文=石津文子/Avanti Press

是枝裕和監督の『万引き家族』が最高賞パルムドールを受賞して、第71回カンヌ映画祭が閉幕した。そのパルムドールを選んだ審査員団9名を率いたのが、審査委員長のケイト・ブランシェット。女優としての実力はもちろん、知性、ファッション・センス、歯切れの良い発言で知られるケイト。#MeToo運動や、#TimesUpをはじめ、ハラスメント問題や男女賃金格差など、映画界における女性の地位向上が改めて叫ばれる今年、これほど審査委員長にぴったりな人材はいなかったし、それ以外でも、“ケイト様”は最高の委員長だった。そのケイトの言動を通して、今年のカンヌを振り返ってみたい。

男女、人種、あらゆる点で多様性のあるメンバーに

長編コンペティション部門審査員団記者会見
撮影=石津文子

今年の長編コンペティション部門の審査員団は、ケイトを始め、女優のクリステン・スチュワート、レア・セドゥ、監督のエヴァ・デュバネイ、歌手のカジャ・ネイら女性が5人、男優のチャン・チェン、監督のドゥニ・ビルヌーブら男性が4名という構成。

開幕初日の審査員団会見で、男性記者が「9人の審査員団のうち、女性が過半数なのは初めてだが……」と切り出した時には、質問が終わらぬうちに「何か問題? 女性の私が委員長で、審査員は男女4人ずつ。それだけよ。ごめんなさいね!」と、痛快にぶった切った。実際には、映画祭から委員長を打診された時、「男女、人種、あらゆる点で多様性のあるメンバーにしてほしい」と要望したと付け加えているが。

演技、演出、撮影、脚本の全てを満たした映画に賞を!

今年、3人の女性監督がコンペ入りしたことに関しては「コンペでもっと女性監督の作品が見たいか? もちろん。今後、もっと増えていくかって? そう願うわ。一晩で状況は変わらないけれど、徐々に変化してきている」と答えつつ、「彼女たちはジェンダーのせいで選ばれたのではなく、作品の質で選ばれた。だから私たちも彼女らをフィルムメイカーとして評価する」とし、「男でも女でも、トランスジェンダーでも関係ないし、監督がどこの国の出身かも関係なく、あくまで作品として審査するわ。今年はトランスジェンダーの監督はいないけれど」として、多様性とは別に、公正な審査を明言。パルムドール選出の基準は、「演技、演出、撮影、脚本といった全てを満たした映画。私たち審査員だけでなく、観客の心に長く残る作品」とした。

ファッショニスタ、ケイト・ブランシェットの底力
(C)picture alliance / Geisler-Fotopress

一方、レッドカーペットが派手になりすぎではという意見に対しては、「魅力的であることが、知的であることから排除されるなんておかしい。グラマラスで歓喜に溢れたお祭であっていい。アートを作るとき、協調性を気にしたら退屈すぎるわ」と語り、ファッショニスタとしての矜持も見せた。

華やかなオープニング・セレモニーで、ファッショニスタのケイトが何を着るかも注目されたが、彼女が選んだのはアルマーニ・プリヴェの黒いレースのドレス。実はこれ、4年前のゴールデングローブ賞で、主演女優賞(『ブルージャスミン』2013年)を受賞した際に着ていたもの。レッドカーペットでは同じドレスを着ないという通例を破り、環境保護とサステナビリティ(持続性)への意識改革を無言で訴えていたのだ。さすがケイト様、やることが違う!

カンヌ映画祭長編コンペティション部門審査員団
(C)Dave Bedrosian/picture alliance / Geisler-Fotopress

ケイトの呼びかけで82人の女性映画人がレッドカーペットを歩いた

そして映画祭5日目の5月12日には、アニエス・ヴァルダ、マリオン・コティヤールら女性映画人82人によるウィメンズ・マーチを率い、レッドカーペットを歩いた。

コンペ作品が上映されるリュミエール劇場への階段にずらりと女性だけが並んだ姿は圧巻で、ケイト様は「ここにいる82人は、1946年以来、カンヌのコンペ部門の監督としてこの階段を上った女性の数を表しています。男性は1688人もいました。そして最高賞を受賞した男性は73人いるのに、女性はジェーン・カンピオンと、ここにいるアニエス・ヴァルダの2人だけです。女性は世界の少数派ではありません。でも映画界では違う。多様性と、男女平等の実現を目指して、みんなで階段を登りましょう!」とスピーチ。大喝采を浴びた。

82人の女性映画人によるウィメンズ・マーチ
(C)picture alliance / Photoshot

見えない人々(INVISIBLE PEOPLE)に声を!

そして、映画祭授賞式。アレキサンダー・マックィーンのインパクトの強いドレスで登壇したケイトが冒頭、「今年は、見えない人々(INVISIBLE PEOPLE)に声を与えた作品が多くありました。無力で、居場所もなく、期待されない、そう思われる人たちが、つながりを求め、愛を探しているのです」と語った時、思わず「おお!」と声が出てしまった。これは『万引き家族』がパルムドールを取る前振りではないかと思ったからであり、果たしてその予感は当たった。

今年のコンペ部門は、貧困で出生証明もなく働かされる子どもたちを描いた作品や、難民、移民問題を扱った作品が目立った。そんな中で、女優で監督のナディーン・ラバキー(レバノン)による『カペナウム(CAPHARNAÜM)』が審査員賞、アリーチェ・ロルヴァケル(イタリア)の『ラザロのように幸福 (Happy as Lazzaro)』が脚本賞に輝き、是枝監督の『万引き家族』が最高賞パルムドール選ばれたのは、決してそのテーマだけではない。ケイトのいう「演技、演出、撮影、脚本といった全てを満たした映画」の基準を考えても、納得の結果だと思う。

ナディーン・ラバキー監督(左)、アリーチェ・ロルヴァケル監督
撮影=石津文子

パルムドールは是枝監督の『万引き家族』へ

授賞式後の会見でケイトは、「21本の優秀な作品から1本だけを選ぶのはとても難しい作業だった。でも『万引き家族』には完全に圧倒された。役者の演技と監督のビジョンが完璧に一致していた。並外れた映画です」と絶賛。

ゴールデングローブ賞でも着用したアルマーニ・プリヴェのドレスは、背中もセクシー
(C)picture alliance / Photoshot

終わってみれば、今年はケイト・ブランシェットという並外れた人間のパワーが、カンヌ映画祭の淀みを解き放った。そんなふうに感じられた12日間だった。