文=木俣冬/Avanti Press

4~6月期のテレビドラマに思いがけない伏兵がいた。土曜ナイトドラマ「おっさんずラブ」(土曜よる11時15分~)だ。もとは2016年の年末深夜に放送されたスペシャルドラマ。上司(男)と同居人(男)に惚れられてしまった会社員(男)の思いもよらないモテキの物語は、SNSなどで話題となっていたので、今期、連続ドラマ化されたと聞き、期待はしていた。だがしかし、これほど、このドラマが群を抜いてクオリティーの高いドラマになるとは思いもよらず、自分もまだまだ甘いなと反省している。

番組の公式Instagram「武蔵の部屋」のフォロワーは、35.5万人もいる(2018年5月18日現在)というから、すごい勢いだ。

連ドラ化でパワーアップした「愛」のかたちとは?

モテない会社員・春田創一(田中圭)は、突如として、会社の部長・黒澤武蔵(吉田鋼太郎)と後輩かつルームメイトの牧凌太(林遣都)のふたりに愛されるようになり、 男ふたりから取り合われるという思いがけないモテキを経験する。スペシャルドラマのときはここまでだったが、連ドラになってパワーアップ。黒澤の妻・蝶子(大塚寧々)や、第三の男・上司の武川政宗(眞島秀和)が現れて、話が複雑になっていく。関わる人が増えたうえ、俳優陣がそろいもそろって芸達者なので、単なる三角関係のドタバタでなく、様々な愛の形が浮き彫りになった。

田中圭(右)の手当てをする眞島秀和(左)
「おっさんずラブ」土曜よる11時15分~
(C)テレビ朝日

黒澤も、牧も、蝶子も、武川も、誰も彼もが真剣に誰かを愛している。そこには異性も同性も関係ない。あるのは「愛」だけ。彼らの愛に当てられて、これまでモテたことがなく恋愛免疫が低い春田までが、徐々に内なる熱い感情をたぎらせていく。いわゆる愛の目覚めが描かれていくのだ。

“第三の男”登場で揺れる田中圭、裸のバックハグ

5月12日放送の第4話では、第三の男・武川がいやに春田に接近してきて、この人もまさか……と思っていたら、牧の元カレだったことが判明。そうするとなぜか春田は牧のことが気になりはじめ、感極まって裸でバックハグしてしまう。

思わず林遣都(左)をハグしてしまう田中圭(右)
「おっさんずラブ」土曜よる11時15分~
(C)テレビ朝日

田中圭のカラダには、ギリシャ彫刻みたいに薄くて強靭そうな筋肉がついていて、眼福。それよりなにより、これまでわりとナイーブな演技を売りにしていた田中が、こぼれそうなほど目を剥いたり、ソファにぐにゃぐにゃ横たわったりオーバーアクションしていて、それがまた達者で楽しい。しかも黒澤から「はるたん」と呼ばれている。

迫りくる吉田鋼太郎の、「はるたん」アタックだけでなく、あの手この手がそうさせるのだろうか。

心は乙女! 恋するおっさんを演じる俳優陣の絶妙なバランス

草食男子が増えたといわれる近年、吉田鋼太郎だけは異色で、強烈な色気で人気を博す貴重な俳優。相手が女性であれ男性であれ、その激しい熱情は画面からも溢れでる。今回、ベテランの吉田をもってしても、はじめての同性愛者役だというが、男性相手の乙女心を心底かわいらしく演じている。

田中圭(右)の腕にしがみつく吉田鋼太郎(左)
「おっさんずラブ」土曜よる11時15分~
(C)テレビ朝日

一方で、春田をめぐる恋のライバルの林遣都はさらっと、料理上手でしっかり者の後輩を演じてみせた。

武川役の眞島秀和は、1月期に「隣の家族は青く見える」(フジテレビ)で、クローズドゲイ(同性愛者であることを公にしていない)ゲイの男性が、苦悩もありながらパートナーとの出会いによって変化していくというデリケートな役を演じたばかり。その残像も手伝って、今回の役もハマっている。

“第三の男”武川役の眞島秀和
「おっさんずラブ」土曜よる11時15分~
(C)テレビ朝日

演技だけじゃない! ドラマを彩る遊び心にクスッ

林がつくるお料理カットも実に美味しそうで、俳優たちの演技勝負だけでも十分保つドラマだが、画にも凝っている。第4話では、全盛期の月9ドラマのようなキラキラした夜景(東京タワーもあり)を背景に、田中が吉田にふつうの上司と部下でいたいと言って、吉田が悲嘆に暮れる場面で、夜景のライトをボカしたものが、ハート(しかも割れたやつ)や涙マークになっているという遊びがあって、吉田の乙女の悲しみを増幅させていた。あれだけ夫の浮気(しかも男)に対して怒り心頭だった蝶子までもらい泣き(涙マークの背景付き)しているのも愉快。

話題になった「おまえが“俺を”シンデレラにした」シーン
「おっさんずラブ」土曜よる11時15分~
(C)テレビ朝日

演出は、なかなか攻めていた「僕たちがやりました」「オトナ高校」(共に2017年)の瑠東東一郎、脚本は、1月期の問題作「きみが心に棲みついた」(TBS)の徳尾浩司。プロデューサーは「オトナ高校」の貴島彩理。作り手も、新しい表現の可能性に挑戦を続ける人たちばかりだ。

このピュアさは今期一! 「おっさんずラブ」人気の理由

これほどまでに「おっさんずラブ」が人気なのは、純粋なものに心惹かれるからではないか。

田中圭(左)と林遣都(右)
「おっさんずラブ」土曜よる11時15分~
(C)テレビ朝日

少子高齢化の現在、経済状況もままならないのに、結婚して子どもをたくさんつくって……とプレッシャーばかり与えられ、恋愛とは国のためのものなのかとすら感じてしまうなかでは、自由で純粋な愛を追求し、カラダいっぱいで表現する「おっさんずラブ」が清々しく見える。彼らのラブが私たちを救ってくれているのだ。