文=木俣冬/Avanti Press

宮﨑駿監督『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)のラスト、主人公のルパン三世たちは「なんて気持ちのいい奴らだろう」と評される。目下、私は、毎週月曜の夜、古沢良太の描く月9「コンフィデンスマンJP」の主人公・ダー子(長澤まさみ)、リチャード(小日向文世)、ボクちゃん(東出昌大)にその言葉と同じものを感じている。

コンフィデンスマンとはこんな詐欺

1話:左から長澤まさみ、東出昌大、江口洋介
『コンフィデンスマンJP』毎週月曜よる9時放送。
(C)フジテレビ

3人は信用詐欺師(コンフィデンスマン)で、毎回、あの手、この手で、鼻持ちならない大金持ちを騙し、億単位の大金を獲得する。現代日本版『スティング』のようなドラマだ。

ターゲットは、第1話が日本のゴッドファーザーのような実業家(江口洋介)、2話は新興の大手リゾート会社の女社長(吉瀬美智子)、3話は絵画のディーラー(石黒賢)、4話は映画好きの食品会社の二代目ぼんぼん(佐野史郎)、5話は大病院の理事長(かたせ梨乃)……。彼らは一様に、善人を装いながら、裏であくどいことをして大金を稼いでおり、ダー子たちは彼らの逆手をとって財産を巻き上げる。

その手口は、あくまでコメディということもあって、極めてわかりやすく単純化されている。例えば、第1話では、海外にお金を持ち逃げする実業家を、偽空港をつくり、偽飛行機事故を装って騙す。2話は、田舎の土地を安く買い叩き高級リゾートホテルにして儲けていた社長を、政治家秘書や偽の民宿オーナーなどに扮して騙した。3話では、安く買った絵画を高値で売っていたディーラーに、偽の天才画家の絵を売りつけた。4話は、食品偽装をしている社長の映画好きを利用して、偽装の告発映画を作ってしまう。

極めつけは5話。能力のない息子をカリスマ医師に仕立てた会長に、嘘の診断をして偽手術を行うことで、息子の化けの皮を剥がす。

一事が万事、一筋縄ではいかない

3話:左から長澤まさみ、石黒賢
『コンフィデンスマンJP』毎週月曜よる9時放送。
(C)フジテレビ

誰かになりすましたり、偽の建物を作り込んだりすることで、相手を騙すことはなんとか可能だが、一夜漬けで手術を行うのはいくらなんでも無理だろうと思ったら、医療ドラマに使用される特殊造型を患者の身体に設置するという趣向。

くだらなすぎておかしい。それだけにとどまらず、人気ドラマを手がける特殊造形作家役が山田孝之。最後の種明かしの数分だけの登場だ。この役に対する「あんたは仕事を選んだほうがいい」という東出の台詞は、特別出演的な山田に対して古沢良太が書き加えた台詞だという。書き加えられた台詞が当人のしゃべるものでないというのも、また古沢の一筋縄でいかないところ。このようにドラマ全体、一事が万事、一筋縄ではいかないのが「コンフィデンスマンJP」だ。

見えているものが必ずしも本当とは限らない

1話はわざわざ鳥取砂丘で撮影、4話の時代劇は京都撮影所も使い、アクションシーンは大勢のエキストラやハイスピードカメラなどを使って本格的に。5話は、いわゆる医療ドラマ経験演出家による、医療ドラマさながらの緊張感あふれるオペシーンになった(他局の高視聴率孤高の医師ドラマのパロディもあった)。

要するに、世の中の裏側を、ひいてはエンタテインメントの裏側を暴いてみせることで、あなたがいいと思っているものは、果たしてほんとうにいいものなのかと視聴者に問いかけているのだろう。だから、タイトルが出る前は必ず、見えているものが必ずしも本当であるとは限らないという趣旨の台詞が入る。

古沢良太の自家薬籠中“真実を疑え”系

第5話はこうだった。

「目に見えるものが真実とは限らない。医学は本当に進歩しているのか、長生きすることは本当に幸せなことなのか、医療モノをやったら本当に視聴率が上がるのか。コンフィデンスマンの世界へようこそ」

この“真実を疑え”系の話は、古沢良太の自家薬籠中のもので、『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005年)でハートウォームなウェルメイドな脚本が書けると注目されたあとで、オリジナルもと期待がかかった映画『キサラギ』(2007年)は、自殺したアイドルを偲ぶファンの会話の中から、意外な事実が浮かび上がってくるというものだった。

5話:長澤まさみ
『コンフィデンスマンJP』毎週月曜よる9時放送。
(C)フジテレビ

映画化もされたNHKの土曜ドラマ「外事警察」(2009年)では、公安の刑事や、その協力者が、捜査を優先するにつれて個人の意思が、国家の思惑へとすり替わっていくスリルを描いた。

古沢の人気を確実なものにした「リーガルハイ」シリーズ(2012~2014年)は、真実よりも自分の仕事を優先する敏腕弁護士と、真実を明らかにしたいという新人弁護士の対立を軸に、丁々発止のやりとりが楽しいエンタテインメントだ。

嘘を本物にするスタッフの仕事に支えられ

「コンフィデンスマンJP」は明らかに、「リーガルハイ」の延長線上にあるが、そこから善悪や虚実をとっぱらい、全員犯罪者である彼らが、いかに嘘を本物に見せるかに血道をあげる姿の凄みを描いている。

1話の「それにディテールがモノを言うんだ。偽物の店だって立派に作る」という台詞や、4話の「映画業界って詐欺師ばっかり」という台詞は、それに尽きると思う。

当初はドリフのコントみたいで馬鹿馬鹿しいという声もあったが、毎週毎週作り込まれた「8時だよ!全員集合」のコントのセットは、現在では芸能史のなかの貴重な仕事と高評価を得ている。

「コンフィデンスマンJP」は、週ごとに、まったく違うシチュエーションをつくって、セットを建て込み、小道具を用意する(ほかの回と小道具がリンクしていたりもする)。

4話:左から小日向文世、長澤まさみ
『コンフィデンスマンJP』毎週月曜よる9時放送。
(C)フジテレビ

4話の映画編で、映画人が通った銀座の喫茶店という嘘の店の看板を、リチャードが「これよくできてるね」と言い、ボクちゃんが「ホントだね」と同意する場面があるが、ほんとうにスタッフそれぞれが仕上げる仕事は大切だ。

長澤、小日向、東出は、スタッフに支えられていろいろな人物になりすます。衣裳やヘアメイクの力を借りながら、口調や姿勢も変えていく(小日向文世はとりわけすばらしい)。

月9という、どメジャー枠での挑戦

回を増すごとに好意的な意見が増えているのは、毎回、毎回、突き抜けた凄みを見せてくれるのと、そもそも古沢良太が、『三丁目の夕日』、「外事警察」、「リーガルハイ」で示したように、感動もスリルも笑いも、あらゆるエンタテインメントの構造を確実に理解した盤石な脚本のうえでふざけているからだ(もうひとつ、「鈴木先生」という哲学的な漫画の脚本を手がけていることも、力になっていると思う)。

こういったシチュエーションコントは、演劇の世界ではよくあるし、深夜ドラマにもちょくちょくある。福田雄一(「勇者ヨシヒコ」シリーズ、「スーパーサラリーマン左江内氏」など)ひとり勝ち状態のこのジャンルを、月9という、どメジャー枠でぶつけてきた「コンフィデンスマンJP」の成河広明プロデューサーと古沢良太とフジテレビの決断や良し。

長澤まさみ、小日向文世、東出昌大、そしてスタッフたちも、「なんて気持ちのいいやつらだろう」と讃えたい。あと、もうひとり、いやにいい声の働き者、五十嵐役の小手伸也もいい仕事をしている。

シチュエーションコントは国境を超える

6話:左から東出昌大、長澤まさみ、小日向文世
『コンフィデンスマンJP』毎週月曜よる9時放送。
(C)フジテレビ

第6話は、コントの世界で生きてきた内村光良がターゲット役。田舎の土地開発で稼ぐ悪徳コンサルタントをダー子たちはどう騙すか。本物のコメディアンを迎えて、シチュエーションコントがどう弾けるか。

善・悪も、虚・偽もその境界線なんてわかりはしないけれど、彼らがすごいなあー! よくやるなー! と感じられることだけは確かな真実だ。

同じ脚本で、「コンフィデンスマンKR」、「コンフィデンスマンCN」と韓国版、中国版も同時開発されることが発表されたのも、これが言葉を超えたノンバーバル(非言語)コミュニケーションのドラマだからだろう。

「コンフィデンスマンJP」は、フジテレビがいま一度、テレビの時代をつくろうとあげた狼煙に見える。