モスクワ国際映画祭でW受賞を果たした日本の若き俊英・中川龍太郎監督が、国立市を舞台にノスタルジックな東京を映しとった『四月の永い夢』(5月12日より公開)。平成2年生まれながらも、「ウルトラセブン」に多大なる影響を受け、寅さんの妹・さくらに憧れを抱く、まさに“昭和に恋する詩人”とも言える中川監督。彼の才能に惚れ込み、「進撃の巨人」で知られるアニメ制作会社WIT STUDIOが初めて手掛けた実写作品としても注目を集める本作の魅力をご紹介します!

ラブレターをきっかけに詩集を出版!寅さんを通じて育んだ「昭和愛」

カンヌ、ベルリン、ヴェネツィアに並ぶ「世界四大国際映画祭」の一つと称されるモスクワ国際映画祭で、見事、国際映画批評家連盟賞とロシア映画批評家連盟特別表彰をダブル受賞するという快挙を成し遂げた中川龍太郎監督をご存知でしょうか。

中学生の頃から詩作を始め、好きな女の子へのラブレターをきっかけに雑誌や新聞への詩の投稿を行い、なんと17歳で『詩集 雪に至る都』を出版という、平成生まれとは思えない異色の経歴を持つ中川監督。

幼い頃テレビで「ウルトラセブン」を目にして、子どもが興味を持ちそうな怪獣による戦闘シーンではなく、そこに描かれる風景や人々に惹かれたそう。さらに、小学生時代に『男はつらいよ』シリーズや「無責任」シリーズと出会い、「傷だらけの天使」や大島渚作品に魅了され、横溝正史、松本清張、三島由紀夫などの小説を読みふけっていた……というから、中川監督を“昭和に恋する詩人”と称する理由がお分かりいただけるのではないかと思います。

独学で映画を撮り始めた監督が直面した「親友の死」

その後、大学時代に仲間を集めて独学で製作した自主映画をきっかけに、映画監督としてのキャリアをスタートさせ、『Calling』(2012年)でボストン国際映画祭最優秀撮影賞を受賞。『愛の小さな歴史』(2015年)、『走れ、絶望に追いつかれない速さで』(2016年)が、2年連続で東京国際映画祭の日本映画スプラッシュ部門に出品されたことで、その類いまれな才能に一躍注目が集まりました。

特に前作『走れ、絶望に追いつかれない速さで』と最新作に共通するのが、中川監督の実体験に基づく「親友の死」を巡る物語であるということ。

太賀を主演に起用した前作『走れ、絶望に追いつかれない速さで』は、まさに親友が亡くなった翌年に撮られた映画であり、その印象的なタイトルとともに、主人公のヒリヒリするほど生々しい感情が、観る者に強烈なインパクトをもたらす傑作なんです。

(C)WIT STUDIO / Tokyo New Cinema

キャスティングの決め手は、役者同士の声のハーモニー

そんな中川監督のもうひとつの特徴とも言えるのが、アニメーション映画さながら、登場人物の「声」に重きを置いているということ。

間もなく公開となる『四月の永い夢』では、3年前に恋人を亡くした27歳の元音楽教師・滝本初海が、周りの人との交流を通じて、澱のように溜まった喪失感から緩やかに解放されていく様が、郷愁を感じさせる美しい映像と、選び抜かれた「声」によって見事に表現されています。

主人公の初海役には、アニメ映画『かぐや姫の物語』(2013年)で一目惚れならぬ「一耳惚れ」した朝倉あきをキャスティング。さらに「深くてコクのある」声質ということで、彼女に恋する手ぬぐい職人の志熊役に三浦貴大を起用したというから、その徹底ぶりがうかがい知れます。

また、本作の主な舞台となるのは、東京とは思えないほどノスタルジックな雰囲気を醸し出す国立市の街並みと、幻想的な朝もやに包まれた富山県朝日町。桜と菜の花が同時に咲き誇る奇跡のような光景は、埼玉県北本市の城ヶ谷堤で撮影されたそう。

中川監督が「寅さんに登場する柴又のようなファンタジーとしての東京」を描きたかったというのも納得の、まさに昭和の面影を漂わせる不思議な世界に思わず引き込まれます。

(C)WIT STUDIO / Tokyo New Cinema

「3年前に恋人を亡くした女性」にフォーカスを当てたことで、時の経過とともに訪れる感情の変化までもが、映画のなかに封じ込められている『四月の永い夢』。中川監督の過去作品に出演している池松壮亮が、本作を評して「終わりゆく平成も捨てたもんじゃない」とコメントしているように、昭和に恋する中川監督が平成の終わりに綴った『四月の永い夢』は、失われゆく時への憧れを内包しながらも、来るべき新時代を予感させる映画であるとも言えるのです。

(文/渡邊玲子@アドバンスワークス)