人と別れたことで酒の量が増え、仕事に支障をきたし、ついには父親に娘を取り上げられてしまいます。

そんな、人生のどん底にいたモニカが出会った曲が、「ワルツ・フォー・デビー」でした。モニカはこの曲を歌おうとしますが、たびたびコンサートをドタキャンしていた彼女から、レコード会社は手を引こうとしていました。それでも彼女は自らデモテープを作り、ビル・エヴァンスのマネージャーに送るなど、この曲を形にしようともがくのでした。

モニカにとって「ワルツ・フォー・デビー」は、お金のためでなく、人生の苦しみから立ち直るために歌った曲だったのではないでしょうか。だからこそ、その曲は観ている人の心にたまらなく響くのです。

ラブソングに秘められた愛娘への想い…『ジャージー・ボーイズ』

1960年代に世界的な人気を集めたアメリカのバンド「フォー・シーズンズ」。その実話を元に作られたのが『ジャージー・ボーイズ』(2014年)です。大ヒット曲の「君の瞳に恋してる(Can't Take My Eyes Off You)」は日本でも多くの歌手がカバーしているので、ご存知の方も多いのではないでしょうか?

実はこの曲が生まれたのは、フォー・シーズンズの初代メンバーがバンドを去った後の話。リードボーカルのフランキー・ヴァリは、音楽活動に専念するものの、疎かにしていた家庭は崩壊。さらには、若くして一人娘を亡くしたことで、深い悲しみの中にありました。そんな彼の元を訪れた元メンバーが、彼を励ますために贈った曲が「君の瞳に恋してる」です。

「夢のように美しすぎて 君から目が離せない もし触れたら天国の心地 君を強く抱きしめたい ようやく僕に愛が訪れた 神に感謝しよう 生きている事を」(作中より)

この曲を作中でフランキーは、キーボードだけのシンプルな伴奏とともに歌いはじめます。心に染み入るような歌詞は、ラブソングであるはずなのに、どこかフランキーの愛娘への想いが溢れているように感じられるのです。

『ダリダ~あまい囁き~』/(c)2017 BETHSABEE MUCHO-PATHE PRODUCTION -TF1 FILMS PRODUCTION-JOUROR CINEMA/5月19日(土)より 角川シネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ他全国公開/配給:KADOKAWA

『ダリダ~あまい囁き~』では結婚して普通の家庭をもつことに憧れていたダリダが、その願いのために、数々の男と逢瀬を繰り返していきます。その中で、「あまい囁き」にはじまって、「ベサメ・ムーチョ」、「花の時代」など、日本でもおなじみの数々の名曲が歌われていくのです。

彼女の曲が日本の歌謡曲と違うのは、本人の人生をそのまま投影したような歌詞が多いことでしょう。例えば、「独りは嫌だから」という歌は、大勢のファンがいる一方で、私生活では愛した男が自殺し、求めた愛は手に入らず、孤独を深めていく心情そのものを歌っているかのように思えます。

映画の中で語られた、数々の名曲が生まれたエピソード。それを知ると、馴染みの曲がもっと感慨深いものに思えてくるのではないでしょうか?

(文/デッキー@H14)