【町田雪のLA発★ハリウッド試写通信 ♯02】

「LA発★ハリウッド試写通信」では、ロサンゼルス在住のライターが、最新映画の見どころやハリウッド事情など、LAならではの様々な情報をお届けします。

海外の監督が作る日本を舞台にした映画は常に、批判と感謝の目にさらされる。

ソフィア・コッポラ監督が新宿を舞台に白人男女のロマンスを描いた『ロスト・イン・トランスレーション』(2003年)は、観客にも映画人にも愛された(オスカー脚本賞受賞)。しかし、日本人の体型や英語力、慣習をネタにする部分については批判を受けることもあった。

『ラスト サムライ』(2003年)、『SAYURI』(2005年)、『ゴースト・イン・ザ・シェル』(2017年)などの映画では、一部の日本描写がステレオタイプであることや、日本人役を白人俳優が演じた「ホワイト・ウォッシング問題」が批判の対象となった。

もちろんどの作品においても、日本の何かが世界を魅了することは嬉しいし、数ある舞台のなかから日本が選ばれることや、日本人俳優の活躍の場が増えることには感謝の気持ちもある。

『犬ヶ島』は日本文化の盗用?

では、日本を舞台に、失踪した愛犬を探す少年と犬たちの冒険を描いたウェス・アンダーソン監督の新作ストップモーション・アニメ『犬ヶ島』は、どうなのか? 米批評家たちの間では、「日本文化の盗用か? それとも、日本への愛を込めたオマージュか?」という議論が活発に繰り広げられた。

『犬ヶ島』5月25日(金)全国ロードショー
(c) 2018 Twentieth Century Fox Film Corporation

批判の内容は、「典型的なステレオタイプ」(寿司も力士も桜も太鼓ももれなく登場)、「ホワイト・ウォッシング」(危機を救うのは、白人留学生の女の子)、「日本人への配慮不足」(爆発シーンで、原爆を思わせるキノコ雲が上がる描写あり)、そして「英語至上主義」(日本犬であるはずの犬が英語を話す)といったものだ。

一方、こうした批判に対する肯定意見を要約すると、「それらの仕掛けやユーモアもすべて、アンダーソンがあえて込めた日本への愛じゃないか」となる。筆者も同じ意見だ。実際に監督は、日本への敬愛を公言したうえで、同作について「あくまでもファンタジーなので、日本のすべてを正確に描写しているとは言わないが、自分の日本映画体験を通じて作った僕なりの日本なんだ」と語っている。

キャスティングに注目

犬たちを島に隔離する悪役・小林市長が三船敏郎そっくりであるなど、黒澤明の影響が随所に散りばめられているほか、自然や平和、静けさを表現する部分では、宮崎駿アニメーションに倣ったと監督は明かしている。

さらに、日本人キャストの数は20人以上。渡辺謙や夏木マリ、松田龍平、松田翔太、山田孝之ら日本で活躍中の人気俳優から、世界的に有名なオノ・ヨーコ、カナダ生まれの日本人ミックスの少年であるコーユー・ランキンなど、錚々たる顔ぶれだ。

『犬ヶ島』5月25日(金)全国ロードショー
(c) 2018 Twentieth Century Fox Film Corporation

企画段階から脚本、出演にいたるまで、同作の立役者となったのは、アンダーソンと長い友人関係にあるというクリエイターの野村訓市。キャスティングの内容からも溢れんばかりの日本愛が伺える。

おかしく思えることも、見方を変えてみると…?

批判の中にある「英語至上主義」という点も、日本人としては気にならなかった。言語の信憑性を語り出せば、日本人少年アタリの口調はカタコトだし、犬たちはやたらにアメリカ的スラングにまみれているし、科学者助手役オノ・ヨーコの日本語はロックな英語風だし……と突っ込みどころが満載。日本語の台詞も英語に訳されなかったり、おかしな訳になっていたり、矛盾がいっぱい。

『犬ヶ島』5月25日(金)全国ロードショー
(c) 2018 Twentieth Century Fox Film Corporation

しかし、そのゆるさがおかしくて、違和感が心地いいのが、ウェス・ワールドの魅力なのだ。彼自身、「英語吹き替えの日本映画を観るのは好きじゃない。日本語はとても美しくて複雑な言語だから、翻訳なしの演技を観たいんだ」と語っている。そのような考えに基づいた同作は、英語ネイティブ、日本語ネイティブ、日英バイリンガルなど、それぞれの言語状況によって、違う楽しみ方ができるという、まさにトランスレーションの芸術と言えそうだ。

お馴染みのあの俳優も!

ハリウッドの中心にあるアークライト・シネマでは貴重なジオラマ展示
撮影:町田雪

登場する犬や人間たちの声が、どの俳優のものなのかを当てていくのも楽しい。個性的な日本人キャストに加え、ビル・マーレイやエドワード・ノートン、ブライアン・クランストンら渋い面々が犬に扮し、スカーレット・ヨハンソン、フランシス・マクドーマンド(今年のオスカー主演女優賞受賞)、グレタ・ガーウィグ(今年のオスカーで女性として史上5人目の監督賞ノミネート)ら、今をときめく女優たちがそれぞれの持ち場でいい味を出しているので、ご期待を!

『犬ヶ島』は、5月25日(金)に全国ロードショー。

(Avanti Press)