ツイードのセットアップに、肩まで伸ばしたロングヘアがトレードマーク――そんなこだわりのファッションからも、独特の美的センスが窺えるウェス・アンダーソン。映画のセンスだってもちろん抜群で、キュートかつ風変わりな映像は、世の映画ファンを虜にしているのです。そして彼は、「ちょっと変態?」と疑うほど偏愛的なこだわりを持つ“偏執おじさん”でもあります。今回は知れば知るほど怖くなる、“狂気の映画監督”ウェス・アンダーソンの魅力に迫ってみたいと思います。

(C)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation

左右対称、俯瞰ショット、愛ゆえにこだわりまくる驚きの画作り!

ウェス・アンダーソン作品を何本か観たことがある人ならピンとくるかもしれませんが、最大の特徴は同じことをひたすら繰り返すことで生まれる奇抜な映像にあります。対象を真上からとらえた俯瞰ショットや、動くものにピタリとくっつくように平行移動するカメラワーク、ワンカットでの長回し、ズームインにズームアウトなど、挙げだすとキリがないほど同じような映像のオンパレード。

中でも印象的なのが、左右対象にデザインされた画作りです。両開きの窓を開く時には、扉のセンターが画面の中央に来るようにといった具合に、ほぼすべての作品で、画面上に写るものをシンメトリーに配置しています。彼の映像の中央に点線を引き、どれだけ左右対称なのかを検証した動画が作られるほど、彼の徹底ぶりはファンの間でも有名です。

(C)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation

題材は常に大人と子ども。ストーリーにもこだわりが満載!

ウェスの偏執的な部分は、画作りだけに限ったことではありません。彼の映画はストーリーにも特徴があり、必ずと言っていいほど大人と子ども、父親と息子の交流が描かれています。

例えば、初期の傑作『天才マックスの世界』(1998年)では、主人公の高校生マックス(ジェイソン・シュワルツマン)と会社社長のハーマン(ビル・マーレイ)が、1人の女性教師を巡って恋のバトルを繰り広げ、『ライフ・アクアティック』(2004年)では、傲慢な海洋探検家ズィスー(ビル・マーレイ)と、認知していなかった彼の息子ネッド(オーウェン・ウィルソン)との交流が描かれます。

これらの映画でおかしいのが、子どもは大人びているのに、大人は子どものように振る舞うというところ。『天才マックスの世界』のハーマンが恋敵であるマックスの自転車をボッコボコにするのに対し、マックスはハーマンの不倫を妻にバラすといった策略を巡らし、子どもとは思えぬいやらしさで応戦。また『ライフ・アクアティック』では、突如現れた息子に一喜一憂するズィスーと対照的に、ネッドは冷静に関係を築こうとしていきます。

(C)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation

エッセンスましまし!最新作ではウェスの狂気が大爆発

彼の偏愛的なこだわりは、最新作『犬ヶ島』(5月25日公開)でも炸裂しています。日本を舞台に、「犬インフルエンザ」の蔓延によって離島に隔離された愛犬を探す少年・小林アタリと、島の犬たちが繰り広げる冒険をストップモーションアニメで描いた本作。自由に映像を描くことができるアニメの利点を活かして、風景はいつも以上に左右対称。犬が右に動けば、次のシーンでは左に動くなど、その動きまでも対象になっており、数段パワーアップしているのです。

さらに、ストーリーにもウェス監督の特徴が多数みられます。アタリ少年の愛犬が離島に隔離されてしまったのは、政治家である父が犬を市内から追っ払う政策を通したから。そんな父に反発し、犬を認めさせようとアタリ少年は奮闘します。ウェス監督のセオリー通りの、大人と子どもの関係が描かれていますが、アタリ少年を守るためなら命すら投げ出す覚悟の愛犬、そんな愛犬を心から慕うアタリ少年という風に、犬と子どもの関係までも親子を彷彿とさせるものになっていて、これまでの作品以上に彼の特徴が出ています。

自分のこだわりを突き詰め続けるウェス・アンダーソン監督。少し風変わりな世界観にも関わらず、多くの人に彼の作品が受け入れられているのは、不器用なまでにこだわりを貫くその真摯な姿勢が、映画から溢れ出ているからなのかもしれません。

(文/ケヴィン太郎・サンクレイオ翼)