文=まつかわゆま/Avanti Press

5月13日午後10時30分(現地)から始まったカンヌ映画祭での『万引き家族』の公式上映。日曜日のソワレは、映画祭が用意する最上級の上映時間帯である。そして、上映終了後。クレジットがあがり始めた直後から、メイン劇場リュミエールに詰めかけた人々の拍手は温かかった。

「まだできたての作品なので、直したいところはないかと確認しつつ見ていたのですが(笑)、拍手が温かくてホッとしました。(カンヌ映画祭への参加が)7回目でもこの緊張はかわりませんね」と、是枝裕和監督はこの時の気持ちを記者会見で語った。

血のつながりだけが家族の絆なのか?

『万引き家族』は是枝監督の14本目の長編劇映画。年金暮らしの“おばあちゃん”の家で“父”“母”“子ども”“孫娘”が暮らしている。“父”とまだ小学生くらいの“息子”は生計を万引きで助けていた。ある晩、“父”は近所のアパートのベランダに締め出されていた幼女を家に連れ帰る……。

(左上から)松岡茉優/リリー・フランキー/安藤サクラ
佐々木みゆ/樹木希林/城桧吏
Photo by Emma McIntyre/Getty Images

「もし日本でこの“家族”のことが報じられれば、“犯罪者”と紹介されるだろうし、僕もそう認識すると思う。けれど彼らが“家族”として過ごした日々には、ニュースだけでは伝わらないエモーション……においとか、光とか、喜怒哀楽があると思うのです。それを描きたいと思いました。そこには彼らを断罪する側が定義する、家族とか共同体の在り方が映し出されてくるのではないかとも考えました。

ここ数年、家族というものについて描いてきました。そして血のつながりだけが家族の絆なのか、と問いかけてきました。現代の日本社会と摩擦が起きてしまうような“家族”について、きちんと描こうと家族の側に寄って描いてきたのですが、今回は社会の方に寄ってみようと思い、社会によって切り裂かれていく家族を描きました。

この“家族”を構成するメンバーは、そういう“現在の常識的な家族や社会”から捨てられた人、また関係を作ることに失敗した過去のある人です。彼らは意識的にその関係をやり直そうとしているのです」と是枝監督。

是枝裕和監督
Photo by Emma McIntyre/Getty Images

「到着してから一日10数件ペースで、海外メディアのインタビューを受けました。その中で三人ほど“自分は養子だが”と話してくれる取材者がいて、血はつながっていないけれど“家族”であること、その根底に流れている人間同士の関係というものの普遍性について、自分が悩んできたことや感じてきたことがこの映画に描かれていたように思うと話してくれました。特殊な関係の“家族”を描いたけれど、それが普遍的なものとして届き、スクリーンの向こうに自分を見いだした人がいるんだな、とうれしく思いました」。

『そして父になる』(2013年)に続いてカンヌ映画祭に参加したリリー・フランキーもいう。「日本って“様式美”を求めるでしょう。形をね。それが崩壊するのではないか? といま心配しているところですよね。でも、血のつながらない家族とか、法的な形を取らない事実婚とか、ヨーロッパでは当たり前」。

是枝監督はなぜ“家族になろうとする人々”を描くのか?

“正しく”“美しく”“望むべき”家族像を規定していこうとする現在の日本社会に対して、『誰も知らない』(2004年)、『そして父になる』などの是枝監督作品は疑問を投げかけてきた。『誰も知らない』から14年。監督自身が家族を持ち、子どもを持ち、その成長を“父”として見つめながら作品を作ってきた。是枝監督はプライベートなことを語らないが、作品のテーマは監督自身の家族の変化とも通じているのではないか。

母親は出産とともにその子が自分の子どもであることを確信できる。父親は“父になる”努力が必要だし、そのために何か自分とのつながりを見出そうとする。

第71回カンヌ国際映画祭での記者会見
撮影=まつかわゆま

今回の『万引き家族』は、さらにもう一歩踏み込む。母親だって、産めば母親になるわけではないのだと。いや、親になるということは、むしろ子どもの側から選ばれるものなのかもしれない。

「僕は自分の感情を登場人物と一体化させてはいません。この家族は、社会の側に身を置いていることを忘れてしまっている僕らに対して、僕らにはできない濃密なつながりを万引き(犯罪)を通して作っています。

しかしつながりはやがて壊れます。それはどこの家族にも、親子にもあることで、ある時子どもは尊敬していた父親がたいした存在ではないことに気づくわけです。それこそが子どもの成長の証し。この家族の場合、“息子”の成長が、家族がばらばらになるきっかけとなります。“息子”に家族解体の責任を背負わせたわけです」

それが、成長であり、自立である。責任を負わず、自立を先延ばしにしたがる人の多い日本で、“家族”でいるということは大仕事だ。

アンコールのような拍手と星取り最高点!

自立した個人が確立され、新たなる家族(コミュニティ)を作らなければ、社会は拡大せず、継続させることは難しくなる。

個人が確立し、新たなるコミュニティが機能していってこそ、成熟し、自立した、民主主義社会が保たれるのだ。

第71回カンヌ国際映画祭での公式会見
Photo by Pascal Le Segretain/Getty Images

公式上映後、スタンディングオベーションを送った観客は、席を立つ是枝監督らを引き止めるかのように拍手を送り続けた。それはまるで、“アンコール”を求める拍手のように感じられた。

翌日、会場で配られる日報誌「SCREEN」を確認すると、『万引き家族』は星取り表の最高点である3.2を獲得していた。