全編iPhoneで撮影した『タンジェリン』(2015年)で世界中を驚愕させた、ショーン・ベイカー監督の最新作『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(5月12日より公開)。第90回アカデミー賞を始め、世界各国の100以上の映画賞にノミネートされ、50以上の賞に輝いた話題作がいよいよ日本でも公開されます。誰もが憧れる「夢の国」のすぐ外側に、「こんな世界が広がっていたなんて!」 と、思わず目からウロコが落ちるほど、驚きとときめきに満ち溢れた魔法のような映画なんです。

『誰も知らない』を彷彿とさせる、無邪気な子どもの笑顔と過酷な現実

物語の舞台となるのは、色鮮やかなパープルのお城をモチーフにした「マジック・キャッスル」という名の安モーテル。カラフルな建物が立ち並ぶこのエリアは、実は、「ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート」に隣接する場所に位置しています。

ハイウェイ沿いに連なるモーテルは、10年ほど前まではディズニー・ワールドを訪れる観光客で賑わいを見せていたものの、いまでは廃墟も点在するほど廃れてしまい、今では住まいが確保できない低所得者たちの、避難所がわりに利用されています。

主人公のムーニーは、「マジック・キャッスル」の一室で大好きなママと一緒に暮らす、キュートな6歳の女の子。大人相手にいたずらを仕掛けては、ゲラゲラと笑い転げる愉快な毎日を送っています。

一方、ムーニーの母親でありシングルマザーのヘイリーは、身体中にタトゥーがあり、髪の毛は青緑色。一見自由きままに映りますが、実は最近仕事を失ったばかり。ダイナーで働く友人に余ったワッフルをタダでわけてもらったり、リゾートホテルの前で観光客相手に偽物の香水を売り歩いたりしながら、モーテルの宿泊代を工面しています。

そんな二人を軸に、本作は、フロリダの抜けるような空の青さと、パステルカラーに彩られたファンタジックな世界に潜む、思いもよらないもうひとつの「夢の国」を突きつけます。

ベイカー監督が来日した際に行われた、観客との質疑応答で監督本人が言及していたのですが、無邪気な子どもたちの笑顔の裏に隠された過酷な現実を描いている、という点においては、是枝裕和監督の『誰も知らない』(2004年)にも通じる部分があります。

(C)2017 Florida Project 2016, LLC.

6歳のムーニーの視点から描くカラフルな冒険と、完璧なキャスティング

本作で注目すべきなのは、この物語が、6歳の娘ムーニーの視点から描かれているということ。そして「マジック・キャッスル」に暮らす住人たちが、皆個性豊かで、思わず「完璧!」とも思えるほどに、見事なキャスティングであるということなんです。

もし、この映画が傍観者の視点から撮られていたとしたら、きっともっと辛くて哀しい物語に見えていたに違いありません。しかし、ムーニーにとってこの場所は、まぎれもなく「ホーム」であり、どんなに危ない場所であっても、冒険に満ちた宝島であることには変わらないのです。

実際、ムーニーたちが暮らす部屋は、狭いながらもカラフルな雑貨や好きな洋服で埋め尽くされていて、心地よさそうな空間に映ります。

主人公のムーニーを演じているのは、オーディションで選ばれたフロリダ出身のブルックリン・キンバリー・プリンス。ベイカー監督が「彼女はムーニーの化身そのもの。僕が出会ったあらゆる年齢層の俳優の中で、最も優れた役者の一人!」と絶賛するのも納得の、素晴らしい演技を披露しています。

天真爛漫で言葉遣いや振る舞いは生意気だけど、思わず周りの人たちを笑顔にしてしまう、なんともパワフルで魅力的な女の子。くるくると変わる彼女の愛くるしい表情に、釘付けになること請け合いです。

(C)2017 Florida Project 2016, LLC.

ベイカー監督が発掘したインスタグラムの申し子と、デフォーが魅せるベテランの風格

一方、ちょっぴりエキセントリックではあるものの、しっかりと自分の世界を持った母親・ヘイリーを演じているのは、ベイカー監督がなんとインスタグラムで発掘したという、ブリア・ヴィネイト。これがスクリーンデビューとは思えないほどナチュラルで繊細な演技を見せています。

そして、忘れてはならないのが、口うるさいけど住人たちをやさしく見守るモーテルの管理人・ボビーを演じたウィレム・デフォーです。ムーニーたちがしでかすいたずらに、本気で怒ってみせたかと思いきや、子どもたちに不審者が近寄らないようにしっかり目を光らせ、ヘイリーに対しても父親のように世話を焼く姿は、控えめながらも存在感たっぷり。演技経験のほとんどない役者陣を相手に、ベテランの風格を漂わせながらも、違和感なく溶け込み、あえて一歩引いた立場からこの作品をコントロールするという重要な役割を担っているのです。惜しくもオスカーは逃したものの、この映画の中でデフォーが見せる佇まいや表情は、必ずや多くの観客の心に刻まれることでしょう。

(C)2017 Florida Project 2016, LLC.

『タンジェリン』とは違って、今回はあえて35mmフィルムをメインとして撮影されたことでも話題となっている『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』。映画のラストに訪れる、わずか85秒間の切なくも煌めきを放つ「マジカルアワー」は、その瞬間を目撃した人すべてに、きっと震えるほどの感動をもたらしてくれるはず。ベイカー監督の生み出す「儚くて切ない魔法」を、目をこらして見つめてください。

(文/渡邊玲子@アドバンスワークス)