文=新田理恵/Avanti Press

30歳。若い女性の多くがこの“関門”を恐がる。

5月19日公開の香港映画『29歳問題』は、30歳を目前にした正反対の個性を持つ女性ふたりが、それぞれ人生の転換点に立ち、不安を抱えながらも前に一歩踏み出そうとする姿を描く。

『29歳問題』
5月19日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー
(c) 2017 China 3D Digital Entertainment Limited
配給:ザジフィルムズ/ポリゴンマジック

クリスティ(クリッシー・チャウ)は、やりがいのある仕事を任され、オフには女友だちと集まり、長い付き合いの彼氏もいて、順風満帆に見えるキャリア美女。なのに、あと1カ月で30歳を迎えることが不安でたまらない。

突然マンションから立ち退きを迫られたクリスティは、仮住まい先としてパリ旅行中の女性ティンロ(ジョイス・チェン)の部屋を紹介される。ティンロの部屋には、ビデオメッセージと彼女の日記が残されており、クリスティはふたりが同じ日に生まれたことを知る。

レコード店でアルバイトしながら、大好きな映画や音楽、優しい友人たちに囲まれて居心地の良い20代を過ごしてきた天真爛漫なティンロ。自分とは真逆の生き方を謳歌する彼女の姿がクリスティの目に眩しくうつる。しかしティンロもまた、パリへの旅を決意させたある事情を抱えていた。

監督・脚本は、舞台女優&演出家、作家、脚本家などマルチに活躍するキーレン・パン。2005年から13年間繰り返し再演してきた演出・主演(2役)を務める舞台を自らの手で映画化し、昨年香港で大ヒットを記録。日本公開を前に来日したパン監督が、長年にわたりこの作品を演じている理由、香港女性の仕事観・結婚観などを語ってくれた。

この脚本を書いたのは自分のため!?

――『29歳問題』は、監督の代表作の舞台の映画版です。クリスティとティンロは監督と職業も背景もまったく違いますが、誰かモデルがいるのですか?

モデルはいません。役者として両極端な役を演じてみたいと思って、自分のために脚本を書きました。香港演芸学院(香港の名門芸術大学)演技学科時代の同級生からよく「あなたはOLそのもの」って言われるのですが、普段の私はラフで気楽な感じなので、そんな自分の両面を演じてみたかったんです。

『29歳問題』
5月19日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー
(c) 2017 China 3D Digital Entertainment Limited
配給:ザジフィルムズ/ポリゴンマジック

――同級生は監督のどんな部分がOLっぽいと?

中学・高校と香港の伝統ある女子校に通っていて、きちんと、整然としていることが好きだったんです。ところが演芸学院に行くと、みんなサンダル履きだし(笑)、テキトーな学生が多くて入学当初は正直あまり馴染めませんでした。私は裸足になるのがイヤだったのに、最初の授業から「靴を脱いでやりましょう」と言われて泣きたくなりました。今となっては、裸足で町を歩くのも平気ですけど(笑)。

――この舞台の初演時、監督は30歳。「どうしよう! シワができた」「はやく結婚しなきゃ」など、劇中のクリスティのような焦りはありましたか?

私自身は、早く結婚したいと思っていませんでしたが、まわりには「年を取りたくない」「早く結婚しなきゃ」と話している女性が多かったですね。

――日本でも30歳が近づくと、結婚やキャリア設計で焦ったり迷ったりする女性が多いです。香港でもそうですか?

以前よりそういう人は少なくなった気がします。晩婚化と関係があるのかも。いまは34、35歳でも結婚は遅くはないと言いますね。医療も進歩して、高齢出産も可能になりましたし。

恐怖を感じる理由とは?

――「30歳」という区切りにとらわれ、恐がる女性が多いのはなぜだと思いますか?

数字的なところが大きいのではないでしょうか。「2」から「3」になるのは、人生におけるひとつの“関門”をくぐる感覚で、いろいろ見直したくなるのだと思うんです。「30歳になった私は一体何を持っているの? お金なの?」「時間がどんどんなくなっていく……」って、そんなふうに感じてしまうのではないでしょうか。

『29歳問題』
5月19日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー
(c) 2017 China 3D Digital Entertainment Limited
配給:ザジフィルムズ/ポリゴンマジック

——舞台の初演(2005年)から13年。たとえば「34歳問題」とか「39歳問題」とか、“その後”も書こうと思えば書けたはず。ずっと『29歳問題』を演じ続けてきたのはなぜですか?

たしかに「30」という数字は面白い節目ではありますが、たまたま私がこのお芝居を書いた時が30歳だっただけで、クリスティたちが味わう喪失感や挫折は、30歳特有の問題ではなく、人生のどの段階でも直面し得るものだと思うのです。外見の変化をのぞいて、大きく変わっていくことといえば、問題の感じ方や考え方だけではないでしょうか。

『29歳問題』
5月19日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー
(c) 2017 China 3D Digital Entertainment Limited
配給:ザジフィルムズ/ポリゴンマジック

――監督の話を裏づけるように、この映画は香港で幅広い層の観客から支持されたとうかがっています。

20代、30代の女性からの反響が大きいのは予想していましたが、年配の方にも気に入っていただけたことは想定外でした。上映後に舞台挨拶をおこなったとき、三度目を観てくださったという78歳のおばあちゃんとお話したんです。「この映画が好き。クリスティは自分の若い頃そのもの」だと言ってくれて感動しました。

香港女性が強くなった理由とは?

――香港は昔から男女共働きが当たり前で、日本よりずっと女性の社会進出が進んでるイメージがあります。78歳の女性がクリスティを自分の若い頃と重ねるということは、女性の働き方という面で、今も昔もそれほど変わっていないのでしょうか?

香港の女性は独立心が強く、気が強いと言われますが、これには理由があります。まず、香港は、家賃は非常に高いし、暮らしの面では生きていくのに容易な場所ではありません。みんな少しでも広くていい環境の家に住みたいから一生懸命働きます。これって、生活のなかで最低レベルの欲求ですよね。夫の稼ぎだけでは足りないので、妻も働く。シングルの女性も同じで、一生懸命働く。こうした環境も関係して、香港の人たちは長時間働かざるを得ないんです。昔も今もたぶん変わっていないと思います。

『29歳問題』
5月19日(土)より、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー
(c) 2017 China 3D Digital Entertainment Limited
配給:ザジフィルムズ/ポリゴンマジック

――いい生活を目指して頑張れば報われる“勢い”が今の香港の社会にあるのでしょうか? とくにクリスティたちのような若い世代はどうでしょう。

どんなことにも言えますが、保証はないですよね。私はその人がバリバリ働きたいのであれば、それはそれでいいと思います。

香港ではよくこういう言い方をします。70年代生まれはとても我慢強くて、懸命に働く。クリスティのような80年代生まれは、たとえば親世代が家を買ってくれたりして、既にいろいろなものを築いてくれたあとなので、汚い仕事やツラい仕事はやりたがらない。もちろんすべての80年代生まれに当てはまるわけではないですが、「早く有名になりたい」「お金持ちになりたい」と近道を好むと言われています。一夜で有名になって稼げるから、芸能界に入りたいというのも若い人の間でよく聞く話です。

キーレン・パン監督 撮影=谷岡康則

――この3~4月、香港で久しぶりに舞台版の再演がありましたが、若い女性が大勢劇場に詰めかけている光景が印象的でした。創作活動にあたっては、若者の声を取材することもあるのですか?

取材はしませんが、インスタグラムで舞台や映画の感想をフィードバックしてくれるなど、SNSでメッセージを送ってくれる人が多いです。これまで何本も女性目線の一人芝居をつくってきたので、悩みや問題を抱えた女性からたくさんメッセージをいただくようになりました。

――教祖みたいな存在ですね(笑)。

女性の皆さんから、親しみやすい、話しやすいと言っていただいています(笑)。